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October
10月7日(月) クラスマッチ
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「今日はやけに外が賑やかだな……」
いつもの変わらない昼下がり。
お昼も食べ終え、まったりのんびり過ごす中で、俺はそう独り言つ。
「そりゃ、今日は一年生のクラスマッチだからな」
そんな呟きにわざわざ答えてくれたのは、親友であり学園の人気者――畔上翔真。
既に弁当が片付けられた机には、その代わりとでも言うようにノートと教科書が広げられていた。
「はぁー……もうそんな時期か。懐かしいな」
一年前に俺たちも通った道。
それを思い出し、一階の自販機で買ったペットボトルを一口呷る。
「……確か、男子がソフトで、女子がバレーだっけか?」
記憶が正しければ、体育館とグラウンドに分かれ、銘々に試合が進められていたはず。
しかし、異議があるようで、菊池さんはおずおずと手を挙げると指摘をしてきた。
…………なお、ダジャレではないので要注意。
「ば、バレーに参加してる男の人もいた……と思う」
「あれ、そうなの?」
「あぁ、工業科のような男子の数が多いクラスは、ソフトとバレーの両方に出る必要があったはずだよ」
ほぇー……と、驚きの声。
でも、考えてみればそうか。
クラスマッチ――いわゆるクラス同士で戦う催しであり、男女比が半々なウチだからこそ、男子はソフト、女子はバレーと分けているだけ。
出場人数そのものは変わらないわけだから、男子メインのクラスは両方に出場して当たり前だ。
「……というか、去年の出来事だろ。何でそらは覚えてないんだよ……」
「まぁ、俺は出てないからな」
「そ、それで蔵敷くんは懐かしさを感じてたんだ……」
愕然とする菊池さん。
だが、さすがにその発言は失敬であると言わざるを得ない。
秋も深まる、冷涼な空の下。
身体を動かしていないせいでむしろ寒く、あぁ……ジャージ着てくればよかったなぁ……などと考えながらボコボコに打たれていくクラスメイトを眺めている図なんて、懐かしさ以外に何を感じることがあるのか。
虚しさ? 悲しみ?
それら全て引っ括めて思い出だってんだ、この野郎め!
「…………ん? そういえば、三年のクラスマッチは春頃に、ひっそりとやってたけど……じゃあ二年はいつやるんだ?」
――などと、益体のない独り言を思考しつつ、口ではまた別の疑問を投げかけてみた。
「冬だよ。三月に、授業でやってる武道のクラスマッチがある」
「あー……そっか。てことは、女子は――」
そう言って、菊池さんへと視線を向けてみると、彼女はビクつきながらもしっかりと頷いてくれる。
「う、うん……見学と応援、だと思う」
だよな。
まぁ、女子は仕方ない。何せ、その間に行われているのがダンスなのだから。
「……いえーい。そら、がんば」
とはいえ、その煽りには多少なりとも感じるものがあるな。
いつかの時とは反対に、勝手に人の太ももの上に頭を乗せて、椅子を並べてベッド代わりに寝転がる幼馴染は、手のひらを見せつけるようにして何度も「いえーい」と連呼する。
「はいはい。いえーい、いえーい」
面倒になった俺は、その手のひらに自分の手のひらを引っ付けるようにして、適当にノリを合わせてあげた。
視界の邪魔なので、ついでに押し返しながら。
「…………かなちゃん。クラスマッチの代わりにこっちにはテストがあるんだから、頑張らなきゃいけないのはお互い様だよ……」
「――いえーぃ…………あっ……」
コイツ……アホかよ。
一転、打って変わってこの世の終わりみたいな顔で落胆するかなた。その様子にため息を吐きつつ、慰めのためにその頭を撫でてやる。
「でもじゃあ、やっぱり俺はクラスマッチを頑張らなくてもいいわけか……」
「何でだ?」
「ど、どうして?」
俺の唐突な呟きに、首を傾げる翔真と菊池さん。
「いや、だって剣道選択者は九人もいるんだぞ?」
一方で、剣道の試合は『先鋒・次鋒・中堅・副将・大将』の五人のみ。それはつまり――。
「――俺の出る幕ないじゃん」
一組男子、総勢十五人。
その中の、ソフトの九人にも選出されない俺だぞ。
六十パーセントでも選ばれないのに、ましてや五十六パーセントに選ばれるはずがない。
……って、やべーな。
格好つけて確率で攻めてみた割には、あんまり数字に変わりがなかったわ……。
ま、まぁ……選ばれるはずないってことで!
