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August
8月16日(金) されど教師は忙しい
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お盆の明けた今日。
とはいえ、それが一体どうした――と言わんばかりに社会人は働きに出ており、かくいう私も朝から学校へと行っていました。
もうすぐ再開する補習の準備、夏休みを終えてから必要になる授業の用意、職員会議に研修、雑務……。
相も変わらず、仕事は盛り沢山。
ですのでもちろん、帰宅時間は日がすっかり落ちてから。
まだ生徒は休みの真っ只中で、午前中から自分の仕事に専念できていたのに、帰りの時間は普段と同じです。
…………おかしいですね。
補習も授業も、手を取られる時間はないというのに、どうしてなのでしょうか。
もしや、これがよく聞く学園の七不思議というものでは……?
まさに――増える階段ならぬ『増える仕事量』。
…………こほん、閑話休題。
そんな私は、クタクタの身体を引きずって家へと帰ると、ドアも鍵も閉めて外の世界と断絶し、開口一番にこう言いました。
「…………つかれたー」
「うん、おかえり――とは言っても、僕もついさっき帰ってきたばかりだけどね」
ともすれば、タイミングよくゆうくんは部屋から姿を現し、そう声を掛けてくれます。
いつもの緩い私服姿。きっと、着替えたばかりなのでしょう。
「じゃあ、ゆうくんもお疲れ」
「はい、お疲れ様」
ポンポンと二度、頭を叩かれたように撫でられたように触られ、一足先にリビングへと彼は向かっていきました。
それにしても、「今帰ってきた」なんて……今日は講習会だと聞いていましたけど、中学校の養護教諭もこちらと同じで忙しいみたいですね。
部活動時は常に保健室を開いてないといけないみたいですし、きっとこういうタイミングでないと参加できないのでしょう。大変です。
学校はブラック企業。教員は社畜。
そう周りから言われているようですが、あながち間違いではないのかもしれません。
取り敢えず、私は顧問などしていなくて良かった……。
♦ ♦ ♦
「お盆に合わせて休みを取ったけど、今年もあまり休めなかったね」
お酒と電話注文した出来合いの料理を並べて、私たちは晩酌をしていました。
「そうだね。……まぁ、お盆に休みを取った理由の半分くらいは、家族の集まりがあったからだけど」
「そして、休めなかった原因の大半もそれという……」
毎年、お盆とお正月には親戚一同――全員合わせて二十人から三十人ほどが集まって食事をするという、同じく毎年夏に放送されるタイトルに『戦争』の意味合いの文字を含んだアニメーション映画も顔負けの集まり。
そこで降りかかる身内話の殆どが、結婚や恋人などといったものばかりで気が滅入ってしまいます。
「本当は仕事が忙しいって断るつもりだったけど、うちの母がしつこくて……」
「しょうがないよ、伯母さんは厳しい人だからね」
互いに既知の人物なため、呆れてため息を吐きました。
「――それに、今の生活のことについてもちゃんと言えてないんだし」
そう、ゆうくんの言う通り。
この同棲については親戚一同理解していることだとはいえ、それあくまでも「職場が互いに近い故のシェアハウス」という認識。
故に、この家に存在する二つの部屋の用途が私とゆうくんのそれぞれの自室――ではなく、片方が着替え兼収納部屋で、もう片方が二人のベッドルームという事実など知る余地もないのです。
「なら、仕方ないのかな……」
当分は、まだ話す気はないですから。
今の生活を続けるために、守るために、甘んじて小言を受けましょう。
「はぁー……それにしても、生徒は夏休みかー……。…………羨ましいな」
話は一転し――といいますか戻り、休みのことについて再び語っていきます。
「でも、ゆうちゃんの学校は補習があるみたいだし、子供たちもそれなりに大変なんじゃないかな?」
「午前授業な上に、土日は休みだけどね……」
それに比べ、私たちは午後も土日も仕事。仕事。仕事。
「ちなみにゆうちゃん、明日の予定は?」
「今日の分の続きと、いつもの会議。ゆうくんは?」
「確か……バスケ部の部活があるみたいだから保健室を開けて、事務作業かな」
いつもすぎるスケジュールに、苦笑しか浮かびません。
以上、これが教員の現実なのでした。
…………休みのそらくんたちは、何をするのかな?
