123 / 284
July
7月24日(水) 全国大会について
しおりを挟む
今日も今日とて、部活の午後練。
というわけで、一足先に到着した俺と翔真は一面だけコートを作ってラリーで時間を潰していた。
「来週だな、大会」
俺がそう話しかければ、ラケットを振りながら返してくれる。
「そうだな。もう、泊まる用意はしたか?」
「いや、全然。多分、今週末にするかな」
などという、益体もなければ実りもない会話をひたすらに。
……まぁ、あくまで時間潰しだしな。
「――あっ、そういえばこの前のテレビでバドの女子高生が取材されてたぞ。あの、オリンピック候補生って言われてる……何だっけ?」
「『橋本七海』選手のことか?」
「あー、その人その人!」
相変わらず、よくご存じで。
困ったら、大抵のことは答えてくれる翔真くんである。
「……で、その人が何だって?」
「いやさ、出てたテレビの取材で『今年の大会には、注目選手がいる』って言ってたんだよ。それをかなたと見てて、もしかしたら翔真のことかもしれないなって話――になったって話」
「……ややこしいな」
そう、苦笑いを向けてくる彼。
「というか、いつもながら仲がよろしいことで。幼馴染ってのはそういうもんなのか?」
「……茶化すなよ」
そして、答えをはぐらかすな。
「で、どうなんだ? 確か、去年も未来のスタメン候補ってことで先輩の全国大会に付いて行ってたよな? 知り合ってたりしないか?」
気になり過ぎている俺。だが、それも仕方のないこと。
この予想が本当ならば、かなり面白いネタになるからな。
「さぁ、知らないな」
しかし、まぁ予想通りというべきか、当たり前というべきか、肯定されることはない。
「それにそもそも、全国大会は会場が四つくらいに分かれるし、狙って会いに行かない限りはそんなこと起こりえないよ」
「ふぅーん、そうか……」
そういうことならば、知り合いという線は薄そうだな。
少なくとも、女性絡みで色々と大変な目に合っている彼が自分から話しかけに行くとは思えない。
それこそ、本当に偶々出会った――などの偶然でも起きていないと、な。
「……それに、菊池さんに聞けば分かることか」
マネージャーとして付いて行った彼女なら、翔真とも同行していたはず。
ならば、その手の話に敏感な彼女なら事実を知っているだろう。
「――というより、そらの方はどうなんだ?」
「…………は? 何の話だ?」
唐突に振られた目的語のない疑問文を、俺の頭では理解できなかった。
「その『注目の選手』ってやつだよ。俺ばっかり疑われてたけど、そらの可能性も無きにしも非ずだろ?」
同じ意味の文を、もう一度別に言い直してもらうことでようやく質問の内容を理解する。
「あー、なるほど――って、ねーよ」
「何で?」
ノリツッコミの要領でスマッシュを打ち込むと、それはあっさりと拾われた。
試合では悪手であり、しかしウォーミングアップであるラリーにおいては最適解な、打ちやすい浮き球に変えて。
「いや……だって、面識ないし。そもそも、全国大会にも出ないし。あまりにも接点がなさすぎるだろ」
再び普通のラリーに戻ると、一つ一つ、翔真の言い分を潰すべく俺は証拠を並べる。
とはいえ、そこまで仰々しいものでもないのだけど。
「でもさ、注目って度合いでみれば、そらのネットインの技術は目を見張るものがあると俺は思ってるんだよね。なら、橋本選手が注目してもおかしくはないだろ?」
けれど、なおも引き下がらない翔真。
その無茶苦茶な推測にはため息しか出ない。
「……だから、その前に俺は全国大会に出られないんだし、『全国大会での注目選手』っていう質問の意図とズレてるって話だよ」
「そんなの分からないだろ。出場選手と明言していない以上、一緒に付いて来る予定のそらって可能性もあるはずだ」
「……はぁ? いや、何で俺が行くことを相手が知ってる前提なんだ――」
そこまで言い返して、ようやく俺は気付く。
「――翔真、お前……意趣返しか?」
そう尋ねれば、ニヤリと彼はほくそ笑む。
道理で、あまりにも言い分が適当すぎると思ったのだ。
本人も有り得ないと分かった上で、振った話題なのだろう。
「たまには、俺もやり返さないと――な!」
と、告げながら放たれたスマッシュは、見事に俺の振るうラケットをすり抜けていった。
というわけで、一足先に到着した俺と翔真は一面だけコートを作ってラリーで時間を潰していた。
「来週だな、大会」
俺がそう話しかければ、ラケットを振りながら返してくれる。
「そうだな。もう、泊まる用意はしたか?」
「いや、全然。多分、今週末にするかな」
などという、益体もなければ実りもない会話をひたすらに。
……まぁ、あくまで時間潰しだしな。
「――あっ、そういえばこの前のテレビでバドの女子高生が取材されてたぞ。あの、オリンピック候補生って言われてる……何だっけ?」
「『橋本七海』選手のことか?」
「あー、その人その人!」
相変わらず、よくご存じで。
困ったら、大抵のことは答えてくれる翔真くんである。
「……で、その人が何だって?」
「いやさ、出てたテレビの取材で『今年の大会には、注目選手がいる』って言ってたんだよ。それをかなたと見てて、もしかしたら翔真のことかもしれないなって話――になったって話」
「……ややこしいな」
そう、苦笑いを向けてくる彼。
「というか、いつもながら仲がよろしいことで。幼馴染ってのはそういうもんなのか?」
「……茶化すなよ」
そして、答えをはぐらかすな。
「で、どうなんだ? 確か、去年も未来のスタメン候補ってことで先輩の全国大会に付いて行ってたよな? 知り合ってたりしないか?」
気になり過ぎている俺。だが、それも仕方のないこと。
この予想が本当ならば、かなり面白いネタになるからな。
「さぁ、知らないな」
しかし、まぁ予想通りというべきか、当たり前というべきか、肯定されることはない。
「それにそもそも、全国大会は会場が四つくらいに分かれるし、狙って会いに行かない限りはそんなこと起こりえないよ」
「ふぅーん、そうか……」
そういうことならば、知り合いという線は薄そうだな。
少なくとも、女性絡みで色々と大変な目に合っている彼が自分から話しかけに行くとは思えない。
