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August
8月2日(金) 全国大会・ダブルス・二日目・前編
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翌日。ダブルの部、二日目。
今日もまた、昨日は快勝であった先輩ペアの試合を見なければならないというのに、何故か俺は別の体育館にいた。
しかも、試合会場ですらない。
出場選手の練習用に貸し出された幾つか存在する場所――その一つ。
辺りを見渡せば、ラケットを振っているのは女子ばかりであり、チラチラと物珍しい視線を向けられて居心地が悪さでいっぱいだ。
「……それで、なんで俺はこんな場所に連れてこられたわけ?」
故に、犯人となる人物――橋本七海にそう問う。
ともすれば、五分でいいから――と人を呼びつけ、あれよあれよという間に俺をバスへと押し込んでみせた彼女は、軽く手を合わせながら謝ってきた。
「ごめんね、そらくん! 本当は昨日お願いしようと思ってたんだけど、いつ間にか時間が過ぎちゃっててさ……明日からは私も試合だし、今日無理矢理にでも連れてくるしかなかったの……!」
「……いや、うん…………事情は分かったけどそうじゃなくてさ、俺が聞きたいのは目的の方なんだが……」
「うん、それも話す」
指摘した俺に七海さんは頷けば、しかし急にどこかへと駆けて行き、それを目で追ってみるとどうやらシャトルを持ち出してきたらしい。
「――僕と練習試合をしようよ!」
「……………………は?」
突然の発言についていけず、そんな対応をしてしまう。
「だから、僕と戦おう! そらくんの試合を見たけど、とても凄くて……一度でいいから、一緒に打ってみたいって思ってたんだ!」
「あー、なるほど……そういう…………」
合点がいった。
そして同時に思うのが、彼女もまた本気のプレイヤーなんだな――ということ。
そんな気持ちを持ったことのない俺からすれば、その姿は眩しく、また自分が小さく見えてしまう。
「……………………? どうかした? やっぱり、無理矢理に連れてきたこと……怒ってる、かな?」
「いや、何でもない。こっちこそ、オリンピック候補生と打てるなんて滅多にない機会だからな。胸を借りるよ」
不安げに尋ねる七海さん。
そのいつもと異なるしおらしい態度が何だかおかしく、僅かに口角が上がるのを自分で感じて、そう答える。
「む、胸を借りるってそんな――! ぼ、僕たちはそんな関係じゃないよ!」
だというのに、今度は何故か照れたように胸を隠す。
しかし、大きい方だと思われるその部位は両腕なんかで覆えるはずもなく、むしろムニュッと形を変えて、目のやり場に困る……――って違う! そうじゃない!
「胸を借りるっていうのは、『実力の下な人が、実力の上な人に相手をしてもらうこと』を言うんだよ……」
「――――へ? ……………………へ、へぇー……そうなんだ」
昨日も実は少し思ってたことなんだけど……もしかしてこの子って、実はアホの子なのではないだろうか。
「も、もうこの話は止め! いいから、試合をしよう! ね!?」
「はぁー……仰せのままに」
ということになった。
♦ ♦ ♦
対峙する俺と七海さん。
主審や線審など、彼女の部員メンバーが有志で買って出てくれ、いつの間にか本格的なものへと発展していた。
…………おかしいな。
あのあと行ったルール決めの時に、疲れるし明日に響いてもいけないからと一球だけにしたはずなのだが……。
あと、何かギャラリーも増えてるし。
しかも、全て女性のもの。やりづらいったらありゃしない。
そんな完全アウェイな状況のなか、俺のサーブで始まる。
とはいえ、あくまでも力試し。
であれば、虚を突く意味も込めてコート隅ギリギリの天井サーブを打ち上げた。
…………所詮は天井サーブだから、虚を突いても意味ないんだけどな。
それに、当たり前のように悠々と間に合う七海さん。
スマッシュの姿勢を取ると早速打ってくる。
が、反応できない球筋ではない。
冷静に返せば、しかし、今度はプッシュ、ヘアピン、ドリブンクリアと点は取られないまでも主導権は完全に奪われた状態となっていた。
面倒だと少し感じ、一度ハイクリア。
そのままスマッシュを促し、カウンターで逆に攻めに行きますか。
ジッとそのフォームを眺め、先程より一歩早く相手の打ってくるであろう位置に動いた。
だけどすぐに、下策だと気付く。
「やっべ……逆だった!」
踏み込んだ一歩を軸にして身体の向きを変えれば、反対方向に落ちていくシャトルへ俺は飛びついた。
辛うじてラケットは届き、返せはするもののそれは浮き上がった甘い球。
鋭く打ち込もうと前進する彼女。その打球コースに、起き上がりながら腕を伸ばし、ラケットの面を差し込んだ。
シャトルは真っ直ぐに進み、鏡面のように俺のラケットを跳ね返って、相手コートに落ちていく――そのはずだった。
しかし、流石は候補生。
すんでのところで腕の力を抜けば、緩いタッチでシャトルを叩き、予想していた軌道とは違うコースを通ってポトリと落ちる。
「へへ……僕の勝ち」
満面の笑みを浮かべ、ピースサインを突き付ける彼女を見て俺は両手を上げた。
「参った……あの反応速度には負けたよ」
「ゲームで鍛えてたからねー!」
その一言に俺の口角も上がる。
果たして、それは本当に効果があるのだろうか。
甚だ疑問だな。
「でも、そらくんも本気ではあったけど本調子じゃなかったよね」
「……は? どういうことだ?」
「だって――」
一転、急に七海さんから言われた発言の意味が分からなかった。
