彼と彼女の365日

如月ゆう

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August

8月24日(土) 引退試合

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 今日は、この前の大会で去ってしまった三年生のための引退試合。

 朝から集まって丸一日中、部員全員でとにかく総当たり戦をするのが代々のウチの習わしであるのだけど……昨年から部員数が急激に増えているため、少し早く試合を回すために特別ルールを敷いていた。

 十五点マッチの二セット先取、三セット目のみ十点マッチでデュースはなし。

 そのせいで試合に少し物足りなさは残るものの、それでも、お世話になった先輩に成長を見せるべく、生意気な後輩に三年間の努力と威厳を示すべく、そして試合機会に乏しい一年生はやる気を顕に、各々で楽しんでいる。

「――やぁ、畔上。今日は僕たちのために、わざわざありがとう.」

「…………部長」

 その待機時間。
 体育館の隅で全体の様子を見ていると、部長が話しかけに来た。

 タオルを首から下げて汗を拭き、反対の手でラケットを握る彼は、俺の返した反応に笑みを零す。

「おいおい、今は君が部長だろ?」

「あっ……すみません、佐久間先輩」

 言葉の意味に気付き、呼び名を変えた。

 そうだ、もう俺が部長なんだ。
 しっかりと自覚しなければいけない。

「まぁ、少しずつ慣れていけばいいさ。それよりも…………蔵敷宙、彼は強いな」

 唐突に出る親友の名前に、ピクリと反応してしまう。

「さっき、戦ったよ。……負けた。県大会で入賞し、あまつさえ君に勝って九州大会を優勝していたが……まさか、あれほどとはね。ラケットを交えて、初めてその強さが身に染みた」

 先輩の方を向けば、枯葉どこか遠くに目を向けていた。
 その視線の先が気になり、同じように追ってみると、そこには件の少年が試合をしている。

 ――倉敷さんと三年生マネージャーの香織先輩、そして一年生マネージャーの栞菜ちゃんを加えた三対一の試合を、だ。

 その理由は単純。
 今日だけはマネージャーチームということで彼女らにも参加を許し、ハンデとして好きな人数だけコートに入れてもよいというルールを設けていたから。

 とはいえ、傍から見たらただ仲良く遊んでいるようにしか見えないものだな……。

「五月のメンバー推薦で、君とあの清水が推しただけのことはある。……おかげで、この催しの優勝に一歩遠のいてしまった」

 肩を竦め、茶化すように笑う先輩。

「ちなみに、今回の賞品を君は知っているのかな?」

「いえ、先生方が選んで買ってきてくれたので……。中身は聞いていません。そのランダム性も含めて、『楽しい』のでしょうし」

「…………違いない」

 さて、この総当たり戦では戦績を元に順位付けを行って、一位から順に包装紙で中身の分からない賞品の山の中から好きな物を一つ選ぶというルール――もとい表彰があるのだ。

 一応、部長権限――というわけでもないのだけど、先生に尋ねれば何を買ったかくらいは教えてくれるだろう。
 だが、それでは娯楽に欠けると思い、俺は全てを任せていた。何も知らない。

「――さて、そういえば君の戦績を聞いていなかったな」

「ありがたいことに、今のところは全勝です」

「そうか……。なら、尚更負けられないな。月並みの言葉ではあるけれど、僕にも意地がある」

 そう言って、先輩は手を差し伸べてくれた。
 その意味を理解して掴めば、力強く引き起こしてくれる。元部長としての支えを感じる。

「はい、俺も負けません」

 返事をすれば、彼はそのまま背を向けた。
 試合があるのだろう。俺もそろそろ時間だ。

 けれど、その歩みを少しして止める。
 振り向いた俺は、見ていないであろうその背中に向けて頭を下げた。

「今まで、ありがとうございました」

 その誇らしい、数十人の部員を支えた後ろ姿にかけた呟き。
 その声は、きっと誰にも届いていない。
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