彼と彼女の365日

如月ゆう

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August

8月6日( ) 勉強合宿スタート!

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 今日から始まる勉強合宿。
 三泊五日という、印字ミスを疑いたくなるような謎の日程が組まれている本行事であるが、バスに乗り宿泊施設へと移動するクラスメイトのテンションは軒並み高かった。

 どうやら彼らによれば、この催しもまた数ヶ月前に行われた宿泊研修と何ら変わりのない、友達やちょっと気になる子と楽しく一つ屋根の下で過ごす娯楽のようなものでしかないらしい。

「…………すごいな」

「…………うん、すごい」

 一方の俺とかなたはといえば、その様子を他人事のように眺めてそう言葉を漏らす。

 予め伝えられていた必要な荷物は、筆記用具、ノートまたはルーズリーフ、夏休みの宿題、着替えのみで、遊具の類は一切を禁じられているというのに、どうしてああもお祭り気分でいられるのだろうか。

 これは完全に勉強させる気であろう。
 朝から晩まで。睡眠、食事、入浴時間を除いた遍く時間を学習に充てるつもりのはずだ。

「……だというのに、本当に元気」

「まぁ、何も考えてないだけかもしれないけどな」

 テンションにかまけて目的を忘れている、甘く見ていた――なんてことはざらにある。
 また、この合宿のしおりも渡されていなければ、予定の内容さえ教えられていないため、そのことがさらに拍車をかけているのかもしれない。

 俺にはそれが、生徒たちを浮かれさせる罠のように感じ、嫌な気がしてならないのだけどな。


 ♦ ♦ ♦


 その予想は、バッチリ当たることとなる。

 宿に着き、予め組まれていたグループ単位でそれぞれに割り振られた部屋の点検を行い、荷物を置いた俺たちは、次に筆記用具と勉強道具を持参して大部屋へと集められていた。

 そこでは、この五日間の予定が記載されたしおりが配られ、同時に行われる簡単なオリエンテーション。

 だけども、生徒の多くは話なんて聞いておらず、目の前のスケジュールに絶句している。
 それが、これ。

― ― ― ― ― ― ― ―

 ~06:30       起床
 07:00~08:00   朝食
 08:30~09:30   テスト
 09:35~10:25   国語(現代文)
 10:30~11:20   国語(古文)
 11:25~12:25   テスト
 ~13:25       昼食
 13:30~14:20   数学(数Ⅰ)
 14:25~15:15   数学(数A)
 15:20~17:05   英語(二コマ分)
 ~18:00       自習(一組のみ)
 ~19:00       自習(一・二組のみ)
 ~20:30       夕食&入浴
 ~21:30       自習(四組以外)
 21:30~22:30   テスト
 23:00~       完全消灯

― ― ― ― ― ― ― ―

 あくまでも、とある一日から抜粋したものであるため日によって内容は変わるのだけど…………取り敢えず言いたい。

「バカなの?」

 おっと……思わず口に出してしまった。
 でも、そう思わずにはいられないだろう。何時間勉強させられるんだよ、俺たちは……。

「――さて、ではオリエンテーションを始めていくが、まずは六ページからの予定表を見てくれ」

 一方で、そんな俺たちの様子など全く意に介さずに話しを進めているのは、別クラスの担任であり、現文の教科担任、そしてこの合宿を取り仕切っている先生だ。

「朝食後、昼食前、就寝前にそれぞれ『テスト』があると思うが、それは次の日のクラス分けのためのテストだ。この合宿中に限り、三回のテストを総合して、上から順に一組、二組……と、毎日クラスを替えていくことにするので頑張ってくれ」

 ……………………クラス分け?

 などと聞いた当初は思ったが、なるほどそういうことか。
 しかし、俺も含めてそんな面倒なことに好んで参加する奴は少ないだろう。一体、どんなメリットがあり、クラスごとにどんな違いがあるのだろうか。

「次に話すのはクラスごとの違いだ。予定表を見て気付いた人も多いだろうが、一組から四組まで夕方以降の日程が少し異なっている。一組は自習時間が多く、その間は持ってきてもらった夏休みの宿題をやってもよいが、反対に四組には自習時間がない。宿題を進めたい人たちはぜひテストを真面目に取り組んで欲しい」

 ……とのことであった。

 なるほど……生徒たちには全く嬉しくないメリットだな。だって、別に勉強時間は変わらないわけだし。

 けれど、後々のことを考えればここで宿題を進めておかないと酷い目にあうことは明白で、そして何より下に落ちるのは屈辱的で嫌だ。

 入りたくて入ったわけではないこの特Ⅰ類であるが、入った以上はこちらとしてもそれなりのプライドがある。
 たかがⅠ類の奴らなんかに負けてたまるか。

「おー……そらが、やる気満々」

 そう考えていると、かなたは幼馴染の気持ちの変化をいち早く察知し、物珍しそうに呟いた。

「まぁな。宿題ができる時間をわざわざ手放して、やらなくても授業を受けるのは無駄だし」

「…………ん、確かに。……なら、私も一組を目指して頑張る」

 一日の学習時間総計が十一時間にも及ぶ、この度の合宿。
 それだけでも過酷さは伝わってくるが、一番の恐怖は四日目の日程だけが何故か空白になっていることだ。

 三泊五日――この本来の意味を、俺たちはまだ知らなかった。
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