彼と彼女の365日

如月ゆう

文字の大きさ
上 下
206 / 284
October

10月12日(土) 秋休み②

しおりを挟む
 夕食を終え、まったりと寛ぐ時間帯。
 両親ともが用事で居ない――ということで、一緒にウチでご飯を食べた幼馴染は、俺と並ぶようにリビングのソファに腰掛けて、テレビを見ていた。

「……台風ヤバそうだな」

 番組の合間合間に流れる臨時ニュース。
 そこでは一部の地域に避難勧告が出ていることや川の氾濫、人気のない東京駅の様子を撮ったものなど、今回の台風がもたらした影響が映し出される。

「……ホント、ウチとは大違い」

 同意するかなたの言葉を聞きながら、窓の外を見やった。

 吹き荒れる風も、打ち付ける雨も、存在しない。
 時折、カーテンを大きく捲るほどの風が部屋の中を通るくらいで、その鬱陶しさに窓を閉めれば、何てことのないいつもの日常が帰ってくるレベル。

 今回の台風は範囲が広いということで、ここ福岡も暴風注意報が発令されているのだけど、そんな様子はこれっぽっちも見受けられない。

「まぁ、福岡ウチの場合は直撃したところで荒れないけどな」

 今年の夏と去年、二度にわたり台風の直撃を味わったわけだけれども、今回のような惨事は一切起こらず、何なら雨すら降らない穏やかなただの曇りだったのだ。

 母さんが心配して水を買いに走ったり、防災グッズのセットを買ってきたりしたのに、それらが全部ムダになったのは今でもお笑い草である。

 ……まぁ、『存在しないカテゴリー六』やら某アニメになぞらえて『ワルプルギスの夜』なんて呼称されているくらいに大きな台風と比べるのは少し違うのかもしれないけどな。

「しかし、会社は大変だな……。こんな状況でも出社を求めてくる所があるのかよ」

 でも、だからこそ、だったらもっと危機意識を持てよ――という事案が今回は多い気がする。

 ニュースからネットに、情報元を変更。
 わざわざタグ付けされたワードから、色々な人の投稿を読んでいれば、目に付くのはそんな話題だ。

 曰く、『台風だろうが、お客様には関係ない。だから出社しろ』や『交通機関がないなら、会社に泊まれ』などなど……挙句の果てには、大学の研究室でも似たようなことがあっているらしい。

 …………馬鹿げている。

「……そもそも、私たちお客様は自分の命が大事だから、外に出ない」

「それな。あと、停電になるかもしれないのに仕事もクソもあるかよ。お前ら、何で仕事してんだよ……。紙とペンで手書きか?」

 もちろん、ノートパソコンという手があるかもしれないが、バッテリーなんてせいぜいが数時間しかもたないはず。

 そんな状況下で命を懸けろだなんて、あまりにも滑稽ではないか。

「……自主休暇が、賢い選択」

「だな。それでクビになっても、少なくとも後悔はないだろうし」

 とはいえ、所詮は働いたこともない子供の戯言。
 所帯を持っているわけでも、自分で生活を支えているわけでもない。

 もしかしたら、やむにやまれぬ事情でそんな職場でも働かなきゃいけない人だっているだろう。
 そういった人たちを馬鹿にしているわけではないことだけは、どうか理解してほしい。

 間違っているのは社会の方だ。
 もっと海外を見習え。適度に休め。無理はするな。有給だって、もっと使っていいんだよ。

 そんな考えが、浸透したらいいのにな。

「俺たちが働く頃には、もう少し優しい世界になってないかなぁ……」

「……同意」

 何となく仰ぎ見ていた天井から、下に視線を落とす。
 付けっぱなしのテレビには、今後の台風の予想進路が映っていた。

 ……北海道が微妙に入っているのか。

 北海道といえば、ネッ友である七海さんが住んでいる場所。
 直撃ではないから大丈夫だとは思うが……後で連絡でもしてみるか。
しおりを挟む


こちらも毎週火曜日に投稿しておりますので、よければ。
ファンタジー作品: 存在しないフェアリーテイル

以下、短編です。
二人のズッキーニはかたみに寄り添う
神の素顔、かくありき
彼女の嘘と、幼き日の夢
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

CHERRY GAME

星海はるか
青春
誘拐されたボーイフレンドを救出するため少女はゲームに立ち向かう

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

食いしん坊な親友と私の美味しい日常

†漆黒のシュナイダー†
青春
私‭――田所が同級生の遠野と一緒に毎日ご飯を食べる話。

青春の初期衝動

微熱の初期衝動
青春
青い春の初期症状について、書き起こしていきます。 少しでも貴方の心を動かせることを祈って。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

処理中です...