彼と彼女の365日

如月ゆう

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September

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 休みの明けた平日。
 これから始まる一週間に絶望しつつも、必死に一分、一秒を過ごしてゆくいつも通りの日々。

 ――かと思いきや、そんなことはなかった。
 むしろいつもとは異なり、俺のすぐ後ろの席はこれでもかと人で混雑していたのだ。

 朝も、昼も、夕暮れも。
 合間の十分休みから昼食時まで、授業中を除いたあらゆるタイミングで彼らはやってくる。

 その理由というのが……まぁ、実際に聞いてもらった方が早いだろう。
 曰く――。

「なぁ、翔真。テレビに出るって本当か?」
「また、この学校が紹介されるんでしょ?」
「あ、あの……サイン貰ってもいいですか!」

 ――とのことで。
 人の口に戸は立てられぬ、とは言うけれど、どこから漏れたのか、学園中がその話題で持ち切りとなっていた。

 ちなみに、その話を唯一本人から聞いた俺は、誰にも明かしていない。
 本当に。マジで。菊池さんはおろか、かなたにさえ。

 なので、会話の空隙に時折刺さる背後からの視線はただのとばっちりであり、俺は関係ないのだ。

 が、それを親友が信じてくれるかはまた別の話。

 そんなわけで、珍しくも三人だけでこの惨状について語り合う。

「す、すごい人だかりだね……」

「……いつも以上」

 ひっきりなしに人が集まり、彼の机の周りに群がる様を見て、菊池さんもかなたをドン引き状態。
 それでも、怒るでもなく全ての反応に対応しているんだから、関心を通り越して呆れるレベルだ。

 何……アイツの精神、仏なの?

「でも……テレビに出るって話、本当なのかな?」

 ポツリと呟かれた、一言。
 菊池さんは、その噂そのものに半信半疑なようで、疑惑の視線を向けていた。

 でもまぁ、確かに情報元ソースが曖昧だからな。
 そう考えてしまうのも無理はない。

「……生徒の一人が、体育祭の時と全く同じテレビ関係者を見た――とは聞いてる」

 一方で、かなたは信じている側のようで、又聞きしたであろう根拠を提示してくれる。

「そらは、どう思う……?」

「……………………」

 ここは、果たして言うべきなのだろうか。
 判断に迷うところではあるが、一応これでも約束した身である。

 また、少なくともこんな人の多い場所で打ち明けるべきことではない。
 ……今更ではあるだろうけど。

 そう考え、こう俺は答えた。

「別に、どうでもいいよ。翔真のルックスなら、こうなってもおかしいことじゃないのは皆も分かってただろ。むしろ、今までが何もなさすぎたんだよ」

 何なら、騒いでいる他の奴らにも伝わるように、少し大きめの声で。
 『皆』と強調しつつ。

「それに、もしその話が真実だったとして、俺たちが出演するわけじゃないんだ。だったら、騒ぐことのほどでも、騒ぐべきことでもない」

 一蹴すれば、待っていたのは教室の静けさだった。
 まるで「冷めることを言いやがって……」とでも言いたげに黙り、向けられる視線。

「それより、押しかけられた翔真が大変だろうし、何より席が圧迫されて俺の居心地が悪いんでなるべく速やかに帰ってほしいわ」

 その、内輪ノリのような連帯感が何より嫌で、余計な一言を口走ってしまう。

「く、蔵敷くん……!」
「……そらはバカだなー」

 傍で聞いていた二人のうち、一人は焦った様子で、もう一人は呆れのため息を吐きながら返事をした。
 その他大勢の視線は言うまでもないだろう。おー、怖い怖い。

「――あら、この集まりは何ですか? もうすぐ授業が始まりますし、各々のクラスに戻ることをお勧めします」

 だが、残念ながら時間切れ。
 タイミングよく教室へと入ってきた三枝先生は、クラスの現状に気が付き、声を掛けてくれる。

 ともなれば、従うわけにはいかず、渋々とだが面倒な連中は去っていく。

「……すまん、助かった」

 親友の呟きが聞こえ、俺は肩をすくめる。

 さて、何のことだか。
 俺はかなたたちと、ただ雑談をしていただけだぜ。



 ――なんてな。
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