彼と彼女の365日

如月ゆう

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September

9月15日(日) 放送日とその他いろいろ

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 今日は……いや、今日もまた私は幼馴染の家に来ていた。

 日課、というか週課というか……休みの日、暇になる度に行っているこの行動は、むしろ習慣と言っても間違ってはいない。

「……お邪魔します」

「はーい、いらっしゃい」

 玄関先に出迎えてくれたのは、そらママ。
 しかし、それだけであり、私を迎え入れたらすぐにリビングへと戻って行ってしまう。

 なので私が鍵を閉め、靴を脱ぎ、勝手知ったる様子で階段を上って、目的の部屋へと進むのだ。

 この自由奔放さ……最早ここは、私の第二の家と化していた。

「――よぉ、おかえり」

「ただいま」

 ジグゾーパズルの掛けられた簡素な木製のドアを押し開くと、そんな問答を交わし合う。

 とはいえ、最近発売されたらしい怪物モンスターを狩るゲームに夢中のそらは、画面からこちらに目を逸らすことなく、声だけを届けてくるだけだけど。

「誰かと遊んでるの?」

「いや、今は一人で素材を集めている最中。だから、ヘッドホンはゲームの方じゃなくて、パソコンの方に繋がってるだろ?」

 そう言われ、ケーブルの方を辿って見れば確かに。
 パソコンの画面にはアニメが流れており、その画面をそっちのけでゲームをしている。

 ――って、コイツ……アニメを聴きながらゲームしてるのか……。贅沢なやつ。

「……それで、内容分かるの?」

 純粋な疑問。
 音楽でもなければ、ドラマCDでもないソレを、聞いただけで理解できるものなのだろうか。

「あぁ、大丈夫。二・三回は見て、中身を覚えてるヤツだから」

 それはそれで、流す意味がないような……。
 まぁ、本人が満足してるなら、別にいいか。

「ということは、今は暇なの?」

「暇……暇かぁ…………確かに、暇といえば暇だが、一応は俺のやりたいことであるのだし、ある意味ではやらなければならないという義務的な側面を存在して――」

「――なら、ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど」

「…………いや、聞けよ」

 最後まで言わせることなく、言葉を遮った私に容赦ないツッコミが飛んでくる。

 でも、仕方ない。
 聞いても無駄、というよりは別に全部聞かなくても本人の言いたいことが分かってしまったのだから。

 何なら、私たちの場合は何も聞かなくても分かってしまうまである。
 何だかんだで甘いそらのことだ。このあとはきっと――。

「まぁ、別にいいけどさ……」

 ――ほら、了承してくれた。

「で、その内容は? 勉強か?」

「違う、パソコンのこと」

「へぇー、お前が……? てか、そういうことは師匠かなたのお父さんにでも聞いた方が早いだろ」

 確かにその通り。
 でも――。

「部活のことだから。……そらの方が適任」

「あー……まぁ、それはそうだ。そうなんだが……一つ条件がある」

「…………何?」

 妙に渋る幼馴染。
 条件なんて言わず、お願いごとがあるなら何でも言ってくれればいいものを……。

「――このクエストが終わってからでもいいか?」


 ♦ ♦ ♦


 というわけで、そらからパソコンを習い、先輩から貰った計算ソフトの使い方を覚えていると、いつの間にか日は傾いていた。

 あと一、二時間ほどで夕食時。
 私も帰らなければならなくなる――そんな時分だ。

「――おっ、割といい時間だな。リビングに行こうぜ」

 ともすれば、そらは急に私の手を引き部屋の外へと連れ出す。
 基本的に自室でしか過ごさない彼としては、珍しい行動である。

「何? どした?」

 故に目を丸くする私ではあるが、その質問に答えてはくれない。
 そのまま、リビングのソファまで来れば、腰を下ろして付けっぱなしのテレビのチャンネルを変える。

 これには、夕飯の準備のためにキッチンを奔走していたそらママもビックリだ。

「急に、どうかした……?」

「私にも分かんないです……」

 事態を飲み込めないまま、時間が来たようで番組が変わった。

 流れるチャンネルは福岡のローカル局。
 その中でも、地元の特集をメインに伝える情報系の夕方ワイド番組である。

「そら、こんなの見てたっけ?」

「いいや、そんなに。ま、今日だけは特別ってやつだ」

 ……………………?
 今回ばかりはその真意が読み取れない。

 ただ、見ていれば答えは分かるようなので、仕方なく私も黙ってそらの隣に腰掛けた。

『――さて、本日の地元特集は……ここ! 福岡有数のマンモス校であり、部活動もめっぽう強い"和白高校"の体育祭だー!』

 それから十数分後。
 始まったコーナーとともに流れる小粋なトークを聞いて、ようやく私は察する。

 画面には『潜入! 和白高校の体育祭』と銘打たれ、背景映像として音声の抜かれた畔上くんのインタビュー姿が映っていた。

「ハハハ、翔真のやつ写ってやがる! あとでメッセージ送ってやろー」

 それに対し、親友様は大爆笑。
 …………最低だ、この幼馴染。

 でもまぁ、背景映像として使われるということは、それだけ彼に華があるということなのだろう。
 さすが『貴公子』やら『神』やらと崇められているだけのことはある。

「……あっ、詩音にも教えとこ」

 手元のスマホでメッセージアプリを開き、この前に撮影に来てたテレビの放送があってること、そして畔上くんが出演している旨を送った。

 が、しかし。

「……既読がつかない。忙しいのかな?」

 とはいえ、放送のことを後で知ったら……彼女のことだ、きっと悲しむ。
 なので、通話に切り替えるも――。

「――こっちも繋がらない、か」

 なら、仕方がない。
 今回はご縁がなかったということで……。

 親友を心中で労い、慰め、テレビに戻る。

 普段の練習光景が流れ、本番の演舞をそれぞれのブロックごとにノーカット放送。
 終いには、音声ありの畔上くんのインタビューまである、豪華な番組だった。



 本日のあと語り――。

 終了後、丁度いいタイミングでスマホが震える。
 そこにあったのは、メッセージアプリの通知が一件。

『ごめん、かなちゃん。この前に来てたテレビ番組の放送を見たり、録画してたりしてて気付かなかった……』

 あっ、はい……そうでございましたか。
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