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October
10月1日(火) メガネの日
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「へぇー……今日って『メガネの日』らしいぞ」
身体も頭も休めるお昼時。
各々がそれぞれの昼ご飯を食し、次の授業まで大分時間があるからと、のんびり過ごしていた矢先の俺の発言である。
その事を知ったのは、たった今。
暇だからと、自らをSNSではないと呼称する某呟きアプリの、授業中に溜まり溜まったタイムラインをせっせこせっせこと眺めていれば、好きな絵師が眼鏡を掛けたオリジナルのキャラクターを投稿しており、そこに『メガネの日』とタグ付けされていたからだ。
何をどうしたらそんな記念日になるのかは分からないが、大方『一〇月〇一日』と表記した際の数字部分がレンズとテンプルに見える――とか、そんなことなのだろう。
バレンタインや土用の丑の日にも似た、企業の思惑みを感じて仕方ない。
「でもまぁ、俺たちに眼鏡を掛けてる奴なんていないから、あんまし関係ないか」
故に、独り言のように自分一人で話題解決してみせると、意外なことに二名の人物が食いついてきた。
「あぁ……眼鏡なら持ってるぞ」
「わ、私も……」
翔真と菊池さんだ。
前者は「教えていなかったっけか」と言わんばかりに自然に、後者はおずおずと手を挙げながら申告する。
「は……? 嘘だろ?」
「本当だよ。ていうか、こんなことに嘘をついてどうなるのさ……」
半信半疑の俺に苦笑いを浮かべた彼らは、自分の鞄をゴソゴソと漁ると一つのケースを机の上に置いて見せた。
驚きの目をしたまま、隣の幼馴染を見た。
こちらの視線に気付いたかなたは、ブンブンと首を横に振る。
どうやら彼女も、初耳だったようだ。
出会ってから一年と半年――まさかここにきて、新たなキャラ付けが加えられようとは、誰も思いはしない。
「……じゃあ、二人ともコンタクト?」
となれば、当然のように行き着く推測をかなたは口に出すが、二人はそれを揃って否定した。
「いや、俺のはブルーライトカットの眼鏡だよ」
そう言って取り出したのは、プラスチック製の青い眼鏡。
四角張ったレンズと太めのわくが知的な雰囲気を醸し出している。
「私は……軽い遠視で、普段は家でしか掛けないんだけど、念のために毎日持ってきてるの」
一方で、彼女のは翔真のものよりも少しだけレンズが丸みを帯びており、また、ステンレス製のようである。
わくはピンク色で細く、そこからテンプルに流れていくにつれて白色へと移り変わっているオシャレな一品だ。
「へぇー……んじゃ、折角だし掛けてみてくれよ」
というわけで、これ以上ないくらいにさりげなく、ごく自然に頼み込んでみる。
が、向けられる表情はなぜか半眼だ。
「何でだよ……」
「いや、『メガネの日』だし。それに、別に何か減るもんでもないだろ?」
「…………まぁ、そうだけど……」
渋々と、しかし確かに肯定した翔真。
こりゃ、押せばいけるな。
パンパンと手を叩き、急かすように「はいはい」と俺は手で煽る。
「じゃあ、決定。菊池さんも観たがってることだしな」
「えっ……!? わ、私は……別に…………」
最初こそ焦る彼女であったが、適当に言ったそれは事実だったようで、完全には否定せずゴニョゴニョと小さく呟くのみ。
「はぁー、分かったよ……」
その現状に嫌気が差したのか、ため息をついて掛けてくれた。
「ほぉ~……」
「……………………」
「わ、わ……! …………かっこいい」
三者三様、それぞれの反応。
その中で代表して感想を述べるならば、スタバで敢えて普通のブラックコーヒーを飲みながらカウンター席で本を読む、ニットのセーターを着たイケメン青年――と言ったところか。
分かりやすく言い直すと、ただのオシャレなイケメン。
「ほら、もういいだろ」
よほど恥ずかしかったのか、すぐに外してしまう彼であったが、我々は満足である。
中々に面白い、良い余興だった。
「……じゃあ、次は詩音」
「わ、私も……!?」
そして、続くかなたの一言に、今度は詩音さんが驚く。
「おっ、良いんじゃないかな」
「しょ、翔真くんまで……」
やられたらやり返すの精神なのか、翔真もまたノリノリで援護射撃し始めた。
想い人のお願いだ。
断れはしないだろう。
「ど、どう……かな?」
両手で上品に掛けた菊池さんは、ゆっくりと手を下げて披露してくれる。
「へぇー……」
「……似合ってる」
「うん、良いと思うよ」
こちらもまた、好感触。
普段以上に受ける印象が優しいものへと変わり、いつもとは少し違った雰囲気を醸し出せていた。
まさに、御眼鏡に適ういい企画だったのではないだろうか。
さて、それではオチもついたことですし、そろそろお開きに――。
「じゃあ、次はそらの番だな。貸すから、付けて」
「…………は?」
「はい、かなちゃんも。私のは度が入ってるけど、弱いから大丈夫だと思うの」
「…………え?」
――しようと思ったその矢先、なぜか今度は俺たち幼馴染組が眼鏡を勧められていた。
「いや、俺は遠慮しとく」
「……私もいい」
「まぁまぁ、そう言わずに――」
「そうだよ、絶対に似合うと思うし――」
『――折角のメガネの日なんだから』
目には目を歯には歯を。
ハンムラビ法典を遵守しようとする二人の圧が怖い。
