彼と彼女の365日

如月ゆう

文字の大きさ
上 下
238 / 284
November

11月12日(火) 欠けた学園生活②

しおりを挟む
 一日明けた火曜日。
 今日になっても翔真は学校に来なかった。

 朝のSHRショートホームルームで、三枝先生から「体調不良により欠席」と報告されたこと以外には情報がなく、昨日と同じ、妙に静かな空気感を孕んだ一日を過ごしていく……。

 ――というわけでもない。

 一般生から見れば、金曜日、月曜日、そして今日と翔真は三日連続で休みを取っており、部員からしてみても唯一姿を見せた土曜日の大会で彼の調子の悪さを知っているために、至る所で心配の声が上がっていた。

 それはもちろん、恋する少女こと菊池さんにも同じことが言えるようで、休み時間である現在、彼女は翔真のお見舞いに行こうかとあれこれ画策していた。

「やっぱり、様子を見に行った方がいいんじゃないかな……?」

 不安げな様子を隠しきれず、そんなことを提案する菊池さん。

「いやぁー、それはどうだろうか……」

 一方の俺は、言葉を濁して否定の声を上げてみる。

「もし風邪とかだったら、アイツは人に伝染うつすのを嫌うだろうし止めといた方がよくない?」

 ……などと、それっぽいことを言ってみたりするが、本心はそこにはない。

 なぜ、止めるのか。
 理由は偏に、翔真の休んでいる原因が体調不良ではないと睨んでいるからだ。

 きっかけは偶然だった。
 大会当日の観客席にいたとき、何気なく翔真の見ている方向を俺も向いてみると、その先にはやかましそうな男女の学生グループがいた。
 そして、中には先週から現れた二人組の他校生の姿もあったのだ。

 国立から、翔真に絡む謎の集団グループがいたと情報を受けたが、おそらくはそいつらのことを指しているのだろう。

 だとすれば大体の辻褄が合うし、だからこそ今はまだ様子を見るべきだと俺は思う。
 原因は精神的なものなのだから。

「そ、それはないと思うよ」

「……何で?」

「た、大会の日にね……無理して来たんじゃないかって、監督と二人で翔真くんに話を聞いたの。だけど、休んだ理由は風邪などの病気じゃないって言ってたし、念のため体温を測ってみたんだけど平熱だったから、その可能性は低いかな……って」

 けれども、それを知らない菊池さんは冷静に、論理立てて俺の行くべきでない理由付けを反証してみせた。

「……じゃあ、アレだ。部屋の片付けも碌にできていないのに、急に来られても困るだろ」

「翔真くんは、その辺りもしっかりしてそうだけど……」

「いやいや、アイツも男だぞ? いたいけな男子高校生だぞ? 人に見られて嫌なものの、一つや二つあるに決まってるだろ。察してやれよ」

 我が儘を言う子供を窘めるように、そう暗にほのめかしてあげると今度は先ほどの様子とは打って変わって、顔を真っ赤に燃え上がらせる。

「しょ、翔真くんはそういうの持ってないもん……!」

 はっはっは、それは幻想を抱きすぎというもの。
 ……まぁ、そういうブツはそもそも親にバレたらアウトなため、一も二もなく真っ先に隠してるんだけどな。

「……それを言うなら、蔵敷くんはどうなの?」

「…………ん? 何が?」

 妙な矛先の変化に、俺は首を傾げた。

「かなちゃんがよく遊びに行ってるみたいだけど……そ、そういうのを片付けるために毎回困ってるの?」

「あぁ、それは――」

 などと答えようとすれば、その前に横やりが入ってくる。

「……ん、そらはそもそも隠してない。パソコンの左にあるラックの、一番下の引き戸に――」

「――それはもちろん、誰が来てもいいようにいつでも部屋を綺麗にしてるに決まってるよな! 常識と嗜みってやつだ!」

 そんな声をかき消すように、テンションを振り切らせて力の限り宣言してみせた。

「……へ、へぇー…………そうなんだ」

 この冷たい瞳……。
 どうやら俺の悪足搔きは無駄に終わってしまったらしい。

「……でも、常識と嗜みなら翔真くんもきっと問題ないよね」

 そして、俺の馬鹿。
 自分で自分の論理を破綻させてどうする。

 はぁ……仕方ない、最終手段を使うか。

「ていうか、そもそも先に翔真に断りを入れたら?」

「あっ……それもそうだね」

 たった一言。
 それだけで納得した菊池さんは、鞄からスマホを取り出すとメッセージアプリを開く。

『今日、皆でお見舞いに行こうと思っているんだけど……具合はどうですか?』

『大丈夫、ありがとう。お見舞いは必要ないから、来なくていい』

 そんな、予想していた返信が来たのは送ってから二十分後――お昼休みが終わろうとする頃合いだった。
しおりを挟む


こちらも毎週火曜日に投稿しておりますので、よければ。
ファンタジー作品: 存在しないフェアリーテイル

以下、短編です。
二人のズッキーニはかたみに寄り添う
神の素顔、かくありき
彼女の嘘と、幼き日の夢
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

うわべに潜む零影

クスノキ茶
青春
資産家の御曹司でもある星見恭也は毎日が虚ろに感じていた とある日、転校生朝倉陽菜と出会う。そして、そこから彼の運命は予測不可能な潮流の渦に 巻き込まれていく事に成る。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...