彼と彼女の365日

如月ゆう

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October

10月6日(日) 橋本七海の日常①

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 ここは、玫瑰花はまなす女学院高等学校。
 『県花の如く、気高い女性であれ』をモットーに、様々な分野における有名な女生徒ばかりを集めた、道内でも有数の有名校である。

 存在する学科は三つのみ。
 まずは僕も所属する、部活動の所属と活躍が義務付けられた――活動学科。

 続いて、高い偏差値を誇る――学業科。

 最後に、先の二つの要素を合わせ持つ――総合学科。

 それぞれが二クラス、二クラス、一クラス存在し、各学年で五クラスずつ。
 全校生徒は合わせて四百五十人ほどの僕の学校だ。

 ――というわけで、今日も部活のためにやってきた僕。
 練習着に着替えるため上半身をさらけ出せば、ロッカーに置いたスマホが点滅していることに気付く。

「――――ふふ」

 格好もそのままに中身を確認すると、その内容に思わず笑みが零れた。

「なっなみーん! なーに見てるの?」

 ともすれば、背後から首に回される腕。全身にかかる重み。
 負ぶさるようにしがみついてきた親友の顔が、僕のすぐ横に並ぶ。

「ていうか、相変わらずいい匂い……」

「何だ、一愛ひめか。もう……びっくりしたよ」

 首筋に顔をうずめ、息を吸い込む少女の名前は松本まつもと一愛ひめ。十七歳。

 総合学科に所属する同級生であり、お下げ髪がトレードマークの彼女であるが、ギリギリ百五十センチにも満たない低身長故に、抱きつくその身体はかなりの高さまで持ち上がっていたり……。

 取り敢えず、僕は屈んで一愛を下ろす。
 スタッと着地をした彼女は、僕の隣のロッカーを開いて着替えを始めた。

「にしても、ななみんの胸はいつ見ても大きいねー」

 僕もまた、中断してしまったスマホの操作を再開しようとした矢先、今度はそんなことを告げられる。

「そう、かな……?」

 目線を下に向ければ、見えるのは白の下着とそれに支えられた胸の谷間だけ。
 試しに触ってみても、ワイヤーの硬さと手が沈み込む感覚しか感じられない。

「でも、僕以上の人もこの学校に結構いるよ」

「いや、結構はいないから……。せいぜい十数人とかだよ」

 一愛の言うような、そんな貴重なものには思えず言葉を返すと、彼女は呆れたようにため息を吐きながら首を振った。

「――てことで……そのお胸、ちょっーとだけお借りしてもいい?」

「えっ……あ、うん。別にいいよ」

「即答!?」

 僕の返事が意外だったのか、一愛は驚きの表情を浮かべる。

「てか、嘘……本当にいいの?」

 再度確認をされるので、僕もまた再び頷いた。

「うん、何を手伝えばいいのかは知らないけど、僕にできることなら――」

 と、しかし最後まで言い切ることなく、生唾を飲み込んだ彼女は僕の胸をわしづかむ。
 しかも、下着の下から手を滑り込ませるように差し込んで……。

「――って、えぇ!? なんで? なんで、僕の胸を触るの!?」

 あまりの出来事に、僕は飛び退いた。
 その影響で零れる胸を抑え、器用に下着の中へと収めながら抗議をすれば、手をワキワキと動かす一愛は困惑したように答える。

「いや、だって……胸を借りてもいいって言って……」

「む、胸を借りるって、『物事に付き合ってもらう』っていう意味なんじゃないの!?」

 夏の全国大会の時に、そらくんから教えてもらった言葉。
 その意味だと思って僕は了承したのに……。

 そらくんか、はたまた一愛か。
 どちらにしても友達に騙されたということは変わらず、ショックを受けてしまう僕に対して、目の前の彼女はバツが悪そうに頭をかいた。

「あー……ななみん、その言葉知ってたんだね……。分からないだろうから、むしろ言葉通りに受け取ってもらえる――って思って、質問したんだけど……」

「ぼ、僕でもそれくらい知ってるからー!」

 酷い言われように怒る僕だけど……嘘です。実は知りませんでした。

 そらくんの時は、逆に言葉通りの意味に捉えて彼を呆れさせてしまったっけ……。
 けど、ちょっとは僕の方も満更でもなかったり――って、違う違う! 今はそういう話じゃないよ。

「ごめんね、ななみん。……二重の意味で」

 手を合わせ、頭を下げる親友。
 お互いに下着姿だというのが妙に格好つかないけど、僕は笑って許す。

「うん、もういいよ。気にしてないから」

 そう答えて、握ったままだったスマホをロッカーに置いた。

 さぁ、今日も練習を頑張ろう。
 ――だから、そらくんも頑張ってね♪
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こちらも毎週火曜日に投稿しておりますので、よければ。
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以下、短編です。
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感想 3

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