彼と彼女の365日

如月ゆう

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July

7月24日(水) 全国大会について

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 今日も今日とて、部活の午後練。
 というわけで、一足先に到着した俺と翔真は一面だけコートを作ってラリーで時間を潰していた。

「来週だな、大会」

 俺がそう話しかければ、ラケットを振りながら返してくれる。

「そうだな。もう、泊まる用意はしたか?」

「いや、全然。多分、今週末にするかな」

 などという、益体もなければ実りもない会話をひたすらに。
 ……まぁ、あくまで時間潰しだしな。

「――あっ、そういえばこの前のテレビでバドの女子高生が取材されてたぞ。あの、オリンピック候補生って言われてる……何だっけ?」

「『橋本七海』選手のことか?」

「あー、その人その人!」

 相変わらず、よくご存じで。
 困ったら、大抵のことは答えてくれる翔真くんである。

「……で、その人が何だって?」

「いやさ、出てたテレビの取材で『今年の大会には、注目選手がいる』って言ってたんだよ。それをかなたと見てて、もしかしたら翔真のことかもしれないなって話――になったって話」

「……ややこしいな」

 そう、苦笑いを向けてくる彼。

「というか、いつもながら仲がよろしいことで。幼馴染ってのはそういうもんなのか?」

「……茶化すなよ」

 そして、答えをはぐらかすな。

「で、どうなんだ? 確か、去年も未来のスタメン候補ってことで先輩の全国大会に付いて行ってたよな? 知り合ってたりしないか?」

 気になり過ぎている俺。だが、それも仕方のないこと。
 この予想が本当ならば、かなり面白いネタになるからな。

「さぁ、知らないな」

 しかし、まぁ予想通りというべきか、当たり前というべきか、肯定されることはない。

「それにそもそも、全国大会は会場が四つくらいに分かれるし、狙って会いに行かない限りはそんなこと起こりえないよ」

「ふぅーん、そうか……」

 そういうことならば、知り合いという線は薄そうだな。
 少なくとも、女性絡みで色々と大変な目に合っている彼が自分から話しかけに行くとは思えない。

 それこそ、本当に偶々出会った――などの偶然でも起きていないと、な。

「……それに、菊池さんに聞けば分かることか」

 マネージャーとして付いて行った彼女なら、翔真とも同行していたはず。
 ならば、その手の話に敏感な彼女なら事実を知っているだろう。

「――というより、そらの方はどうなんだ?」

「…………は? 何の話だ?」

 唐突に振られた目的語のない疑問文を、俺の頭では理解できなかった。

「その『注目の選手』ってやつだよ。俺ばっかり疑われてたけど、そらの可能性も無きにしも非ずだろ?」

 同じ意味の文を、もう一度別に言い直してもらうことでようやく質問の内容を理解する。

「あー、なるほど――って、ねーよ」

「何で?」

 ノリツッコミの要領でスマッシュを打ち込むと、それはあっさりと拾われた。
 試合では悪手であり、しかしウォーミングアップであるラリーにおいては最適解な、打ちやすい浮き球に変えて。

「いや……だって、面識ないし。そもそも、全国大会にも出ないし。あまりにも接点がなさすぎるだろ」

 再び普通のラリーに戻ると、一つ一つ、翔真の言い分を潰すべく俺は証拠を並べる。
 とはいえ、そこまで仰々しいものでもないのだけど。

「でもさ、注目って度合いでみれば、そらのネットインの技術は目を見張るものがあると俺は思ってるんだよね。なら、橋本選手が注目してもおかしくはないだろ?」

 けれど、なおも引き下がらない翔真。
 その無茶苦茶な推測にはため息しか出ない。

「……だから、その前に俺は全国大会に出られないんだし、『全国大会での注目選手』っていう質問の意図とズレてるって話だよ」

「そんなの分からないだろ。出場選手と明言していない以上、一緒に付いて来る予定のそらって可能性もあるはずだ」

「……はぁ? いや、何で俺が行くことを相手が知ってる前提なんだ――」

 そこまで言い返して、ようやく俺は気付く。

「――翔真、お前……意趣返しか?」

 そう尋ねれば、ニヤリと彼はほくそ笑む。

 道理で、あまりにも言い分が適当すぎると思ったのだ。
 本人も有り得ないと分かった上で、振った話題なのだろう。

「たまには、俺もやり返さないと――な!」

 と、告げながら放たれたスマッシュは、見事に俺の振るうラケットをすり抜けていった。
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