彼と彼女の365日

如月ゆう

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September

9月19日(木) メンバー選考

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 とある空き教室。
 そこに集められた男子生徒四人、女子生徒一人、教師二人。

 これからなにが始まるのか、厳かな雰囲気に包まれる中、俺は一人挙手をした。

「あのー……ひとつ聞いてもいいですか?」

「何だ蔵敷、言ってみろ」

 発言を許され、俺はこの部屋にいる紅一点を指差す。

「新人戦のメンバー決めってことで、前の大会に出場した部員が集められたのは理解できるんですけど――何でそこにかなたまで居るんですかね?」

 何をするでもなくポケ~っと、俺の隣に無口のまま座る幼馴染を差して、唯一の疑問を口に出した。

 マネージャー全員が出席しているのなら、納得できる。
 そうでなくとも、菊池さんと叶さんが一緒であれば、最上級生のマネージャーが呼ばれたんだな――とでも思えた。

 だけど違う。そうじゃない。
 まだ入って間もない、最も新参者である彼女を呼んだ理由とは何なのであろうか。

「あぁ、そのことか。清水から聞いているぞ。部員のデータ管理を引き継いでくれているんだろ?」

「……………………あっ……」

 そういえば、そうだっけか。
 いやでも、確かに記録はしてるみたいだし、俺が教えた通りに先輩から貰ったアプリケーションソフトにそのデータを打ち込んでもいるようだけど、それを元にメンバー選考をする――なんて芸当をコイツができるとは思えないんだが……。

「――というわけだ。今回はこのメンバーで選考を始める」

 不安の残る中、会議は始まった。


 ♦ ♦ ♦


「さて……ではまず、お前たちから推薦したい部員はいるか?」

 早速とばかりに、顧問は質問をしてきた。

 大会に出られるメンバーは最大で十六人。
 団体戦で七人、個人戦シングルスに三人、個人戦ダブルスに三組六人の振り分けであり、この場にはタブルスコンビが一組とシングルス勢が二人の計四人しか居ないため、数が足りていないのだ。

「特にいません」

 肩を竦め、俺は早々にリタイアする。
 他人にあまり関心のない俺が、他の部員の動きなんぞ見てはいないし、成長具合も知らない。知るはずがない。

「ふむ……他の者は?」

「自分は、一年生の小栗・塩原コンビを推します」
「同じく。アイツらはうちのダブルスの中でも別格に上手くなってます」

 同級生のダブルスコンビが意見した。
 俺には当てはまる人物が居ないのだが、顧問やコーチにとっては周知の事実のようで、納得するように頷く。

「……確かに、悪くない」
「私も賛成ですね。後任のダブルスペアを作るという意味でも参加させた方がいいかと」

 とのことで、決まった。

「部長はどうだ?」

「二年の宮内、一年の水戸あたりはかなり上達してると思います。特に、宮内は部内戦で四位でしたし」

「……妥当だな」

 へぇー、四位。
 ……って、それ俺より上の奴じゃねーか。

 やべぇ……前回の大会で選ばれなかったことで、恨まれてるかも。

「これで団体戦のメンバーはある程度固まったわけだが……今回は新人戦だ。なるべく多くのメンバーを選出するため、お前たちには悪いが個人戦の出場は認めない。いいな」

『はい……!』
「はい…………って、え?」

 何その言い方。
 それじゃ、まるで――。

「何だ、蔵敷。不満があるか?」

「いや、不満というか……一つ確認なんですけど、俺が出るのって団体戦ですか?」

「そうだ」

 何それ、聞いてない。

「あのー……個人的には個人戦に出たいなぁ、って思うのですが」

「ダメだ」

 どうにか出場枠を移してもらえないかと、やんわりそれとなく伝えてみるが、呆気なく一蹴される。

「それこそ、一年生の……水戸、くん? に任せればいいんじゃ……」

「認めない」

 頑なな固辞。

「いやでも、そういうプレッシャーのかかりそうな枠だと本領を発揮できないというか……」

「なら、本領を発揮できなくても勝てるくらいに残りの日数で強くなれ」

 脳筋かよ、この顧問。
 どんだけ、俺を出場させたいんだよ。引くわ。

 けど、悲しいかな。
 ここまで否定されては、何を言おうとも否定される未来しか見えない。

「はぁ……分かりました」

「納得してくれたようで何よりだ。では、個人戦の選考に移ろう」

 ポンと肩を叩かれたかなたの手が温かく、俺は再度ため息を吐くのであった。
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