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September
9月26日(木) 期末考査・三日目
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「つーかーれーたー」
テストを終え、帰宅して早々に私はそう唸った。
……そらの部屋で。
「何で、直で来てんだよ……。一回帰れよ」
「……面倒」
パソコンの前で呆れるそらに、私は彼の愛用している抱き枕を抱えながら答える。
なぜなら、自室に戻ったところで、明日の試験対策のために数分後にはここに来ているからだ。
だったら、もう直接来ても何も変わらないだろう。
「いや、飯食ってこいよ。俺も、今から食うし」
だというのに、なぜか認めてくれなかった。
「じゃあ、一緒に作ってー」
それに、動く気分でもない。
贅沢は言わないから、下で作って、ここまで持ってきて、一緒に食べてほしい。それだけでいい。
「やだよ……。どうせそっちは、親が昼飯を用意してくれてるんだろ?」
しかし、渋る幼馴染。
なかなか強情な奴である。
「んー……それは、夜食べるから」
「何でだよ、意味が分からん……。作るだけ俺の手間じゃねーか。それこそ、面倒だっつーの」
むぅー、このやろう……。
これだけお願いしても靡いてくれないとは。
それどころか、ため息を吐いて部屋を出ていこうとする彼の姿に、私は諦めを感じていた。下を向く。
「――で? 何が食べたいわけ?」
「…………っ!」
突然の言葉に、顔を上げた。
見れば、半開きにしたドアから少し顔を覗かせるようにして、こちらを横目で窺っている。
「オムライス!」
それが嬉しくて、ついリクエスト。
正直、一緒に食べられれば何でも良かった。だから、つい彼の好物の一つを頼んだ。
「えぇー、だる……。俺、オムライスにはデミグラスソース派なんだけど」
知ってる。
でも、料理の得意なそらなら何とかなるだろう。
「……作ればいい」
「作り方、知らねーんだって」
そんな時こそ、文明の利器。
ポケットから取り出したある物を掲げ、振って見せる。
「大丈夫。そらなら、調べて作れる……!」
「マジかー…………」
万能の極み。なくてはならない存在。
その名も、スマートフォンだ。
面倒そうに、しかしちゃんと検索するために自身のスマホを取り出した彼は、タップとフリックを駆使して目的のページまで行き着く。
「げっ、赤ワインが必要じゃん……。家にねぇぞ」
唸るそら。
けれど、私はあることを思い出していた。
「……昨日、お父さんが飲んでた。多分、残りがあったはず」
「じゃあ、作ってやるから持ってこい。ついでに、荷物とかも置いてこいよ」
「ん、了解」
放っていた自分の鞄を手に、彼と一緒に部屋を出た。
♦ ♦ ♦
作る過程は省略し、目の前には立派なデミオムライスが完成していた。
初めて作ると豪語していた割には、随分と慣れた手捌きっぷりであり、私が使い終わった器具を洗って食洗器の中に突っ込むという補佐をこなしている間に、いつの間にか出来上がっていたのだ。
というわけで、実食。
『いただきまーす』
向かい合ってテーブルに座り、手を合わせてスプーンを持つ。
本人のこだわりらしく、中央に装われたチキンライスの上にふんわりとしたオムレツが乗せられ、お店で出るみたいに真ん中を切って左右に卵を広げられている。
そして、その周りをデミグラスソースが覆い、まるでソースの海に浮かぶ孤島のようだ。
一口大に取り分け、ソースと一緒に掬った私は口に運ぶ。
トロトロの卵、手作りソースが味を主張してくるけれど、チキンライスのおかげで全く諄くない。
「……ん、うまうま」
出来立てであるため、熱かった。
でも、それがいい。
私の反応を見て、ようやくそらも自分の料理に手を付け始める。
「…………まぁ、こんなものか」
そこは美味しい、でいいのでは……?
