彼と彼女の365日

如月ゆう

文字の大きさ
上 下
147 / 284
August

8月14日(水) 退屈な休日・かなた視点

しおりを挟む
「――――んん…………んー、んぁ……」

 目が覚めた。
 見知らぬ天井、香りに、空気の肌触り。

 身体を起こして周囲を見渡すと、普段はベッド派であるはずの私は何故か布団で寝ており、外には家を沿うようにして積まれた石垣が見えた。

「…………あ、そっか……おばあちゃんのところに来てたんだっけ」

 そうしてようやく、一昨日からの日々を思い出す。

 二日前、来た当初。
 福岡では感じることのない日差しの強さと熱気に歓迎されながら、私たち家族は訪れた。
 この日は確か、移動がメインでレジやーの類は何もせず、お互いの世間話などをして過ごしたっけ……。

 続く昨日。
 打って変わって、ひたすら近場の観光地を巡り歩き、日が弱くなってきた頃合いからは海水浴を楽しんだ。

 そして今日は、前日に行けなかった遠くの方の観光スポットへと赴く予定である。

 というわけで、枕元に置いたスマホを手に取り、時間を確認するとまだ早朝。
 私以外の皆はすでに起きているようだけど、出発時間までにはたっぷりと時間があった。

 グッと背伸びをして立ち上がり、布団を畳むと、私は着替える。

 今日のコーデは七分丈のデニムに、白のノースリーブシャツ。そこへ日差し対策として紺のサマーカーディガンを羽織り、足元は夏らしく厚底のサンダルを履いてみた。

「おはよう、かなた――って、どうしたの? 外に出る気?」

 用意を終え、玄関の扉に手を掛ければ朝食の用意をしていたのであろうお母さんが気付いて、声を掛けてくる。

「うん、ブラっと散歩でも……」

「朝ご飯は?」

「……そんなに遠くに行くつもりはないし、帰ってから食べる」

「そう……。迷子にならないように、気を付けてね」

「はーい」

 そう返事をし、ポンと一歩外へ踏み出せば、家中から見ていただけでは想像もできないほどの日の強さを感じた。
 一応、顔や首などどうしても露出してしまう箇所には日焼け止めを塗ってきたけれど、それでもジリジリとした焼ける感覚を覚えて仕方がない。

 …………これが、沖縄か……。


 ♦ ♦ ♦


 そこから歩いて十分ほど。
 一応の目的地として設定していた場所に、私は来ていた。

 ザザーっと響く自然の声はとても涼しく、肉眼でも底が透き通って見える透明度にはいつ見ても感動する。
 福岡こっちとは比べ物にならないほどの色合いだな、と私は目の前に広がる海を眺めながら思った。

 防波堤として積まれた石垣の一つ一つ降り、スタっと砂浜へ着地をすれば、サンダル越しに立ち上る熱気を感じる。
 サクサクと足音を立てながら波打ち際まで歩を進めると、迫る波と歩調を合わせ「えい」と蹴り上げてみた。

 足の甲に感じる冷たさ。脛まで飛び跳ねた水滴。
 その間にも、何事もなかったかのように波は引き、そしてもう一度やってきて今度はサンダルを濡らす。

 厚底なために直接かかりはしなかった。

「…………退屈だなぁ……」

 家族旅行をしておいて、沖縄にまで来ておいてなんと贅沢な――とも思われるような悩みを私は呟く。

 確かに、ここは楽しい。いい所だ。
 暑さを除けば、食べ物は美味しいし、観光地は引く手数多で、海も近くてレジャーにピッタリ。

 けれど……いや、だからこそ、こういうふとした瞬間に寂寥感を覚えてしまう。

「…………多分、まだ寝てる……よね」

 スマホの画面を見つめて、そう言った。
 大体いつも休みの日は、明け方に寝て、お昼に起きていたはず。だから、今電話をしても繋がらないし、それで起こしてしまうのも忍びない。

 画面を落とし、私はスマホをポケットへと戻す。
 そのまま後ろを振り向けば、まっさらな砂浜に一本の足跡が残っている。私の歩いてきた道だ。

 そんな時、一陣の風が吹いた。
 咄嗟のことで目を瞑り、髪を抑える。

 きっと、物語の世界でなら帽子が飛んでいくようなシチュエーション。

 ゆっくりと目を開けて、再び海を見た。

「…………確か、四・五キロだったっけ……?」

 一直線に横へと伸びる水平線が視界に映る。
 あの先にはもっと世界が続いているはずなのに、私たちの目にはそれだけしか見えていないのだと、昔そらが教えてくれたことを思い出していた。

「……………………早く家に帰りたいなぁ」

 小さな呟きは、風に流されて海へと溶けていく。

 帰省は明日だ。
 それが、今は待ち遠しくて仕方ない。

 どうやら私は、実の家族がみんな集まっているにも拘わらず、ホームシックを患っているようだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...