彼と彼女の365日

如月ゆう

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July

7月23日(火) ある日の部活風景②

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 午前授業が終わり、続く午後の部活動。
 その休憩時間に差し掛かった現在、仕事のために赴いていた部活棟から練習場である体育館へと来てみれば、モジモジと入り口で立ち竦んでいる後輩の後ろ姿を私は見つけた。

「栞奈、ちゃん……? どうかした?」

 声を掛けてみると、ビクリとその背が伸びる。
 一瞬だけ身体は宙を浮き、お手本ともいえるような驚き方だ。

「ふぇ……!? あっ、詩音先輩……お疲れ様です」

「う、うん……お疲れ様。何を見てたの?」

 あまりの挙動不審に、私の方がビックリ。
 けれど、それ以上に好奇心が勝り、恐らく見ていたであろう方向へと目を向けてみればそこには談笑する翔真くんと蔵敷くん。そして、その蔵敷くんの世話を焼いているかなちゃんの姿があった。

「い、いえ……別に何を見ていたというわけでも……」

 そう遠慮がちにジリジリと下がりながら語る栞奈ちゃんだけど、背中に隠したドリンクの一瞬の影を私は見逃さない。

「あー、そっか……今日は――というか、今日もかなちゃんがいるもんね……」

「……………………はい」

 全てを察し、声を掛けてあげると彼女は観念したように小さくため息を吐く。

 ここ一ヶ月の話だろうか。
 何がきっかけなのかはよく分からないけれど、かなちゃんのいない日はこの栞奈ちゃんが蔵敷くんの世話をするようになっていた。

 ドリンクを渡し、タオルも用意し、練習が再開するまで会話したりと……かなちゃんがやっていることを真似するように。

 しかし、それもこうして夏休みに入るまで。
 午前授業になってからは、一人で午後を過ごすのが暇なのか欠かすことなくやって来ているかなちゃん。そのせいでどうにも彼女の立場がない――ようだ。

「…………………………………………」

「…………………………………………」

 だからといって、私が他に言えることなんてない。
 むしろ、尋ねたいことならある。いっぱいある。どうしよう……絶対に今じゃないタイミングだけど、思い切って聞いちゃおうか――。

「――あの!」

「えっ、あ……何、かな?」

 唐突な声に思考を打ち切られ、我に返って聞き返した。

「そら先輩って、あの人と付き合っているんですか?」

「……………………んー」

 それは私も知りたい。
 本人たち曰く『付き合っていない』らしいけど、クラスや部活で過ごしている感じなどは明らかに恋人のソレだし……何だったら、家族――というか最早夫婦というか、そのレベルの接し方だからなぁ……あの二人。

「…………多分だけど、付き合ってはいないんじゃないかなー」

 故に、そう答えるしかなく、言い方で誤魔化す。
 そして同時に、気になった点が一つ。

「……というか、蔵敷くんのことを『そら先輩』って呼んでるんだね……栞奈ちゃん」

「あっ、はい……そら先輩の方が『栞奈ちゃん』って呼んでくれたので!」

「そ、そう……」

 あれ、もしかして蔵敷くんって意外にやり手……?
 いや……でも、まさか…………。

 取り敢えず、一度かなちゃんに聞いておこう。

「マネージャーの皆、集合ー!」

 と、そう考えていたら遠くからみなと先輩の声が響いた。
 そのハツラツな見た目に相応しい声量はこの体育館にまで届き、中にいる選手の皆も監督やコーチたちも、苦笑いを浮かべている。

「……行こっか」

「……はい」

 私たちも二人して顔を見合わせてから互いに苦笑し、一緒に駆けた。
 興が冷めたように、毒気を抜かれたように、話は途中のまま……。
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