とはいえ、それが一体どうした――と言わんばかりに社会人は働きに出ており、かくいう私も朝から学校へと行っていました。
もうすぐ再開する補習の準備、夏休みを終えてから必要になる授業の用意、職員会議に研修、雑務……。
相も変わらず、仕事は盛り沢山。
ですのでもちろん、帰宅時間は日がすっかり落ちてから。
まだ生徒は休みの真っ只中で、午前中から自分の仕事に専念できていたのに、帰りの時間は普段と同じです。
…………おかしいですね。
補習も授業も、手を取られる時間はないというのに、どうしてなのでしょうか。
もしや、これがよく聞く学園の七不思議というものでは……?
まさに――増える階段ならぬ『増える仕事量』。
…………こほん、閑話休題。
そんな私は、クタクタの身体を引きずって家へと帰ると、ドアも鍵も閉めて外の世界と断絶し、開口一番にこう言いました。
「…………つかれたー」
「うん、おかえり――とは言っても、僕もついさっき帰ってきたばかりだけどね」
ともすれば、タイミングよくゆうくんは部屋から姿を現し、そう声を掛けてくれます。
いつもの緩い私服姿。きっと、着替えたばかりなのでしょう。
「じゃあ、ゆうくんもお疲れ」
「はい、お疲れ様」
ポンポンと二度、頭を叩かれたように撫でられたように触られ、一足先にリビングへと彼は向かっていきました。
それにしても、「今帰ってきた」なんて……今日は講習会だと聞いていましたけど、中学校の養護教諭もこちらと同じで忙しいみたいですね。
部活動時は常に保健室を開いてないといけないみたいですし、きっとこういうタイミングでないと参加できないのでしょう。大変です。
学校はブラック企業。教員は社畜。
そう周りから言われているようですが、あながち間違いではないのかもしれません。
取り敢えず、私は顧問などしていなくて良かった……。
♦ ♦ ♦
「お盆に合わせて休みを取ったけど、今年もあまり休めなかったね」
お酒と電話注文した出来合いの料理を並べて、私たちは晩酌をしていました。
「そうだね。……まぁ、お盆に休みを取った理由の半分くらいは、家族の集まりがあったからだけど」
「そして、休めなかった原因の大半もそれという……」
毎年、お盆とお正月には親戚一同――全員合わせて二十人から三十人ほどが集まって食事をするという、同じく毎年夏に放送されるタイトルに『戦争』の意味合いの文字を含んだアニメーション映画も顔負けの集まり。
そこで降りかかる身内話の殆どが、結婚や恋人などといったものばかりで気が滅入ってしまいます。
「本当は仕事が忙しいって断るつもりだったけど、うちの母がしつこくて……」
「しょうがないよ、伯母さんは厳しい人だからね」
互いに既知の人物なため、呆れてため息を吐きました。
「――それに、今の生活のことについてもちゃんと言えてないんだし」
そう、ゆうくんの言う通り。
この同棲については親戚一同理解していることだとはいえ、それあくまでも「職場が互いに近い故のシェアハウス」という認識。
故に、この家に存在する二つの部屋の用途が私とゆうくんのそれぞれの自室――ではなく、片方が着替え兼収納部屋で、もう片方が二人のベッドルームという事実など知る余地もないのです。
「なら、仕方ないのかな……」
当分は、まだ話す気はないですから。
今の生活を続けるために、守るために、甘んじて小言を受けましょう。
「はぁー……それにしても、生徒は夏休みかー……。…………羨ましいな」
話は一転し――といいますか戻り、休みのことについて再び語っていきます。
「でも、ゆうちゃんの学校は補習があるみたいだし、子供たちもそれなりに大変なんじゃないかな?」
「午前授業な上に、土日は休みだけどね……」
それに比べ、私たちは午後も土日も仕事。仕事。仕事。
「ちなみにゆうちゃん、明日の予定は?」
「今日の分の続きと、いつもの会議。ゆうくんは?」
「確か……バスケ部の部活があるみたいだから保健室を開けて、事務作業かな」
いつもすぎるスケジュールに、苦笑しか浮かびません。
以上、これが教員の現実なのでした。
…………休みのそらくんたちは、何をするのかな?
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