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September
9月8日(日) 打ち上げ
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後の祭り――時機を逸して、後悔の念を表す言葉。手遅れ。
その語源には諸説あるが、最も有力なものとしては――七月一日から約一ヶ月間行われる京都の祇園祭、その山鉾と呼ばれる豪華な山車が多く繰り出される十七日間の巡行を『前の祭り』といい、反対にその後の賑やかさに欠けた還車の行事を『後の祭り』ということから、見物に行っても意味がなくもう遅い――との話がある。
であるならば、その語順を入れ替えた『祭りの後』という言葉にはどんな意味が込められるだろう。
楽しい時間があっという間に過ぎてしまった悲しみだろうか?
それとも、新たに刻まれた思い出を胸に感傷に浸ることだろうか?
否。答えは否。
とある陽キャでパリピなリア充様は、こうご高説宣われた。
すなわち――えっ、祭りの後といえば、もち打ち上げっしょ! 祭り以上にお祭り騒ぎで、みんな盛り上がっていきましょウェーイ!――と。
そんなわけで、今日は体育祭の打ち上げ。
無事に総合優勝したということもあり、クラス全員で集まって学校近くのお店に来ていた。
こじんまりとしており、しかし、内装がかなりオシャレなイタリアン料理店。
そこを貸し切ったようで、すでに人数分のテーブル席とちょっとした料理が先に並び、飲み物がそれぞれに行き渡れば、この会の発起人である男子生徒が音頭を取る。
「えー、体育祭優勝おめでとう。乾杯!」
『かんぱーい!』
至る所で鳴り響く、グラスの衝突音。
それから喉を濡らし、料理を突っつきながら、各々は好き勝手に近場の人と会話を楽しんでいた。
さて、その中でもやはり、主役というのは存在する。
女子に囲まれ、男子にも囲まれ、皆にチヤホヤされる打ち上げの開催者とは全く別の者が。
言わずもがな、であろう。
部活動紹介リレーにおいては、陸上部を抜き去っての堂々の一位。
出場した騎馬戦では副将という立ち位置での登場で観客を沸かせ、また、実際の試合でも大将に挑みにかかる敵の騎馬をちぎっては投げ、ちぎっては投げの大活躍。
最終競技のブロック対抗リレーには、アンカーであるブロック長にバトンを手渡す重要ポジションとして出場し、他を寄せ付けない走りで優勝へと導いた立役者。
その容姿から収録に来ていたテレビにインタビューまでされ、果てにはその女性インタビュアーを虜にしたとの噂もたつ色男。
我らが『神』――畔上翔真くんだ。
「しかし、相変わらずの人気者だな……アイツは」
その様子を少し離れたテーブルから、ミネラルウォーター片手に時折ミートソースパスタを摘まみながら、俺は隣の少女らに話しかけた。
「昨日が昨日だったしね。……詩音は行かなくていいの?」
「わ、私は…………うん、大丈夫」
さて、それは一体どういう意味なのか。
何にしても、本人が納得している以上は外野が口を挟むべきではない。
「ていうか、アレは大丈夫なのか? なんか、この打ち上げが終わったら、持ち帰りされそうな勢いなんだけど……」
飲んで、食べて、喋って……結構な時間が経ってみれば、取り巻きの女子の比率が凄いことになっていた。
このまま流れで一緒にどこかへ――みたいな雰囲気に、傍から見ていても危機を感じ、俺は指摘してみる。
けれど、対するかなたと菊池さんは、「何を今さら」とでも言わんばかりに目をパチクリとさせ、挙句の果てにはこんなことを言い出した。
「……二次会、もう決まってる」
「う、うん……この後、カラオケだって」
「あっ……さいですか」
素早い事態の進行に、ため息しか出てこない。
『祭りの後』にまた祭りがあるのなら、その祭りの後にも当然祭りはやってくる。
そんな果てのない旅路が終わることを祈って、俺はこの場を最後に帰宅することを決意した。
――頑張れよ、親友。
その語源には諸説あるが、最も有力なものとしては――七月一日から約一ヶ月間行われる京都の祇園祭、その山鉾と呼ばれる豪華な山車が多く繰り出される十七日間の巡行を『前の祭り』といい、反対にその後の賑やかさに欠けた還車の行事を『後の祭り』ということから、見物に行っても意味がなくもう遅い――との話がある。
であるならば、その語順を入れ替えた『祭りの後』という言葉にはどんな意味が込められるだろう。
楽しい時間があっという間に過ぎてしまった悲しみだろうか?
