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November
11月5日(火) 招かれざる者の来訪①
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それは、秋も深まり肌寒くなってきた、ある放課後の出来事。
菊池さんは一足先に部活に向かい、逆に翔真は用事があるということで、かなたと二人で部室へと足を運んでいた――そんな折である。
「…………そら、あれ」
急に袖を引かれれば、かなたはある一点を指差した。
そこにはいつも通りのジャージ姿をした菊池さんがおり、見知らぬ学生らに詰め寄られている。
服装からしても、明らかにウチの生徒ではない。
「――ねぇ、知ってるんでしょ? 教えてくんないかなー」
「ていうかさ、一緒にお茶なんてどう? 俺たちが奢るからさ、そこで話を聞かせてくんない?」
「や、やめて…………!」
何やらただならぬ雰囲気のよう。
面倒事にため息をつき、頭を掻けば、俺は隣の幼馴染に指示を出した。
「おい、かなた。ちょっと先生を呼んで――って、もういねーし……」
しかし、居るはずの彼女は見当たらない。
前へ向き直せば、いつの間にか菊池さんの元へと駆けている。
「……怖がってるから、離れて」
そうして庇うように前へ出たかなたは、両目を広げて開口一番にそう言った。
「君、誰? その子の知り合い?」
「おっ、でも可愛いね。どう? そっちの子と一緒にお茶でも……」
「――私に、触るな」
ヘラヘラと笑いながら伸ばされた相手の手を、虫でも払うかのように打ち落とす。
その瞬間、空気がピリつく。
「…………何すんの?」
「俺ら、ちょっと聞きたいことがあっただけなんだけどなぁ……」
より一層危ない雰囲気になったことを察し、早足で駆けつければ、先制で一発チョップを繰り出した――かなたの頭に。
「勝手に飛び出すな、アホが」
「…………痛い。殴るなら、あっち」
「手を出してきてないヤツ相手に、先に手を出せるかっての……」
再びため息を吐き、二人を背中側へ退かせたら、俺は無礼な来訪者たちに向き直る。
「アンタ誰?」
「関係ない奴は引っ込んでろよ」
いかにもなチンピラの台詞に、込み上げる笑いをグッと抑えて俺は言った。
「悪いな、ツレなんだ。話なら、俺が聞こう」
だがしかし、それを認めてくれる相手でないこと明らかだ。
「……必要ない」
「邪魔だ、さっさと帰れ」
あぁ……本当に面倒くさいな。
仕方ない、あの手を使って追い出すか。
三度目のため息を吐けば、それを利用して大きく息を吸い込み、滅多に出さない大声を上げてみせる。
「不審者でーーーす! 女子生徒が襲われていまーーーす! 先生を呼んでくださーーーい!」
ここから職員室まで直線距離で五十メートルほど。
仮に聞こえなくとも、帰宅最中の生徒やグラウンドの部活生がこちらに気付いてくれるため、騒ぎはすぐに大きくなった。
「ちっ……コイツ……!」
「ちょ、ヤバいって……。今日は引こうぜ」
今にも食ってかかりそうな表情の二人組であるが、この状況ではさすがに手は出せまい。
出したとしても、目撃者は大勢いるわけで、より重い罰が下されて万々歳だ。
相手もそれは分かっているようで、素直にこの場を後にし、ようやく一安心。
安堵の息を漏らす菊田さんに、話を聞く。
「それで、なんで絡まれてたんだ?」
「あっ、うん……翔真くんを知ってるか――って尋ねられて……」
「翔真……?」
それは何とも奇妙な話だな。
女生徒ならいざ知らず、男子生徒が――それもかなりガラの悪い奴らだなんて、きな臭すぎる。
「――ま、何にしても全ては事情を説明したあとだな」
叫び声を聞き付けたのか、誰かが連絡してくれたのか、校舎から先生が駆けてくるのが見えた。