俺は全力で戦ったというのに……。
それを尋ねるも、答えを聞くよりも先に乱入者はやって来る。
今日もまた、昨日は快勝であった先輩ペアの試合を見なければならないというのに、何故か俺は別の体育館にいた。
しかも、試合会場ですらない。
出場選手の練習用に貸し出された幾つか存在する場所――その一つ。
辺りを見渡せば、ラケットを振っているのは女子ばかりであり、チラチラと物珍しい視線を向けられて居心地が悪さでいっぱいだ。
「……それで、なんで俺はこんな場所に連れてこられたわけ?」
故に、犯人となる人物――橋本七海にそう問う。
ともすれば、五分でいいから――と人を呼びつけ、あれよあれよという間に俺をバスへと押し込んでみせた彼女は、軽く手を合わせながら謝ってきた。
「ごめんね、そらくん! 本当は昨日お願いしようと思ってたんだけど、いつ間にか時間が過ぎちゃっててさ……明日からは私も試合だし、今日無理矢理にでも連れてくるしかなかったの……!」
「……いや、うん…………事情は分かったけどそうじゃなくてさ、俺が聞きたいのは目的の方なんだが……」
「うん、それも話す」
指摘した俺に七海さんは頷けば、しかし急にどこかへと駆けて行き、それを目で追ってみるとどうやらシャトルを持ち出してきたらしい。
「――僕と練習試合をしようよ!」
「……………………は?」
突然の発言についていけず、そんな対応をしてしまう。
「だから、僕と戦おう! そらくんの試合を見たけど、とても凄くて……一度でいいから、一緒に打ってみたいって思ってたんだ!」
「あー、なるほど……そういう…………」
合点がいった。
そして同時に思うのが、彼女もまた本気のプレイヤーなんだな――ということ。
そんな気持ちを持ったことのない俺からすれば、その姿は眩しく、また自分が小さく見えてしまう。
「……………………? どうかした? やっぱり、無理矢理に連れてきたこと……怒ってる、かな?」
「いや、何でもない。こっちこそ、オリンピック候補生と打てるなんて滅多にない機会だからな。胸を借りるよ」
不安げに尋ねる七海さん。
そのいつもと異なるしおらしい態度が何だかおかしく、僅かに口角が上がるのを自分で感じて、そう答える。
「む、胸を借りるってそんな――! ぼ、僕たちはそんな関係じゃないよ!」
だというのに、今度は何故か照れたように胸を隠す。
しかし、大きい方だと思われるその部位は両腕なんかで覆えるはずもなく、むしろムニュッと形を変えて、目のやり場に困る……――って違う! そうじゃない!
「胸を借りるっていうのは、『実力の下な人が、実力の上な人に相手をしてもらうこと』を言うんだよ……」
「――――へ? ……………………へ、へぇー……そうなんだ」
昨日も実は少し思ってたことなんだけど……もしかしてこの子って、実はアホの子なのではないだろうか。
「も、もうこの話は止め! いいから、試合をしよう! ね!?」
「はぁー……仰せのままに」
ということになった。
♦ ♦ ♦
対峙する俺と七海さん。
主審や線審など、彼女の部員メンバーが有志で買って出てくれ、いつの間にか本格的なものへと発展していた。
…………おかしいな。
あのあと行ったルール決めの時に、疲れるし明日に響いてもいけないからと一球だけにしたはずなのだが……。
あと、何かギャラリーも増えてるし。
しかも、全て女性のもの。やりづらいったらありゃしない。
そんな完全アウェイな状況のなか、俺のサーブで始まる。
とはいえ、あくまでも力試し。
であれば、虚を突く意味も込めてコート隅ギリギリの天井サーブを打ち上げた。
…………所詮は天井サーブだから、虚を突いても意味ないんだけどな。
それに、当たり前のように悠々と間に合う七海さん。
スマッシュの姿勢を取ると早速打ってくる。
が、反応できない球筋ではない。
冷静に返せば、しかし、今度はプッシュ、ヘアピン、ドリブンクリアと点は取られないまでも主導権は完全に奪われた状態となっていた。
面倒だと少し感じ、一度ハイクリア。
そのままスマッシュを促し、カウンターで逆に攻めに行きますか。
ジッとそのフォームを眺め、先程より一歩早く相手の打ってくるであろう位置に動いた。
だけどすぐに、下策だと気付く。
「やっべ……逆だった!」
踏み込んだ一歩を軸にして身体の向きを変えれば、反対方向に落ちていくシャトルへ俺は飛びついた。
辛うじてラケットは届き、返せはするもののそれは浮き上がった甘い球。
鋭く打ち込もうと前進する彼女。その打球コースに、起き上がりながら腕を伸ばし、ラケットの面を差し込んだ。
シャトルは真っ直ぐに進み、鏡面のように俺のラケットを跳ね返って、相手コートに落ちていく――そのはずだった。
しかし、流石は候補生。
すんでのところで腕の力を抜けば、緩いタッチでシャトルを叩き、予想していた軌道とは違うコースを通ってポトリと落ちる。
「へへ……僕の勝ち」
満面の笑みを浮かべ、ピースサインを突き付ける彼女を見て俺は両手を上げた。
「参った……あの反応速度には負けたよ」
「ゲームで鍛えてたからねー!」
その一言に俺の口角も上がる。
果たして、それは本当に効果があるのだろうか。
甚だ疑問だな。
「でも、そらくんも本気ではあったけど本調子じゃなかったよね」
「……は? どういうことだ?」
「だって――」
一転、急に七海さんから言われた発言の意味が分からなかった。
俺は全力で戦ったというのに……。
それを尋ねるも、答えを聞くよりも先に乱入者はやって来る。
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