彼と彼女の365日

如月ゆう

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October

10月19日(土) 新人戦・地区大会・一日目

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 来たる大会当日。
 開会式も早々に終わり、現在は試合に向けてのアップに入っていた。

 ストレッチや素振りなど、各々が好きなやり方で体を温める中、俺はそらと実戦形式のラリーを行う。
 とはいえ、半分程度の実力しか出ていない、本当の意味で軽い遊びのようなものであるため、お互いに雑談が飛ぶ。

「今日は、いつもに比べて少し静かだな」

 感じたことをそのまま口に出してみれば、怪訝そうに眉をひそめられた。

「静か……? どこがだよ、いつも通りにキャーキャーと黄色い声を送られてるくせに……」

 その発言に呼応するように、二階の応援席から上がる歓声。
 チラと視線だけを向ければ、そこには見知らぬ制服を着た女性ばかりが存在し、何やらこちらに手を振ってくれている。

 だけど、俺が言っているのはそういう事じゃない。

「あぁ、いや……じゃなくてさ。学校の行事で他の部員や一年生のマネージャーがいないから、それだけいつもの活気を感じない――って、話だよ」

「あー……なるほどな」

 先程の、女性ばかりの集団のすぐ隣。
 俺たちの荷物を集めて置いた席から荷物番兼応援役として顔を覗かせているのは、マネージャーである倉敷さんと叶さんだ。

 また、コート外にいる監督やコーチの傍には詩音さんの姿もあった。

 この場にいる全員を含めても十二人。
 部活全体の三分の一もいない事実には、さすがの俺も驚きを隠しきれない。

 それは活気のなさを感じる……と、思わず自分で納得してしまう。

「……そういえば、チームのマネージャー枠は倉敷さんじゃなくて良かったのか?」

 団体戦では、選手や監督・コーチの他にマネージャーを一人だけチームメンバーとして選出し、会場に付き添うことができるのだ。

 前回までは、その役割はデータ管理の清水先輩が担っていたため、道理的には彼女からその後任を託された倉敷さんが来るものだと思っていたんだが……どうやら違うらしい。

「そこら辺は気にしないでいい。アイツはあくまでもデータを集めてるだけで、実際に先輩のプログラムを回して管理してるのは俺だからな。だから、来ても意味がないし、何なら足手まといでしかないぞ」

 ……なるほどな。
 ただ、問題はそこだけじゃないはず。

「でも、あの倉敷さんだろ? 自分じゃないって知って、拗ねたんじゃないのか?」

 そういった意味での先程の問いでもあったのだけど、どうやら心当たりがあったらしく目が逸らされる。

「あー…………まぁ……ちょっとは」

「やっぱり、そうなんだな」

「けど、理由を話せば理解したし、代わりが菊池さんだって知ったら、あっさり納得したぞ」

 と、いうことらしい。
 詩音さんはマネージャーのリーダーだし、確かに適任だ。納得せざるを得ないだろう。

「――お前ら、集まれぇ!」

 そんな折、監督から掛け声がかかった。
 時計を見れば、そろそろいい時間。試合前の最後のミーティングが始まる。

「『先行勝ち切り』――それだけだ」

 のだけど、放たれた言葉はそれだけ。
 全ては練習の時に語った……とでも言わんばかりに、こういう場では話さない人であり、故に試合当日は部長が一人一人に声を掛けるのが通例となっていた。

 夏の時も、佐久間先輩に励まされたっけな……。

 その時のことを思い出しながら、各々の顔を見る。

「――石川、金沢。一番槍らしく、暴れてくれよ」

「おっけー」
「了解!」

 続いてダブルスⅡ――唯一の一年生選手。

「――小栗、塩原。二人はあまり勝ち負けを気にしないでいい。そういう面倒なことは俺たち二年に任せて、納得のいく試合を作ってくれ」

「は、はい……!」
「分かりました!」

 真摯に反応してくれる姿に俺も頷き、次へ。

「…………そら、頼んだ」

「任せろ」

 浮かべられたニヒルな笑み。
 交わす言葉は少なくとも、それだけで親友の頼もしさは伝わる。

「――宮内。もし回ったら、最後はよろしくな」

「あいよ」

 全員に激励の言葉を送れば、そこには自然と笑顔が零れた。

「――さて……それじゃ行こうか、和白高校バドミントン部」

『おう……!』


 ♦ ♦ ♦


 本日の余談。

 無事に、今日あった二戦ともを、最初の三人だけで突破した。
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