それこそ、本当に偶々出会った――などの偶然でも起きていないと、な。
「……それに、菊池さんに聞けば分かることか」
マネージャーとして付いて行った彼女なら、翔真とも同行していたはず。
ならば、その手の話に敏感な彼女なら事実を知っているだろう。
「――というより、そらの方はどうなんだ?」
「…………は? 何の話だ?」
唐突に振られた目的語のない疑問文を、俺の頭では理解できなかった。
「その『注目の選手』ってやつだよ。俺ばっかり疑われてたけど、そらの可能性も無きにしも非ずだろ?」
同じ意味の文を、もう一度別に言い直してもらうことでようやく質問の内容を理解する。
「あー、なるほど――って、ねーよ」
「何で?」
ノリツッコミの要領でスマッシュを打ち込むと、それはあっさりと拾われた。
試合では悪手であり、しかしウォーミングアップであるラリーにおいては最適解な、打ちやすい浮き球に変えて。
「いや……だって、面識ないし。そもそも、全国大会にも出ないし。あまりにも接点がなさすぎるだろ」
再び普通のラリーに戻ると、一つ一つ、翔真の言い分を潰すべく俺は証拠を並べる。
とはいえ、そこまで仰々しいものでもないのだけど。
「でもさ、注目って度合いでみれば、そらのネットインの技術は目を見張るものがあると俺は思ってるんだよね。なら、橋本選手が注目してもおかしくはないだろ?」
けれど、なおも引き下がらない翔真。
その無茶苦茶な推測にはため息しか出ない。
「……だから、その前に俺は全国大会に出られないんだし、『全国大会での注目選手』っていう質問の意図とズレてるって話だよ」
「そんなの分からないだろ。出場選手と明言していない以上、一緒に付いて来る予定のそらって可能性もあるはずだ」
「……はぁ? いや、何で俺が行くことを相手が知ってる前提なんだ――」
そこまで言い返して、ようやく俺は気付く。
「――翔真、お前……意趣返しか?」
そう尋ねれば、ニヤリと彼はほくそ笑む。
道理で、あまりにも言い分が適当すぎると思ったのだ。
本人も有り得ないと分かった上で、振った話題なのだろう。
「たまには、俺もやり返さないと――な!」
と、告げながら放たれたスマッシュは、見事に俺の振るうラケットをすり抜けていった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
夏の出来事
ケンナンバワン
青春
幼馴染の三人が夏休みに美由のおばあさんの家に行き観光をする。花火を見た帰りにバケトンと呼ばれるトンネルを通る。その時車内灯が点滅して美由が驚く。その時は何事もなく過ぎるが夏休みが終わり二学期が始まっても美由が来ない。美由は自宅に帰ってから金縛りにあうようになっていた。その原因と名をす方法を探して三人は奔走する。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ハッピークリスマス !
設樂理沙
青春
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が
この先もずっと続いていけぱいいのに……。
―――――――――――――――――――――――
|松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳
|堂本海(どうもとかい) ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ)
中学の同級生
|渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳
|石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳
|大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?
――― 2024.12.1 再々公開 ――――
💍 イラストはOBAKERON様 有償画像
〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。
藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。
学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。
入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。
その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。
ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
その花は、夜にこそ咲き、強く香る。
木立 花音
青春
『なんで、アイツの顔見えるんだよ』
相貌失認(そうぼうしつにん)。
女性の顔だけ上手く認識できないという先天性の病を発症している少年、早坂翔(はやさかしょう)。
夏休みが終わった後の八月。彼の前に現れたのは、なぜか顔が見える女の子、水瀬茉莉(みなせまつり)だった。
他の女の子と違うという特異性から、次第に彼女に惹かれていく翔。
中学に進学したのち、クラスアート実行委員として再び一緒になった二人は、夜に芳香を強めるという匂蕃茉莉(においばんまつり)の花が咲き乱れる丘を題材にして作業にはいる。
ところが、クラスアートの完成も間近となったある日、水瀬が不登校に陥ってしまう。
それは、彼女がずっと隠し続けていた、心の傷が開いた瞬間だった。
※第12回ドリーム小説大賞奨励賞受賞作品
※表紙画像は、ミカスケ様のフリーアイコンを使わせて頂きました。
※「交錯する想い」の挿絵として、テン(西湖鳴)様に頂いたファンアートを、「彼女を好きだ、と自覚したあの夜の記憶」の挿絵として、騰成様に頂いたファンアートを使わせて頂きました。ありがとうございました。
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる