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November
11月9日(土) 新人戦・県大会・一日目①
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始まった県大会。
その開会式も終わり、今は各々の学校が銘々に体を温めている。
「翔真、大丈夫なのか? 昨日は学校を休んでいたが……」
そんな中で話しかけてきたのは、同じ部員であり、メンバーでもあり、親友のそら。
体調不良ということで学校に行かなかった俺を心配してくれているようだ。
「あぁ……問題ないよ」
けれど、そんなものは休むためのただの言い訳に過ぎない。
いや、正確なことを言えば精神的な面で調子は悪かったわけで、あながち嘘ということでもない。
ただ別に出歩けないというほど重大でもなく、それ以上にまたアイツらと出会すことの方が嫌だったために休んだだけ。
だから俺は、強気にそう笑ってみせた。
体調は問題ないと、そう伝えるために。
「そうか……なら、良いんだ」
ともすれば、彼も納得したようですぐにアップへと戻る。
跳ねるシャトルの音。室内シューズの擦過音。
黙々と、ただ静かに練習が進む会場ではあるが、その中には確かに闘志が秘められていた。
県大会、一日目。
その始まりである。
♦ ♦ ♦
今日行われるのは三回戦まで。
出場チームは全部で三十二校であるため、それはすなわち準々決勝ということでもある。
しかし、夏の大会とは違い、九州大会に進むことのできるチームは上位二校。
今日勝ち抜いたところで、まだ安心はできない……厳しい戦いが待っていることだろう。
そんな中でも順当に勝ち抜いた俺たちは、ダブルスⅠ・Ⅱ、シングルスⅠの三戦だけで二度の戦いに勝利し、俺やその先のシングルスⅢまで回ることなく、無事に今日の最終戦に挑もうとしていた。
とはいえ、その前には当然のように空き時間が存在する。
試合をするのは俺たちだけではない。
また、団体戦は男女別であるため、女子の試合も並行して行われる。
となれば、実は試合時間よりも観戦時間の方が長く、それまでは軽食を摘んで身体のエネルギーを切らさないようにしたり、逆に食べ過ぎて動けない……なんてならないように気を付けなければならないのだ。
また、他校の試合状況を見ていればそれだけ新鮮なデータも得られる。
全ては、ベストコンディションで戦えるように。
この一見すると休憩といえる時間から、すでに勝負は始まっているのである。
だがしかし、勝負にアクシデントは付き物。
何気なく試合会場を眺め、観客席を眺め、そして見つけてしまった。
「な、何で……アイツらが……」
反対側の客席――その一角に、一昨日の二人組が座っている。
しかも、それだけではない。他にも男女で複数名……嫌な意味で見知った顔の人ばかりが集まっている。
「何だ? どうかしたのか、翔真?」
「い、いや…………何でもない」
そらの言葉に、慌てて頭を振った。
……きっと、俺を笑いに来たんだ。
あわよくば、昔のことを暴露するんじゃ……。
そんな予感ばかりする。
「…………ならいいんだが」
だから、そんなそらの呟きを俺は殆ど聞いていなかった。
そして、時は回る。
残酷に、無慈悲に、止まることなどなく……。
気が付けば、もう最終戦。
その相手は国立亮吾の率いる学校だった。
その開会式も終わり、今は各々の学校が銘々に体を温めている。
「翔真、大丈夫なのか? 昨日は学校を休んでいたが……」
そんな中で話しかけてきたのは、同じ部員であり、メンバーでもあり、親友のそら。
体調不良ということで学校に行かなかった俺を心配してくれているようだ。
「あぁ……問題ないよ」
けれど、そんなものは休むためのただの言い訳に過ぎない。
いや、正確なことを言えば精神的な面で調子は悪かったわけで、あながち嘘ということでもない。
ただ別に出歩けないというほど重大でもなく、それ以上にまたアイツらと出会すことの方が嫌だったために休んだだけ。
だから俺は、強気にそう笑ってみせた。
体調は問題ないと、そう伝えるために。
「そうか……なら、良いんだ」
ともすれば、彼も納得したようですぐにアップへと戻る。
跳ねるシャトルの音。室内シューズの擦過音。
黙々と、ただ静かに練習が進む会場ではあるが、その中には確かに闘志が秘められていた。
県大会、一日目。
その始まりである。
♦ ♦ ♦
今日行われるのは三回戦まで。
出場チームは全部で三十二校であるため、それはすなわち準々決勝ということでもある。
しかし、夏の大会とは違い、九州大会に進むことのできるチームは上位二校。
今日勝ち抜いたところで、まだ安心はできない……厳しい戦いが待っていることだろう。
そんな中でも順当に勝ち抜いた俺たちは、ダブルスⅠ・Ⅱ、シングルスⅠの三戦だけで二度の戦いに勝利し、俺やその先のシングルスⅢまで回ることなく、無事に今日の最終戦に挑もうとしていた。
とはいえ、その前には当然のように空き時間が存在する。
試合をするのは俺たちだけではない。
また、団体戦は男女別であるため、女子の試合も並行して行われる。
となれば、実は試合時間よりも観戦時間の方が長く、それまでは軽食を摘んで身体のエネルギーを切らさないようにしたり、逆に食べ過ぎて動けない……なんてならないように気を付けなければならないのだ。
また、他校の試合状況を見ていればそれだけ新鮮なデータも得られる。
全ては、ベストコンディションで戦えるように。
この一見すると休憩といえる時間から、すでに勝負は始まっているのである。
だがしかし、勝負にアクシデントは付き物。
何気なく試合会場を眺め、観客席を眺め、そして見つけてしまった。
「な、何で……アイツらが……」
反対側の客席――その一角に、一昨日の二人組が座っている。
しかも、それだけではない。他にも男女で複数名……嫌な意味で見知った顔の人ばかりが集まっている。
「何だ? どうかしたのか、翔真?」
「い、いや…………何でもない」
そらの言葉に、慌てて頭を振った。
……きっと、俺を笑いに来たんだ。
あわよくば、昔のことを暴露するんじゃ……。
そんな予感ばかりする。
「…………ならいいんだが」
だから、そんなそらの呟きを俺は殆ど聞いていなかった。
そして、時は回る。
残酷に、無慈悲に、止まることなどなく……。
気が付けば、もう最終戦。
その相手は国立亮吾の率いる学校だった。
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