127 / 284
July
7月28日(土) 思いを馳せる者たち②
しおりを挟む
市民体育館。
それは誰もが利用でき、しかし意外にも個人で使用したことのある人は少ないのでは……とも思われる施設。
そこに俺は――いや、俺たちは来ていた。
「……けど、いいのか? 監督からは『この土日は大会に向けた泊まり込みの準備と身体を休めるための時間』って言われてんだろ?」
そんな中、珍しくも僅かに心配した様子を見せるそらは、愛用のラケットとシューズを身に付けた状態で語る。
「今更だな……。なら、『ラケットとシューズを持って市民体育館に集合』って連絡した昨日の段階で指摘しろよ。こうなるって、分かってただろ?」
「…………まぁな」
けれど、俺が笑って返せば、呆れたようにため息を吐くだけ。
分かっている。この問答に意味はない。
そらも本当にそれが気になって尋ねてきたわけではなく、むしろその先――『何でそんな時期に、わざわざ彼一人だけを市民体育館に呼び出してまで、バドミントンをやっているのか』と、そんな疑問含んでいたのだろう。
……そう、呼んだのはそら一人。
倉敷さんには敢えて席を外してもらい、当然詩音さんも呼んでおらず、男二人でシャトルを打つ。
その不可思議な状況説明を求められていた。
「…………別に大した理由はないさ。ただ何となく、体を動かしたかったんだよ」
いよいよ始まる全国大会。
とはいえ、明日は開会式のみの予定なのだけど、それでも俺の心はもうすでに逸っている。
「意外だな。翔真って、そういう時こそ落ち着いているタイプだと思ってたわ」
「俺も、我慢できると自分で思ってたんだけどなぁ……」
そんな俺を茶化すようにそらは笑い、つられて一緒に肩を竦めた。
去年はこうではなかったのにな。
やはり、全国という舞台が人をおかしくするのか。
それとも――。
「それに、やっぱりそらとも同じ場所で戦いたかったよ」
唯一の心残りが、俺を動かしたのか。
真相は誰にも……俺自身でさえ分からない。
「まだ言うのか……。あれは俺も納得済みのことだし、気にしても仕方ないだろ」
「あぁ、分かってる。……悪い」
そのうっかり漏れた心の声を本人に指摘され、俺は謝った。
一番悔しい思いをしたであろう本人に話を蒸し返したことを。そして、その結果勝ち上がることとなった国立を軽んじる発言になってしまったことを。
「なら、全国は頑張ってくれよ。勝って、勝ち続けて、それで国立と戦ってやってくれ。紛いなりにもアイツは俺に勝った男なんだからさ」
ともすれば、そらはそう言ってくれる。
ネットを挟んだ向こう側で、拳を突き出し、いつもの口の端を吊り上げたニヤりとした笑みを浮かべて。
「……親友の頼みなら、仕方ないな」
「おう、頼んだぜ」
託された思い。
でもきっと、それは俺だけではなく、明日集まる誰しもが色々な想いを抱えているのだろう。
戦いの足音は、すぐそばまで迫っていた。
それは誰もが利用でき、しかし意外にも個人で使用したことのある人は少ないのでは……とも思われる施設。
そこに俺は――いや、俺たちは来ていた。
「……けど、いいのか? 監督からは『この土日は大会に向けた泊まり込みの準備と身体を休めるための時間』って言われてんだろ?」
そんな中、珍しくも僅かに心配した様子を見せるそらは、愛用のラケットとシューズを身に付けた状態で語る。
「今更だな……。なら、『ラケットとシューズを持って市民体育館に集合』って連絡した昨日の段階で指摘しろよ。こうなるって、分かってただろ?」
「…………まぁな」
けれど、俺が笑って返せば、呆れたようにため息を吐くだけ。
分かっている。この問答に意味はない。
そらも本当にそれが気になって尋ねてきたわけではなく、むしろその先――『何でそんな時期に、わざわざ彼一人だけを市民体育館に呼び出してまで、バドミントンをやっているのか』と、そんな疑問含んでいたのだろう。
……そう、呼んだのはそら一人。
倉敷さんには敢えて席を外してもらい、当然詩音さんも呼んでおらず、男二人でシャトルを打つ。
その不可思議な状況説明を求められていた。
「…………別に大した理由はないさ。ただ何となく、体を動かしたかったんだよ」
いよいよ始まる全国大会。
とはいえ、明日は開会式のみの予定なのだけど、それでも俺の心はもうすでに逸っている。
「意外だな。翔真って、そういう時こそ落ち着いているタイプだと思ってたわ」
「俺も、我慢できると自分で思ってたんだけどなぁ……」
そんな俺を茶化すようにそらは笑い、つられて一緒に肩を竦めた。
去年はこうではなかったのにな。
やはり、全国という舞台が人をおかしくするのか。
それとも――。
「それに、やっぱりそらとも同じ場所で戦いたかったよ」
唯一の心残りが、俺を動かしたのか。
真相は誰にも……俺自身でさえ分からない。
「まだ言うのか……。あれは俺も納得済みのことだし、気にしても仕方ないだろ」
「あぁ、分かってる。……悪い」
そのうっかり漏れた心の声を本人に指摘され、俺は謝った。
一番悔しい思いをしたであろう本人に話を蒸し返したことを。そして、その結果勝ち上がることとなった国立を軽んじる発言になってしまったことを。
「なら、全国は頑張ってくれよ。勝って、勝ち続けて、それで国立と戦ってやってくれ。紛いなりにもアイツは俺に勝った男なんだからさ」
ともすれば、そらはそう言ってくれる。
ネットを挟んだ向こう側で、拳を突き出し、いつもの口の端を吊り上げたニヤりとした笑みを浮かべて。
「……親友の頼みなら、仕方ないな」
「おう、頼んだぜ」
託された思い。
でもきっと、それは俺だけではなく、明日集まる誰しもが色々な想いを抱えているのだろう。
戦いの足音は、すぐそばまで迫っていた。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/3/13:『かゆみ』の章を追加。2025/3/20の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/12:『あくむをみるへや』の章を追加。2025/3/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。
2025/3/8:『いま』の章を追加。2025/3/15の朝8時頃より公開開始予定。
2025/3/7:『しんれいしゃしん』の章を追加。2025/3/14の朝4時頃より公開開始予定。

笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ
茉丗 薫(活動休止中)
恋愛
わたくしの愛おしい婚約者には、一つだけ欠点があるのです。
どうやら彼、『きみ』が大好きすぎるそうですの。
わたくしとのデートでも、そのことばかり話すのですわ。
美辞麗句を並べ立てて。
もしや、卵の黄身のことでして?
そう存じ上げておりましたけど……どうやら、違うようですわね。
わたくしの愛は、永遠に報われないのですわ。
それならば、いっそ――愛し合うお二人を結びつけて差し上げましょう。
そして、わたくしはどこかでひっそりと暮らそうかと存じますわ。
※作者より※
受験や高校入学の準備で忙しくなりそうなので、先に予告しておきます。
前触れなしに更新停止する場合がございます。
その場合、いずれ(おそらく四月中には)更新再開いたしますので、よろしくお願いします。
※この作品はフィクションです。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる