彼と彼女の365日

如月ゆう

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July

7月31日(水) 全国大会・団体戦・二日目・前編

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 全国大会、その二日目。
 昨日の団体戦の続きということで、今日は準々決勝から始まるわけであるが、その初戦をウチのチームは見事に勝ち抜いていた。

 そんな現在、来たるべき準決勝のために時間の空いた選手の皆は観客席で身体を休めている。

 間食を摂る者、作戦を話し合っている者、他のチームの試合を見る者など、行いは千差万別。
 なれど、その心は『勝つ』というただ一つの目標で一体となっていた。

 士気は高い。調子も良い。
 しかし、それでも心配なことが一つ。

 対戦相手である学校は、最多優勝を誇り、数多のプロ選手を排出してきたまさに最強。
 そのことで話を聞くべく、俺はマネージャーの清水先輩へ尋ねていた。

「先輩、次の準決勝ってどうなんですか?」

「あら……。どう、って……?」

「有り体に言って、勝てそうなんですか?」

 清水香織――ウチの三年生マネージャーにして、情報管理のプロフェッショナル。全てのデータをノートとペンのみでまとめるという珍しい人で、しかしその精度と的確なアドバイスから、大会で唯一ベンチに座ることが許されるマネージャー枠を勝ち取った人でもある。

「……………………正直に言うと、分からない」

 そんな相手に対して、回りくどいことは一切なしに彼女の持つ見解を問えば、何とも釈然としない答えが返ってきた。

「勝つ可能性はある、と思う。けど、それは細い道で……でも皆なら何とかしてくれるかも、とも思うから……。だから、分からない」

 ギュッと自身のノートを抱きしめ、彼女はそう言葉を紡いだ。

「…………具体的な試算を聞いてもいいですか?」

 選手には話してなくとも、監督やコーチとは勝つためのシミュレーションをしていたはずだ。
 その話を聞きたくて尋ねると、先輩は少し辺りを見渡して内緒話をするように僅かに顔を近づける。

「まず、ダブルス①だけど……多分、彼らは負けると思う。部内順位で選ばれてるだけあって強さは問題ないんだけど、初めての全国大会に緊張してか実力が発揮されてないの。ミス率が平均よりも十ポイントも高い」

 なるほど、確かにそれは痛い。
 相手がただ勝ち残っただけの学校ならいざ知らず、そうではなくてチャンピオンだ。少しの弱みが命取りになるだろう。

「次のダブルス②だけど、こっちは何も問題なく勝てると思う。何せ、彼らもまた君の可愛いお知り合いと同じオリンピック候補生だからね」

「な、何のことですか……?」

 俺の知り合いと同じ……? それってまさか七海さんのことじゃ――。
 …………何でこの人が知ってるんだよ。

「で、シングルス①。彼は少し特殊で、私たちのチームが二連勝、または二連敗してる時だけ何故か勝率百パーセントになの。…………ホント、君と同じくらい面白いデータをしてる」

「……あの、そんな珍獣を見つけたハンターのような目で見ないでください」

 恐い。あと、怖い。
 先程の件といい、この人にだけは勝てそうにないぜ。

 でも、確かに面白いデータをしているとは俺も思う。
 それが確かなら、ダブルスでたとえ二連敗しようとも後続に託せるということであり、とどのつまりウチのチームはシングルスの三人が要ということになるわけだ。

「だから、問題はシングルス②。酷なことだけど、部長が勝たなければ私たちには敗北しかないわ」

 ここまでの試算で三戦一勝二敗。
 もう後はなく、重く辛い立ち位置である。

「信じるしかないですね」

「…………えぇ、本当に」

 あの部長の強さを。
 三年間培った彼の努力を。

「しかも、そこで勝っても終わりじゃない。シングルス③……翔真くんの相手だけど――」

「大丈夫です、俺も知ってますから」

 それくらい有名で、最強のプレイヤー。
 七海さんが常勝無敗の女王ならば、彼は完全勝利の王。

 学生の遍く試合において、一セットの奪取さえ許していない正真正銘のチャンピオンだ。

「…………試算だと、翔真くんは勝てない。それが私と監督の結論。だから、普通なら負ける」

 苦々しそうに、清水先輩はそう漏らした。

「……でも、データが全てじゃないことを私は知っている。ダブルス①の二年生が空気を克服してくれるかめしれない。シングルス①で彼が自身の持つジンクスを打ち破ってくれる可能性だってある。翔真くんだって、負けたと決まったわけじゃない。…………そのはずなの」

 その表情を見ていると、自分の無力さに腹が立つ。
 何ができるというわけでもないけど、俺ならば――と。部長に勝った亮吾――彼を破り、翔真にさえ勝利した俺なら何かできるのではないかと自惚れてしまう。

「…………先輩のデータは凄いですよ。だから、それを武器に皆のサポートをしてあげてください」

 試合を観るだけ、メンバーに連れられているだけの俺にはそんな事しか言うことができなかった。
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