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September
9月27日(金) 期末考査・最終日
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「はい、筆記用具を置いてー」
チャイムが響く。
つられて先生が指示を出す。
解答欄の全て埋められたテスト用紙を前の席の人へ手渡せば、それは雪崩のように連鎖して、最終的には教壇に立つ先生の手によって回収された。
同時に、えも言われぬ安堵感がクラスに漂い始める。
「終わった~」
目の前に座る親友は、グッと両拳を突き上げて声を上げた。
「その様子だと、古典の調子も良かったみたいだな」
「あぁ、まぁな」
疲れたのか、そう答えた彼は頬を付けるように机に突っ伏す。
だが意外だ。苦手科目で「調子が良い」とは……。
「かなたはどうだった?」
「……バッチグー」
問われた幼馴染の倉敷さん。
彼女もまた自信たっぷりに指を立てると、寝ているそらの頬にピタリと自分の右頬をくっ付けた。
「……かなた、重い」
「重くなーい」
などと、仲の良いやり取り。
慣れなのか何なのか、普通なら鬱陶しさや妬みで見るのも嫌になるはずの光景なのだけど、不思議とこの二人の絡み合いにはクラス一同、ほっこりとした様子で見守っている。
「あ、相変わらず仲がいいね」
いつものメンバー、最後の一人。
詩音さんもまた、柔らかい笑みを浮かべて会話に参加してきた。
「詩音さんもお疲れ様。試験はどうだった?」
「う、うん。いつも通りだったよ」
ということは、今回もまた無事に四人ともテストを潜り抜けたということ。
結果が出ていないため早計であるのかもしれないが、俺や詩音さんは赤点を取るタイプではないし、そらや倉敷さんは逆に危ない橋を渡りまくっているため危機感地に強いため、最悪の結果にはならないだろう。
「それじゃあ、またいつもの打ち上げでもするか」
「だな」
「……おー」
「う、うん……!」
テスト後恒例のファミレスやカラオケによる打ち上げ――それを提案してみると、皆から色よい返事をいただく。
「なら、場所はいつもの――」
「すみません。畔上くんは、いますか?」
ならば、と場所を伝えようとしたところで、教室のドアが開かれた。
その隙間から三枝先生は顔を覗かせ、クラス全体に聞こえるように尋ねかける。
「――悪い、呼ばれた。ちょっと行ってくる」
「了解。……しかし、珍しいな」
「……何か、悪いことでもやった?」
「い、いってらっしゃい……!」
三者三様。
それぞれに見送られながら、俺は先生の元へと駆けて行った。
♦ ♦ ♦
案内されたのはいつもの特別教員室――ではなく、その隣の生徒指導室。
とはいえ、それは名ばかりの部屋であり、有り体に言えばこの実習棟用の応接室だったりする。
そこへと通された俺はであったのだが、備品として置かれている革のソファに座る人物を見て困惑する。
教員でも誰でもない、明らかに学園関係者外の人がそこにいたからだ。
――いや、でも俺はこの人を知っている……気がする。
より厳密な答えとしては、見たことがある。しかも、わりと最近に。
「それでは、私は隣の部屋で待機しておりますので何かあったらお声掛けください」
「――……えっ!?」
記憶を掘り出そうと、思考に耽ていると先生は頭を下げながらそんなことを言い出した。
いや、いくら何でも学生に丸投げしすぎじゃないか?
このおじさん、誰? 大丈夫な人なの?
そんな不安がよぎるが、先生は構わずドアを開けて出て行ってしまう。
……マジかー。
俺、どうすればいいの?
事態を飲み込めず、取り敢えず来訪者の方へと向き直れば、気さくに話しかけてきた。
「まぁまぁ、まずはどうぞ席に」
「あっ、どうも……失礼します」
軽く会釈をし、ソファに身を沈める。
先生が用意したのか、軽いお茶菓子と飲み物が二人分、ローテーブル上に用意されていた。
「やぁやぁ、どうも初めまして……ってわけでも一応はないから、敢えてこう挨拶をしようか。こんにちは」
「はぁ……こんにちは」
特徴的な言葉並びでの挨拶に、ペースを奪われたままの俺。
そんな折、一枚の紙が差し出される。
「そして、同時に自己紹介をさせてもらうよ。僕はね、こういう者なんだ」
「テレビ、ディレクター……?」
「そそ、簡単に言うと……ってほど難しくもないんだけどね。ま、一言で表すと『番組を作る人』さ」
それは、名刺。
本名らしき名前や、放送局、役職が記載されていた。
……そうか、分かった。
そこでようやく、ピンとくる。
体育祭のテレビ撮影――そのインタビューの際に近くで指示を出していた人だ。
だから見覚えがあったし、逆に言えばそれだけで接する機会がなかったから見覚えしかなかった。
…………ん?
でもじゃあ、この人は何のために今日ここに来たんだ?
疑問とは、解決するたびに新たに生まれるもの。
その答えもまた、彼の口から明かされるのだけど。
「――というわけで、君、テレビに出てみない?」
そうして、再び疑問は生まれる。
……で、なんで俺なわけ?