それとも、新たに刻まれた思い出を胸に感傷に浸ることだろうか?
否。答えは否。
とある陽キャでパリピなリア充様は、こうご高説宣われた。
すなわち――えっ、祭りの後といえば、もち打ち上げっしょ! 祭り以上にお祭り騒ぎで、みんな盛り上がっていきましょウェーイ!――と。
そんなわけで、今日は体育祭の打ち上げ。
無事に総合優勝したということもあり、クラス全員で集まって学校近くのお店に来ていた。
こじんまりとしており、しかし、内装がかなりオシャレなイタリアン料理店。
そこを貸し切ったようで、すでに人数分のテーブル席とちょっとした料理が先に並び、飲み物がそれぞれに行き渡れば、この会の発起人である男子生徒が音頭を取る。
「えー、体育祭優勝おめでとう。乾杯!」
『かんぱーい!』
至る所で鳴り響く、グラスの衝突音。
それから喉を濡らし、料理を突っつきながら、各々は好き勝手に近場の人と会話を楽しんでいた。
さて、その中でもやはり、主役というのは存在する。
女子に囲まれ、男子にも囲まれ、皆にチヤホヤされる打ち上げの開催者とは全く別の者が。
言わずもがな、であろう。
部活動紹介リレーにおいては、陸上部を抜き去っての堂々の一位。
出場した騎馬戦では副将という立ち位置での登場で観客を沸かせ、また、実際の試合でも大将に挑みにかかる敵の騎馬をちぎっては投げ、ちぎっては投げの大活躍。
最終競技のブロック対抗リレーには、アンカーであるブロック長にバトンを手渡す重要ポジションとして出場し、他を寄せ付けない走りで優勝へと導いた立役者。
その容姿から収録に来ていたテレビにインタビューまでされ、果てにはその女性インタビュアーを虜にしたとの噂もたつ色男。
我らが『神』――畔上翔真くんだ。
「しかし、相変わらずの人気者だな……アイツは」
その様子を少し離れたテーブルから、ミネラルウォーター片手に時折ミートソースパスタを摘まみながら、俺は隣の少女らに話しかけた。
「昨日が昨日だったしね。……詩音は行かなくていいの?」
「わ、私は…………うん、大丈夫」
さて、それは一体どういう意味なのか。
何にしても、本人が納得している以上は外野が口を挟むべきではない。
「ていうか、アレは大丈夫なのか? なんか、この打ち上げが終わったら、持ち帰りされそうな勢いなんだけど……」
飲んで、食べて、喋って……結構な時間が経ってみれば、取り巻きの女子の比率が凄いことになっていた。
このまま流れで一緒にどこかへ――みたいな雰囲気に、傍から見ていても危機を感じ、俺は指摘してみる。
けれど、対するかなたと菊池さんは、「何を今さら」とでも言わんばかりに目をパチクリとさせ、挙句の果てにはこんなことを言い出した。
「……二次会、もう決まってる」
「う、うん……この後、カラオケだって」
「あっ……さいですか」
素早い事態の進行に、ため息しか出てこない。
『祭りの後』にまた祭りがあるのなら、その祭りの後にも当然祭りはやってくる。
そんな果てのない旅路が終わることを祈って、俺はこの場を最後に帰宅することを決意した。
――頑張れよ、親友。
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