彼と彼女の365日

如月ゆう

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November

11月6日(水) 来訪者の正体

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「――昨日は大変みたいだったね」

 次の日。
 いつも通りに登校し、朝補習を受けたあとの休み時間。

 席を立った翔真は、わざわざ俺の机まで寄って話しかけてきた。

「ん? ……あぁ、大したことじゃない」

 一瞬、目的語がなくて分からなかったが、恐らくあのやってきた二人組のことを指しているのだろう。
 あれだけ騒いだのだ。噂になってもおかしくはないし、翔真の耳に届いているのも納得というもの。

「けど、二度も他校の人から生徒を守るだなんて、そらも中々やるな」

「また、大袈裟な……」

 茶化すように告げられる言葉に、俺はため息を吐いた。
 かなたの件も、菊池さんの件も、守るなんて呼べるほど高尚なものではない。

 前者は、単に自分のケジメをつけただけ。
 後者は、情けなくも大声を上げただけ。

 もっとスマートに、それこそ少年漫画の主人公のような立ち居振る舞いを『守る』と呼ぶべきだろう。

「それよりも、大丈夫か? 昨日の二人組、詳しくはは知らないがお前のことを尋ねてきたらしいぞ」

「俺を……?」

 突然出た自分の名前に首を傾げる翔真。
 その反応に俺は頷く。

「まぁ、その様子じゃ心当たりはないようだけど……気を付けておけよ。テレビ絡みのアンチかもしれない」

「まさか。学生だったんだろ?」

「だからって、否定する理由にはならないだろ。テレビを見たソイツらの彼女が翔真に惚れて、別れ話になった――なんて、有り得そうな話だ」

 可能性は捨てきれない、とばかりに雑推理を披露してみせれば、冗談とでも受け取られたのか、肩を竦められるのみ。

 ……あながち間違ってはいないと思うんだけどなぁ。

「ま、アレだ。向こうも制服だったわけだから、どこの学校か分かれば、もう少し手は打てたんだけどな」

 だが生憎と、そんな趣味は持ち合わせちゃいない。
 附属大学の方から警備員を増やしてもらえるらしいし、それで事が収まれば――。

「――た、多分『立岩高校』じゃないかな……?」

 そんな折、横から話に参加してきたのは菊池さんである。

「立岩……って、どこ? 翔真、知ってるか?」

 聞き覚えのない学校だ……ということは、ウチとは別学区の高校のはず。
 故に、翔馬に聞くため向き直ってみた。

「――――っ! …………あ、あぁ……一応は」

「…………へぇー、さすが詳しいな」

 反応――にしては、少し不可思議な驚き方をする翔真。
 その様は、見ようによっては狼狽えているようでもある。

「にしても、よく分かったな菊池さん。どこ学区なんだよ……」

「えっと……確か第十二学区だったはず……。ち、中学のときに高校の制服紹介本みたいなのがあったから、覚えてたんだ」

 ……なるほどな。
 にしても、十二学区ってどこだよ。ウチが四学区だから、遠いということだけは分かるけど……。

「ていうか、女子ってそういう所あるよな。制服を学校の決め手にしたり」

「……私は、別に」

 せっかく、女子の受験あるあるで話を盛り上げようとしてみれば、しかし、かなたの突然の発言によって否定される。

「おい、お前も女子だろ……」

「あはは……かなちゃんは違うところが決め手だったんだよ、きっと」

 笑う菊池さん。
 のんびりさの変わらないかなた。

 いつの間にか話は逸れて、和やかなムードが続いてく。

 そんな中、いつまでも表情が固いままの翔真を俺は密かに気にしていた。
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