「…………そら、ズルい」
下から覗く睨めつけるような視線も、下から届く恨めしそうな声も、今はそよ風のように心地よい。
「はっはっは、まぁ頑張りたまえ」
気分の良くなった俺は、その頭をさらに撫でてあげることにしたのであった。
いつもの変わらない昼下がり。
お昼も食べ終え、まったりのんびり過ごす中で、俺はそう独り言つ。
「そりゃ、今日は一年生のクラスマッチだからな」
そんな呟きにわざわざ答えてくれたのは、親友であり学園の人気者――畔上翔真。
既に弁当が片付けられた机には、その代わりとでも言うようにノートと教科書が広げられていた。
「はぁー……もうそんな時期か。懐かしいな」
一年前に俺たちも通った道。
それを思い出し、一階の自販機で買ったペットボトルを一口呷る。
「……確か、男子がソフトで、女子がバレーだっけか?」
記憶が正しければ、体育館とグラウンドに分かれ、銘々に試合が進められていたはず。
しかし、異議があるようで、菊池さんはおずおずと手を挙げると指摘をしてきた。
…………なお、ダジャレではないので要注意。
「ば、バレーに参加してる男の人もいた……と思う」
「あれ、そうなの?」
「あぁ、工業科のような男子の数が多いクラスは、ソフトとバレーの両方に出る必要があったはずだよ」
ほぇー……と、驚きの声。
でも、考えてみればそうか。
クラスマッチ――いわゆるクラス同士で戦う催しであり、男女比が半々なウチだからこそ、男子はソフト、女子はバレーと分けているだけ。
出場人数そのものは変わらないわけだから、男子メインのクラスは両方に出場して当たり前だ。
「……というか、去年の出来事だろ。何でそらは覚えてないんだよ……」
「まぁ、俺は出てないからな」
「そ、それで蔵敷くんは懐かしさを感じてたんだ……」
愕然とする菊池さん。
だが、さすがにその発言は失敬であると言わざるを得ない。
秋も深まる、冷涼な空の下。
身体を動かしていないせいでむしろ寒く、あぁ……ジャージ着てくればよかったなぁ……などと考えながらボコボコに打たれていくクラスメイトを眺めている図なんて、懐かしさ以外に何を感じることがあるのか。
虚しさ? 悲しみ?
それら全て引っ括めて思い出だってんだ、この野郎め!
「…………ん? そういえば、三年のクラスマッチは春頃に、ひっそりとやってたけど……じゃあ二年はいつやるんだ?」
――などと、益体のない独り言を思考しつつ、口ではまた別の疑問を投げかけてみた。
「冬だよ。三月に、授業でやってる武道のクラスマッチがある」
「あー……そっか。てことは、女子は――」
そう言って、菊池さんへと視線を向けてみると、彼女はビクつきながらもしっかりと頷いてくれる。
「う、うん……見学と応援、だと思う」
だよな。
まぁ、女子は仕方ない。何せ、その間に行われているのがダンスなのだから。
「……いえーい。そら、がんば」
とはいえ、その煽りには多少なりとも感じるものがあるな。
いつかの時とは反対に、勝手に人の太ももの上に頭を乗せて、椅子を並べてベッド代わりに寝転がる幼馴染は、手のひらを見せつけるようにして何度も「いえーい」と連呼する。
「はいはい。いえーい、いえーい」
面倒になった俺は、その手のひらに自分の手のひらを引っ付けるようにして、適当にノリを合わせてあげた。
視界の邪魔なので、ついでに押し返しながら。
「…………かなちゃん。クラスマッチの代わりにこっちにはテストがあるんだから、頑張らなきゃいけないのはお互い様だよ……」
「――いえーぃ…………あっ……」
コイツ……アホかよ。
一転、打って変わってこの世の終わりみたいな顔で落胆するかなた。その様子にため息を吐きつつ、慰めのためにその頭を撫でてやる。
「でもじゃあ、やっぱり俺はクラスマッチを頑張らなくてもいいわけか……」
「何でだ?」
「ど、どうして?」
俺の唐突な呟きに、首を傾げる翔真と菊池さん。
「いや、だって剣道選択者は九人もいるんだぞ?」
一方で、剣道の試合は『先鋒・次鋒・中堅・副将・大将』の五人のみ。それはつまり――。
「――俺の出る幕ないじゃん」
一組男子、総勢十五人。
その中の、ソフトの九人にも選出されない俺だぞ。
六十パーセントでも選ばれないのに、ましてや五十六パーセントに選ばれるはずがない。
……って、やべーな。
格好つけて確率で攻めてみた割には、あんまり数字に変わりがなかったわ……。
ま、まぁ……選ばれるはずないってことで!
「…………そら、ズルい」
下から覗く睨めつけるような視線も、下から届く恨めしそうな声も、今はそよ風のように心地よい。
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