彼と彼女の365日

如月ゆう

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July

7月21日(日) 天才と秀才

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 世間はまさに選挙一色。
 とはいえ、まだ投票権のない俺には何の関係もないただの休日であり、グダグダと自宅のソファにもたれながらテレビを見ていた。

 そんな現在は、まだ夕方時。
 投票も絶賛受付中の時間帯であれば、当然のように選挙速報も開示結果もまだテレビでは取り上げられておらず平和に番組を見ることができている。

「…………まぁ、どこもかしこも似たようなニュースしか流してないけどな」

 アニメ会社の放火騒動、某芸能人による闇営業とその謝罪会見、大雨警報などなど。
 故に、適当にザッピングをしていると隣から掛かる声。

「……しょうがない、話題性あるから」

 それは、暇だからと遊びに来ていたかなたであった。
 彼女もまた同じようにソファに座り、テレビを眺め、何となしに時間を過ごしている。

「話題性って言ってもねぇ……どこもかしこも同じことしか流してないし、むしろ無いに等しいだろ」

 そう言いながら、チャンネルを巡回していれば、一つだけ毛色の違う番組を見つけた。

「……おっ、バドミントンの特集か」
「オリンピック候補生、だって」

 どうやら、情報番組のコーナーの一つであり、活躍している学生を紹介するもののようだ。
 小粋なナレーションの声とともにテロップが現れ、その人物は姿を見せる。

 その名は『橋本七海』、北海道の高校に通う二年生。
 ポニーテールをこさえた女の子であり、隣に並ぶアナウンサーとの身長差がかなりあることから、背は高めだと思われる。

 また、半袖シャツの袖を更にまくって肩まで露出する姿は、その快活そうな笑みも相まってボーイッシュな雰囲気を醸し出しており、しかし、女性特有の身体的部位はしっかりと出ていた。

 …………って、俺は何を解説しているんだ。

『――はい、改めて七海さん。身長高いですよね? 一体、何センチくらいあるんですか?』

『えっと……今は百七十五、です』

 そんな番組内では現在、インタビューのような形でアナウンサーと学生とのやり取りがなされており、その合間にはデモムービーのような軽い活躍シーンを流している。

 同時に入るナレーションの説明を聞いていれば、どうやら彼女はこれまでの大会・練習試合で無敗らしく、もちろん今年の全国大会にも出場、優勝候補らしい。

「はえー……高校生最強で、おまけにオリンピック候補生って……天才だな」

 それ以外に言葉が出ない。
 また、テレビで見る限りでは、客観的に見てもかなたに負けないほどには顔が良かった。

 天は二物を与えず――とはいうけれど、与えられるものには三物も四物もあるんじゃなかろうか。

「……身長も、持って生まれたもの。そらも負けてる」

「アホか、男子の平均身長は百七十だぞ。俺じゃなくても、負けてる男子なんてごまんといる」

 まぁ何にしても、色んな意味で届く相手ではないことだけは確かだ。

「でも……そらも九州大会で優勝したし、凄い方」

「それもなぁ……レベルが違うわ。向こうは常勝の日本一、片やこっちは常敗の九州一――才能の差は明らかだ」

 云うならば、むしろ翔真に近い。
 あくまで『近い』だけであるけど。

「ま、一応は優勝したわけだし、別に俺自身に才能がない――なんて謙遜するわけでもないが、あっても俺は『秀才』でしかなく、彼女はまさに『天才』ってわけだな」

「…………『常敗の九州一』って、字面がおかしい」

「そこにツッコむなよ……」

 対比させるための言葉の綾だろうが……。

「……それに、自分のことを『秀才』っていうのもどうかと思う」

 そうかなたはボヤけば、ジトッと睨め付けるように見つめてきた。

「結果に基づく事実だ。むしろ、自分の力を正確に測れていると褒めろ。謙遜ばっかりで自分を低く見積ってても、いい事なんて何もないぞ」

 逆に、過信しすぎても駄目だけどな。
 要はバランス。より正しく、力量を見定めることが大事なのだ。

 ――って、何か話がズレてないか?

「まぁ、話を戻すとだ……この子は俺たちとは違う世界にいるな――って話だよ」

 そう言い、テレビ画面を顎で示すと、番組も終わりが近づいているようで最後にこんな質問がなされていた。

『――では最後に、今月末から全国大会があるそうですが注目の選手などはいますか?』

『えっと……います。名前は言いませんけど、会うのがとても楽しみです』

 その言葉を最後に、ナレーションが締めを語れば番組はコマーシャルへと入る。

「誰だろうな、注目の選手って。ワンチャン、翔真とか有り得るんじゃねーか? あいつ、モテるし」

「ありそう……詩音の話だと、去年の大会の時もいっぱい他校の女の子に話しかけられてたんだって」

 さすがは親友だ。
 俺も一緒に付いて行くことになるだろう全国大会であるが、今年はどんな惨状になるのか少し期待する自分がいた。
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