チャイムが響く。
つられて先生が指示を出す。
解答欄の全て埋められたテスト用紙を前の席の人へ手渡せば、それは雪崩のように連鎖して、最終的には教壇に立つ先生の手によって回収された。
同時に、えも言われぬ安堵感がクラスに漂い始める。
「終わった~」
目の前に座る親友は、グッと両拳を突き上げて声を上げた。
「その様子だと、古典の調子も良かったみたいだな」
「あぁ、まぁな」
疲れたのか、そう答えた彼は頬を付けるように机に突っ伏す。
だが意外だ。苦手科目で「調子が良い」とは……。
「かなたはどうだった?」
「……バッチグー」
問われた幼馴染の倉敷さん。
彼女もまた自信たっぷりに指を立てると、寝ているそらの頬にピタリと自分の右頬をくっ付けた。
「……かなた、重い」
「重くなーい」
などと、仲の良いやり取り。
慣れなのか何なのか、普通なら鬱陶しさや妬みで見るのも嫌になるはずの光景なのだけど、不思議とこの二人の絡み合いにはクラス一同、ほっこりとした様子で見守っている。
「あ、相変わらず仲がいいね」
いつものメンバー、最後の一人。
詩音さんもまた、柔らかい笑みを浮かべて会話に参加してきた。
「詩音さんもお疲れ様。試験はどうだった?」
「う、うん。いつも通りだったよ」
ということは、今回もまた無事に四人ともテストを潜り抜けたということ。
結果が出ていないため早計であるのかもしれないが、俺や詩音さんは赤点を取るタイプではないし、そらや倉敷さんは逆に危ない橋を渡りまくっているため危機感地に強いため、最悪の結果にはならないだろう。
「それじゃあ、またいつもの打ち上げでもするか」
「だな」
「……おー」
「う、うん……!」
テスト後恒例のファミレスやカラオケによる打ち上げ――それを提案してみると、皆から色よい返事をいただく。
「なら、場所はいつもの――」
「すみません。畔上くんは、いますか?」
ならば、と場所を伝えようとしたところで、教室のドアが開かれた。
その隙間から三枝先生は顔を覗かせ、クラス全体に聞こえるように尋ねかける。
「――悪い、呼ばれた。ちょっと行ってくる」
「了解。……しかし、珍しいな」
「……何か、悪いことでもやった?」
「い、いってらっしゃい……!」
三者三様。
それぞれに見送られながら、俺は先生の元へと駆けて行った。
♦ ♦ ♦
案内されたのはいつもの特別教員室――ではなく、その隣の生徒指導室。
とはいえ、それは名ばかりの部屋であり、有り体に言えばこの実習棟用の応接室だったりする。
そこへと通された俺はであったのだが、備品として置かれている革のソファに座る人物を見て困惑する。
教員でも誰でもない、明らかに学園関係者外の人がそこにいたからだ。
――いや、でも俺はこの人を知っている……気がする。
より厳密な答えとしては、見たことがある。しかも、わりと最近に。
「それでは、私は隣の部屋で待機しておりますので何かあったらお声掛けください」
「――……えっ!?」
記憶を掘り出そうと、思考に耽ていると先生は頭を下げながらそんなことを言い出した。
いや、いくら何でも学生に丸投げしすぎじゃないか?
このおじさん、誰? 大丈夫な人なの?
そんな不安がよぎるが、先生は構わずドアを開けて出て行ってしまう。
……マジかー。
俺、どうすればいいの?
事態を飲み込めず、取り敢えず来訪者の方へと向き直れば、気さくに話しかけてきた。
「まぁまぁ、まずはどうぞ席に」
「あっ、どうも……失礼します」
軽く会釈をし、ソファに身を沈める。
先生が用意したのか、軽いお茶菓子と飲み物が二人分、ローテーブル上に用意されていた。
「やぁやぁ、どうも初めまして……ってわけでも一応はないから、敢えてこう挨拶をしようか。こんにちは」
「はぁ……こんにちは」
特徴的な言葉並びでの挨拶に、ペースを奪われたままの俺。
そんな折、一枚の紙が差し出される。
「そして、同時に自己紹介をさせてもらうよ。僕はね、こういう者なんだ」
「テレビ、ディレクター……?」
「そそ、簡単に言うと……ってほど難しくもないんだけどね。ま、一言で表すと『番組を作る人』さ」
それは、名刺。
本名らしき名前や、放送局、役職が記載されていた。
……そうか、分かった。
そこでようやく、ピンとくる。
体育祭のテレビ撮影――そのインタビューの際に近くで指示を出していた人だ。
だから見覚えがあったし、逆に言えばそれだけで接する機会がなかったから見覚えしかなかった。
…………ん?
でもじゃあ、この人は何のために今日ここに来たんだ?
疑問とは、解決するたびに新たに生まれるもの。
その答えもまた、彼の口から明かされるのだけど。
「――というわけで、君、テレビに出てみない?」
そうして、再び疑問は生まれる。
……で、なんで俺なわけ?
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