まさか、こんなことになるなんて……。
眼鏡が狂う――とは、まさにこのことか。
身体も頭も休めるお昼時。
各々がそれぞれの昼ご飯を食し、次の授業まで大分時間があるからと、のんびり過ごしていた矢先の俺の発言である。
その事を知ったのは、たった今。
暇だからと、自らをSNSではないと呼称する某呟きアプリの、授業中に溜まり溜まったタイムラインをせっせこせっせこと眺めていれば、好きな絵師が眼鏡を掛けたオリジナルのキャラクターを投稿しており、そこに『メガネの日』とタグ付けされていたからだ。
何をどうしたらそんな記念日になるのかは分からないが、大方『一〇月〇一日』と表記した際の数字部分がレンズとテンプルに見える――とか、そんなことなのだろう。
バレンタインや土用の丑の日にも似た、企業の思惑みを感じて仕方ない。
「でもまぁ、俺たちに眼鏡を掛けてる奴なんていないから、あんまし関係ないか」
故に、独り言のように自分一人で話題解決してみせると、意外なことに二名の人物が食いついてきた。
「あぁ……眼鏡なら持ってるぞ」
「わ、私も……」
翔真と菊池さんだ。
前者は「教えていなかったっけか」と言わんばかりに自然に、後者はおずおずと手を挙げながら申告する。
「は……? 嘘だろ?」
「本当だよ。ていうか、こんなことに嘘をついてどうなるのさ……」
半信半疑の俺に苦笑いを浮かべた彼らは、自分の鞄をゴソゴソと漁ると一つのケースを机の上に置いて見せた。
驚きの目をしたまま、隣の幼馴染を見た。
こちらの視線に気付いたかなたは、ブンブンと首を横に振る。
どうやら彼女も、初耳だったようだ。
出会ってから一年と半年――まさかここにきて、新たなキャラ付けが加えられようとは、誰も思いはしない。
「……じゃあ、二人ともコンタクト?」
となれば、当然のように行き着く推測をかなたは口に出すが、二人はそれを揃って否定した。
「いや、俺のはブルーライトカットの眼鏡だよ」
そう言って取り出したのは、プラスチック製の青い眼鏡。
四角張ったレンズと太めのわくが知的な雰囲気を醸し出している。
「私は……軽い遠視で、普段は家でしか掛けないんだけど、念のために毎日持ってきてるの」
一方で、彼女のは翔真のものよりも少しだけレンズが丸みを帯びており、また、ステンレス製のようである。
わくはピンク色で細く、そこからテンプルに流れていくにつれて白色へと移り変わっているオシャレな一品だ。
「へぇー……んじゃ、折角だし掛けてみてくれよ」
というわけで、これ以上ないくらいにさりげなく、ごく自然に頼み込んでみる。
が、向けられる表情はなぜか半眼だ。
「何でだよ……」
「いや、『メガネの日』だし。それに、別に何か減るもんでもないだろ?」
「…………まぁ、そうだけど……」
渋々と、しかし確かに肯定した翔真。
こりゃ、押せばいけるな。
パンパンと手を叩き、急かすように「はいはい」と俺は手で煽る。
「じゃあ、決定。菊池さんも観たがってることだしな」
「えっ……!? わ、私は……別に…………」
最初こそ焦る彼女であったが、適当に言ったそれは事実だったようで、完全には否定せずゴニョゴニョと小さく呟くのみ。
「はぁー、分かったよ……」
その現状に嫌気が差したのか、ため息をついて掛けてくれた。
「ほぉ~……」
「……………………」
「わ、わ……! …………かっこいい」
三者三様、それぞれの反応。
その中で代表して感想を述べるならば、スタバで敢えて普通のブラックコーヒーを飲みながらカウンター席で本を読む、ニットのセーターを着たイケメン青年――と言ったところか。
分かりやすく言い直すと、ただのオシャレなイケメン。
「ほら、もういいだろ」
よほど恥ずかしかったのか、すぐに外してしまう彼であったが、我々は満足である。
中々に面白い、良い余興だった。
「……じゃあ、次は詩音」
「わ、私も……!?」
そして、続くかなたの一言に、今度は詩音さんが驚く。
「おっ、良いんじゃないかな」
「しょ、翔真くんまで……」
やられたらやり返すの精神なのか、翔真もまたノリノリで援護射撃し始めた。
想い人のお願いだ。
断れはしないだろう。
「ど、どう……かな?」
両手で上品に掛けた菊池さんは、ゆっくりと手を下げて披露してくれる。
「へぇー……」
「……似合ってる」
「うん、良いと思うよ」
こちらもまた、好感触。
普段以上に受ける印象が優しいものへと変わり、いつもとは少し違った雰囲気を醸し出せていた。
まさに、御眼鏡に適ういい企画だったのではないだろうか。
さて、それではオチもついたことですし、そろそろお開きに――。
「じゃあ、次はそらの番だな。貸すから、付けて」
「…………は?」
「はい、かなちゃんも。私のは度が入ってるけど、弱いから大丈夫だと思うの」
「…………え?」
――しようと思ったその矢先、なぜか今度は俺たち幼馴染組が眼鏡を勧められていた。
「いや、俺は遠慮しとく」
「……私もいい」
「まぁまぁ、そう言わずに――」
「そうだよ、絶対に似合うと思うし――」
『――折角のメガネの日なんだから』
目には目を歯には歯を。
ハンムラビ法典を遵守しようとする二人の圧が怖い。
まさか、こんなことになるなんて……。
眼鏡が狂う――とは、まさにこのことか。
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