などと疑問が湧くけれど、この料理の前では全てが些末なことに過ぎない。
自分で自分を褒めるのが苦手なだけなのだろうし。
だから、私が代わりに褒めてあげるのだ。
「――そら」
「……なんだ?」
「美味しい。ありがと」
「……………………ん」
ぶきっちょに、無表情を貫いてそれだけ返事をする幼馴染の様子に、私の口元は緩む。
さて、この後も頑張らなければ。
私が古文を教え、そして数Ⅱを教えられ――。
明日の、最後のテスト科目に向けて頑張ろー。おー。
テストを終え、帰宅して早々に私はそう唸った。
……そらの部屋で。
「何で、直で来てんだよ……。一回帰れよ」
「……面倒」
パソコンの前で呆れるそらに、私は彼の愛用している抱き枕を抱えながら答える。
なぜなら、自室に戻ったところで、明日の試験対策のために数分後にはここに来ているからだ。
だったら、もう直接来ても何も変わらないだろう。
「いや、飯食ってこいよ。俺も、今から食うし」
だというのに、なぜか認めてくれなかった。
「じゃあ、一緒に作ってー」
それに、動く気分でもない。
贅沢は言わないから、下で作って、ここまで持ってきて、一緒に食べてほしい。それだけでいい。
「やだよ……。どうせそっちは、親が昼飯を用意してくれてるんだろ?」
しかし、渋る幼馴染。
なかなか強情な奴である。
「んー……それは、夜食べるから」
「何でだよ、意味が分からん……。作るだけ俺の手間じゃねーか。それこそ、面倒だっつーの」
むぅー、このやろう……。
これだけお願いしても靡いてくれないとは。
それどころか、ため息を吐いて部屋を出ていこうとする彼の姿に、私は諦めを感じていた。下を向く。
「――で? 何が食べたいわけ?」
「…………っ!」
突然の言葉に、顔を上げた。
見れば、半開きにしたドアから少し顔を覗かせるようにして、こちらを横目で窺っている。
「オムライス!」
それが嬉しくて、ついリクエスト。
正直、一緒に食べられれば何でも良かった。だから、つい彼の好物の一つを頼んだ。
「えぇー、だる……。俺、オムライスにはデミグラスソース派なんだけど」
知ってる。
でも、料理の得意なそらなら何とかなるだろう。
「……作ればいい」
「作り方、知らねーんだって」
そんな時こそ、文明の利器。
ポケットから取り出したある物を掲げ、振って見せる。
「大丈夫。そらなら、調べて作れる……!」
「マジかー…………」
万能の極み。なくてはならない存在。
その名も、スマートフォンだ。
面倒そうに、しかしちゃんと検索するために自身のスマホを取り出した彼は、タップとフリックを駆使して目的のページまで行き着く。
「げっ、赤ワインが必要じゃん……。家にねぇぞ」
唸るそら。
けれど、私はあることを思い出していた。
「……昨日、お父さんが飲んでた。多分、残りがあったはず」
「じゃあ、作ってやるから持ってこい。ついでに、荷物とかも置いてこいよ」
「ん、了解」
放っていた自分の鞄を手に、彼と一緒に部屋を出た。
♦ ♦ ♦
作る過程は省略し、目の前には立派なデミオムライスが完成していた。
初めて作ると豪語していた割には、随分と慣れた手捌きっぷりであり、私が使い終わった器具を洗って食洗器の中に突っ込むという補佐をこなしている間に、いつの間にか出来上がっていたのだ。
というわけで、実食。
『いただきまーす』
向かい合ってテーブルに座り、手を合わせてスプーンを持つ。
本人のこだわりらしく、中央に装われたチキンライスの上にふんわりとしたオムレツが乗せられ、お店で出るみたいに真ん中を切って左右に卵を広げられている。
そして、その周りをデミグラスソースが覆い、まるでソースの海に浮かぶ孤島のようだ。
一口大に取り分け、ソースと一緒に掬った私は口に運ぶ。
トロトロの卵、手作りソースが味を主張してくるけれど、チキンライスのおかげで全く諄くない。
「……ん、うまうま」
出来立てであるため、熱かった。
でも、それがいい。
私の反応を見て、ようやくそらも自分の料理に手を付け始める。
「…………まぁ、こんなものか」
そこは美味しい、でいいのでは……?
などと疑問が湧くけれど、この料理の前では全てが些末なことに過ぎない。
自分で自分を褒めるのが苦手なだけなのだろうし。
だから、私が代わりに褒めてあげるのだ。
「――そら」
「……なんだ?」
「美味しい。ありがと」
「……………………ん」
ぶきっちょに、無表情を貫いてそれだけ返事をする幼馴染の様子に、私の口元は緩む。
さて、この後も頑張らなければ。
私が古文を教え、そして数Ⅱを教えられ――。
明日の、最後のテスト科目に向けて頑張ろー。おー。
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