この件が昨日のテレビと関係しているのか……どうであれ、また大人に何かしらの対策をとってもらうことにしよう。
菊池さんは一足先に部活に向かい、逆に翔真は用事があるということで、かなたと二人で部室へと足を運んでいた――そんな折である。
「…………そら、あれ」
急に袖を引かれれば、かなたはある一点を指差した。
そこにはいつも通りのジャージ姿をした菊池さんがおり、見知らぬ学生らに詰め寄られている。
服装からしても、明らかにウチの生徒ではない。
「――ねぇ、知ってるんでしょ? 教えてくんないかなー」
「ていうかさ、一緒にお茶なんてどう? 俺たちが奢るからさ、そこで話を聞かせてくんない?」
「や、やめて…………!」
何やらただならぬ雰囲気のよう。
面倒事にため息をつき、頭を掻けば、俺は隣の幼馴染に指示を出した。
「おい、かなた。ちょっと先生を呼んで――って、もういねーし……」
しかし、居るはずの彼女は見当たらない。
前へ向き直せば、いつの間にか菊池さんの元へと駆けている。
「……怖がってるから、離れて」
そうして庇うように前へ出たかなたは、両目を広げて開口一番にそう言った。
「君、誰? その子の知り合い?」
「おっ、でも可愛いね。どう? そっちの子と一緒にお茶でも……」
「――私に、触るな」
ヘラヘラと笑いながら伸ばされた相手の手を、虫でも払うかのように打ち落とす。
その瞬間、空気がピリつく。
「…………何すんの?」
「俺ら、ちょっと聞きたいことがあっただけなんだけどなぁ……」
より一層危ない雰囲気になったことを察し、早足で駆けつければ、先制で一発チョップを繰り出した――かなたの頭に。
「勝手に飛び出すな、アホが」
「…………痛い。殴るなら、あっち」
「手を出してきてないヤツ相手に、先に手を出せるかっての……」
再びため息を吐き、二人を背中側へ退かせたら、俺は無礼な来訪者たちに向き直る。
「アンタ誰?」
「関係ない奴は引っ込んでろよ」
いかにもなチンピラの台詞に、込み上げる笑いをグッと抑えて俺は言った。
「悪いな、ツレなんだ。話なら、俺が聞こう」
だがしかし、それを認めてくれる相手でないこと明らかだ。
「……必要ない」
「邪魔だ、さっさと帰れ」
あぁ……本当に面倒くさいな。
仕方ない、あの手を使って追い出すか。
三度目のため息を吐けば、それを利用して大きく息を吸い込み、滅多に出さない大声を上げてみせる。
「不審者でーーーす! 女子生徒が襲われていまーーーす! 先生を呼んでくださーーーい!」
ここから職員室まで直線距離で五十メートルほど。
仮に聞こえなくとも、帰宅最中の生徒やグラウンドの部活生がこちらに気付いてくれるため、騒ぎはすぐに大きくなった。
「ちっ……コイツ……!」
「ちょ、ヤバいって……。今日は引こうぜ」
今にも食ってかかりそうな表情の二人組であるが、この状況ではさすがに手は出せまい。
出したとしても、目撃者は大勢いるわけで、より重い罰が下されて万々歳だ。
相手もそれは分かっているようで、素直にこの場を後にし、ようやく一安心。
安堵の息を漏らす菊田さんに、話を聞く。
「それで、なんで絡まれてたんだ?」
「あっ、うん……翔真くんを知ってるか――って尋ねられて……」
「翔真……?」
それは何とも奇妙な話だな。
女生徒ならいざ知らず、男子生徒が――それもかなりガラの悪い奴らだなんて、きな臭すぎる。
「――ま、何にしても全ては事情を説明したあとだな」
叫び声を聞き付けたのか、誰かが連絡してくれたのか、校舎から先生が駆けてくるのが見えた。
この件が昨日のテレビと関係しているのか……どうであれ、また大人に何かしらの対策をとってもらうことにしよう。
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