彼と彼女の365日

如月ゆう

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November

11月2日(土) 新人戦・北部地区大会・一日目

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 いよいよやってきた大会。
 その一日目は第二回戦まで行われる予定である。

 そして、県大会に進むためにはベスト八に残らなければならず、この地区大会では全三十二チームが出場しているため二回の勝利――つまり、今日を勝ち残ることが絶対条件だ。

 そんなウチらは何とか一回戦を勝ち進み、運命の一戦であり、最終戦でもある二回戦目に臨もうとしていた。

「……あと一戦だ」

 円陣を組めば、亮吾くんはそう呟く。
 ウチらの――みんなの顔を見回して、覚悟と決意を含んだ声で。

「みんな、頼む」

『おう!』

 主審がホイッスルを鳴らして、試合の開始を知らせる。


 ♦ ♦ ♦


 人数が六人と、他に比べて一人少ないウチらのチームなので亮吾くんがシングルスⅢとダブルスⅡの二度、試合に出るのが常だ。
 そのため、その二戦の勝利を前提として、残り一勝をどこかでもぎ取るのが基本的な戦い方であった。

 それは、亮吾くん以外のメンバーが成長した今でも変わりなく、むしろ、だからこそ前以上に勝ちやすくなったと言える。
 現に、一つ前の試合に当たる一回戦目では、ダブルスⅡ、シングルスⅡ、シングルスⅢと三勝した。

 だからだろう。

 挑む二回戦。ダブルスⅠでいきなり勝利したときは、チーム全体が盛り上がった。
 誰もが勝ちを確信した。

 けれど、現実はそう簡単ではない。

 何が悪かったのか。
 ミスが多かったわけでもなければ、相手が強かったわけでもない。

 言うなれば、嚙み合わせが良くなかった。

 そして、その結果――期待されていたダブルスⅡが負けてしまったのだ。

 驚いた。信じられなかった。
 目を疑ったし、息の詰まる思いもした。

 でも、それで心が折れる皆ではない。
 その分、誰かが勝てばいい。

 ――県大会に行って、和白高校の人らと戦う。

 たった一つの目標を胸に、ここにいるのだから。

 その思いは原動力となる。
 一進一退の攻防を見せた次のゲームは、最終セットに差し掛かったところで突然の快進撃。

 これで二勝を挙げ、挑んだ四ゲーム目。
 部の中で二番目に強い選手だったのだけど、相手もレベルが高く、あえなく敗北してしまった。

 故に訪れた最終ゲーム。
 だけど、これで良かったのかもしれない。

 皆で積み上げてきたこの奇跡。
 その最後は、亮吾くん自身が飾るのがふさわしい。

「亮吾、あとは任せた」
「頑張れよな!」
「亮吾くんなら、きっと勝てるよ」
「負けたら、ラーメン奢りな」
「いや……負けたお前が言うなよ」

 それは皆も同じ思いのようで、激励の声が届く。
 全てを背に受け、彼はコートへ。

「国立・トゥ・サーブ。ラブオール・プレイ!」

 響く歓声。別コートの試合の音。
 そこに混じるように主審はコールし、そうして――。
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こちらも毎週火曜日に投稿しておりますので、よければ。
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