彼と彼女の365日

如月ゆう

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November

11月13日(水) 最終兵器先生

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 水曜日。
 今日も今日とて翔真は欠席しており、これで三日連続となる。

 しかし、それはあくまでも土曜日の大会で姿を現していることを知っている俺だからこそ言える事実であり、学校的には四日連続の欠席。

 ただの体調不良だとそれほど気にしていなかった一般生徒たちも、そろそろ心配と噂を始める頃合いになっていた。

「…………そら」

「どうした、かなた?」

 そして、その状況は俺たちにも当てはまる。
 疲れたような、呆れたような、そんな表情を浮かべて話しかけてきた我が幼馴染は、俺の机を枕に頭を預けると、自身の背後を指差した。

「……詩音が、ダメそう」

 言われた方向へと視線を向けてみれば、そこにはスマホの画面をジーっと見つめている菊池さんの姿がある。
 背後から覗く形であるために分かることだけど、メッセージアプリを開いているようだ。

「何アレ、翔真からの連絡でも待ってんの?」

「……ん、多分」

 適当な推測を口に出してみれば、頷かれた。
 どうやら、当たったらしい。

「……でも、昨日に送ったメッセージ以降、畔上くんから返信は来てないっぽい。それなのに、休み時間になるたびにスマホを取り出して確認してる」

 あぁー……なるほど。それは確かにダメなやつかも……。
 ……何か、ヤンデレっぽくて。

「だから、何とかして」

「――って言われてもなぁ……」

 無茶ぶりにため息を吐く。
 要は翔真のことが心配すぎてああなっているわけで、彼の様子を確かめることができれば一件落着となりそうな課題だ。

 しかし、昨日の感じからしてみてもお見舞いに行く方法は望み薄……。
 となれば――。

「――仕方ない。最終兵器に頼るか」

「……最終兵器?」

 考えをまとめ終え、そう呟けば、かなたは反応した。

「そう、最終兵器。俺の知り合いの中で、一番地位のある人。その人に、翔真のことを聞こうと思う」

「――蔵敷くん、誰それ?」

 なので、補足で説明を加えてやると、突如として会話の乱入者が現れる。

「うぉっ……! びっくりした―……」

「……詩音、いつの間に」

 気が付けば、すぐ横に菊池さんが立っていた。

 位置の関係で彼女の顔が電灯の影となり、目だけが見えてて怖い。
 何なら、影になっていなくても怖い。忍者かよ、暗殺されるかと思ったわ。

「ご、ごめんなさい……。それで、誰なの?」

 謝りながらも、引かず、再び尋ねる菊池さん。
 よほど気になるようだ。

「あぁ、それは――」

 そんな折、教室後方のドアがカラカラと開く。
 つい音につられて目を向ければ、そこには件の最終兵器さんがいた。

「――あ、そらくん。畔上くんについて、少しお話いいですか?」


 ♦ ♦ ♦


「……それで、なぜ二人まで来たんですか? かなたさん、そして菊池さん」

 場所は移って、特別教員室。
 余計な者が付いて来ているという事実に、怖い方の笑みを浮かべながら三枝先生は問いかけた。

「……そらがいるから」
「しょ、翔真くんの話と聞いて……!」

 それに対して、物怖じしない少女二人。
 大した理由でもない理由を堂々と即答する姿に、先生はため息を吐く。

「はぁ……まぁ、いいでしょう。それで、そらくん。畔上くんの欠席について、何か聞き及んでいることはありますか?」

「さぁ……特には」

 そして、一方の俺もまた、投げられた質問をたった一言で一蹴した。
 手持ち無沙汰に後ろに組んでいた腕を持ち上げ、肩を竦める。

「そう……ですか…………」

 先生の声は硬い。

「……実は、受ける欠席の連絡は全て、彼の携帯からかかってきているのです」

「…………………………………………」
「…………………………………………?」

「…………私が何を言いたいのか、分かりますか?」

 微動だにしない者、虚空をボーっと見つめている者、首を傾ける者。
 三者三様の姿を前に先生が尋ねると、菊池さんは大きく顔を横に振った。

「わ、分かりません」

「……そらくんは?」

「まぁ……固定電話じゃなく携帯――それも本人からってのは、ズル休みの鉄板ですね」

 俗に言う、学校に行ったフリをして出かけ、外から連絡を入れるアレ。
 そう推測してみせれば、先制もまた同じ考えのようで黙って頷く。

「えぇ……もちろん出歩くことが困難で手元の携帯を利用した可能性もありますし、お仕事が忙しくて電話の相手が親御さんではないだけなのかもしれませんが……」

 あの、人の良さそうな翔真のお母さんに限ってそれはない――だろうな。

 シンクロする思考に重く息を吐くと、後ろで話を聞いていた菊池さんは理解できない様子で声を上げる。

「えっ、でも翔真くんが何で……?」

「そうなんです、私にもそれが分かりません。あの品行方正な畔上くんが授業怠慢だなんて……」

 優等生としてのイメージに引っ張られているのだろう。
 どうにも二人は困惑しているようだ。

「それに、高校は義務教育ではありません。今はまだ単位の心配もありませんし、きちんと連絡が取れている以上、教師は深く立ち入ることができないのです。だから、私は敢えてもう一度聞きます」

 その瞳が、真っ直ぐに俺を捉えた。

「そらくん、何か知っていることはないんですか?」

 何かを確信しているような問い。

 ……まぁ、元から頼むつもりだったし別にいいか。

「一応、何となくは。……ただ、詳しい話は知らないです。なので、先生にお願いがあります」

「…………? はい、何でしょう?」

「――翔真の通った小・中学校の情報。それと、当時の担任の先生に話を聞く機会を用意してください」
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