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November
11月2日(土) 新人戦・北部地区大会・一日目
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いよいよやってきた大会。
その一日目は第二回戦まで行われる予定である。
そして、県大会に進むためにはベスト八に残らなければならず、この地区大会では全三十二チームが出場しているため二回の勝利――つまり、今日を勝ち残ることが絶対条件だ。
そんなウチらは何とか一回戦を勝ち進み、運命の一戦であり、最終戦でもある二回戦目に臨もうとしていた。
「……あと一戦だ」
円陣を組めば、亮吾くんはそう呟く。
ウチらの――みんなの顔を見回して、覚悟と決意を含んだ声で。
「みんな、頼む」
『おう!』
主審がホイッスルを鳴らして、試合の開始を知らせる。
♦ ♦ ♦
人数が六人と、他に比べて一人少ないウチらのチームなので亮吾くんがシングルスⅢとダブルスⅡの二度、試合に出るのが常だ。
そのため、その二戦の勝利を前提として、残り一勝をどこかでもぎ取るのが基本的な戦い方であった。
それは、亮吾くん以外のメンバーが成長した今でも変わりなく、むしろ、だからこそ前以上に勝ちやすくなったと言える。
現に、一つ前の試合に当たる一回戦目では、ダブルスⅡ、シングルスⅡ、シングルスⅢと三勝した。
だからだろう。
挑む二回戦。ダブルスⅠでいきなり勝利したときは、チーム全体が盛り上がった。
誰もが勝ちを確信した。
けれど、現実はそう簡単ではない。
何が悪かったのか。
ミスが多かったわけでもなければ、相手が強かったわけでもない。
言うなれば、嚙み合わせが良くなかった。
そして、その結果――期待されていたダブルスⅡが負けてしまったのだ。
驚いた。信じられなかった。
目を疑ったし、息の詰まる思いもした。
でも、それで心が折れる皆ではない。
その分、誰かが勝てばいい。
――県大会に行って、和白高校の人らと戦う。
たった一つの目標を胸に、ここにいるのだから。
その思いは原動力となる。
一進一退の攻防を見せた次のゲームは、最終セットに差し掛かったところで突然の快進撃。
これで二勝を挙げ、挑んだ四ゲーム目。
部の中で二番目に強い選手だったのだけど、相手もレベルが高く、あえなく敗北してしまった。
故に訪れた最終ゲーム。
だけど、これで良かったのかもしれない。
皆で積み上げてきたこの奇跡。
その最後は、亮吾くん自身が飾るのがふさわしい。
「亮吾、あとは任せた」
「頑張れよな!」
「亮吾くんなら、きっと勝てるよ」
「負けたら、ラーメン奢りな」
「いや……負けたお前が言うなよ」
それは皆も同じ思いのようで、激励の声が届く。
全てを背に受け、彼はコートへ。
「国立・トゥ・サーブ。ラブオール・プレイ!」
響く歓声。別コートの試合の音。
そこに混じるように主審はコールし、そうして――。
その一日目は第二回戦まで行われる予定である。
そして、県大会に進むためにはベスト八に残らなければならず、この地区大会では全三十二チームが出場しているため二回の勝利――つまり、今日を勝ち残ることが絶対条件だ。
そんなウチらは何とか一回戦を勝ち進み、運命の一戦であり、最終戦でもある二回戦目に臨もうとしていた。
「……あと一戦だ」
円陣を組めば、亮吾くんはそう呟く。
ウチらの――みんなの顔を見回して、覚悟と決意を含んだ声で。
「みんな、頼む」
『おう!』
主審がホイッスルを鳴らして、試合の開始を知らせる。
♦ ♦ ♦
人数が六人と、他に比べて一人少ないウチらのチームなので亮吾くんがシングルスⅢとダブルスⅡの二度、試合に出るのが常だ。
そのため、その二戦の勝利を前提として、残り一勝をどこかでもぎ取るのが基本的な戦い方であった。
それは、亮吾くん以外のメンバーが成長した今でも変わりなく、むしろ、だからこそ前以上に勝ちやすくなったと言える。
現に、一つ前の試合に当たる一回戦目では、ダブルスⅡ、シングルスⅡ、シングルスⅢと三勝した。
だからだろう。
挑む二回戦。ダブルスⅠでいきなり勝利したときは、チーム全体が盛り上がった。
誰もが勝ちを確信した。
けれど、現実はそう簡単ではない。
何が悪かったのか。
ミスが多かったわけでもなければ、相手が強かったわけでもない。
言うなれば、嚙み合わせが良くなかった。
そして、その結果――期待されていたダブルスⅡが負けてしまったのだ。
驚いた。信じられなかった。
目を疑ったし、息の詰まる思いもした。
でも、それで心が折れる皆ではない。
その分、誰かが勝てばいい。
――県大会に行って、和白高校の人らと戦う。
たった一つの目標を胸に、ここにいるのだから。
その思いは原動力となる。
一進一退の攻防を見せた次のゲームは、最終セットに差し掛かったところで突然の快進撃。
これで二勝を挙げ、挑んだ四ゲーム目。
部の中で二番目に強い選手だったのだけど、相手もレベルが高く、あえなく敗北してしまった。
故に訪れた最終ゲーム。
だけど、これで良かったのかもしれない。
皆で積み上げてきたこの奇跡。
その最後は、亮吾くん自身が飾るのがふさわしい。
「亮吾、あとは任せた」
「頑張れよな!」
「亮吾くんなら、きっと勝てるよ」
「負けたら、ラーメン奢りな」
「いや……負けたお前が言うなよ」
それは皆も同じ思いのようで、激励の声が届く。
全てを背に受け、彼はコートへ。
「国立・トゥ・サーブ。ラブオール・プレイ!」
響く歓声。別コートの試合の音。
そこに混じるように主審はコールし、そうして――。
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