119 / 284
July
7月20日(土) 選択を見守る者
しおりを挟む
土曜日、休日。
学校へ行く必要のない私は、一週間ぶりに台所に立っていました。
今日の献立はパスタ。
普段はゆうくんがご飯を用意してくれているから、休みくらいは私が……そう思っての行動だったのですけど――。
「じゃあゆうちゃん、付け合わせは僕が作っておくね」
と、気が付けばいつの間にか、同じように隣で料理をする彼の姿があるのです。
「もう……こんな日くらい、私に任せてくれればいいのに……」
「でも、一緒に拵えればその分だけゆっくりできるよ」
そんな現状に私はむくれますが、返されるのはいつもの往々にして正しく、そして滲み出る彼からの心遣い。
それがありがたくて、嬉しくて、頭が上がりません。
だから結局は、ゆうくんに手伝わせてしまうのでした。
「――それで? さっきの話だけど、三者面談がどうしたんだい?」
テキパキと、お互いがお互いの邪魔にならないよう順序立てて行動していると、手持ち無沙汰になったのか話しかけてきます。
それは、私が料理をしながら話そうと食材を準備している間に挙げた話題。
「あっ、うん……今週の火曜日から金曜日がその期間だったんだけど…………」
その中でも、気になった彼らのことについて語りました。
「かなたさんは、文系の学部がある所ならどこでもいい――って。多分、そらくんと同じ大学の学部に通うつもりみたいなの……」
「……彼女らしい選択だね」
すると、ゆうくんは納得したように頷きます。もちろん、私も。
彼らのことを知って三年目になりますけど、そういう彼女の一心な部分はとても好ましくて愛おしいですから。
でも――。
「――でも、そらくんは工業大学に進学するって言ってた……」
「……なるほど、工業大学には当たり前だけど文系の学部はないね」
「そうなの…………」
つまりは、彼らは今のままではいられなくなるというわけです。
いつから幼馴染なのかは分かりませんが、これまで一緒に過ごしてきた時間はあと二年も経たずに終わってしまう。
「しかも、かなたさんはそれを知らないようだったの……」
でなければ、自分の進路をあんな風には答えられないはず。
もっと迷って、途方に暮れていたと私は思いますから。
「でも、だからって僕たちには何もできないよ。それは彼の決めたことで、彼女の決めることなんだから」
「うん、分かってる……」
ゆうくんの一言に、小さく頷きました。
当然です。私たち教職員は生徒に対して手助けこそすれど、従わせるなど以ての外。自主性を重んじなければなりません。
「だけど……私は二人が心配です。何だかこのままだと、すれ違いそうで……」
自分の人生なのだから、一人で決めることはもちろん、間違えではないです。
でも、それで得るものだけ見て、失うものは見ていないんじゃないかって……。
「そうかな? 僕はあまりそうは思わないけど……」
お節介だとは分かっていながらも募る心配事でしたが、そらくんは全部丸ごと吹き飛ばすようにそう言いました。
「きっと彼は、彼女にも選んで欲しいんだよ。自分だけの道を、自分の意思で。人に寄りかかったままの今までじゃなくて、一人で立って歩くこれからを見つけて欲しいんだと思う」
「…………どうして?」
「僕が彼だったら、そう思うからさ。不本意ながらも、彼が僕に似てしまっているのだろ? なら、この推測は当たっていると思うけどね」
したり顔で、見る人によっては少し小馬鹿にした笑いを見せるゆうくん。
「だからこそ、彼は彼女に告げなかったのさ。そして、きっと最後まで志望校は告げないだろう。他でもない自分自身に選ばせるために」
「そっか……」
その言い分に私は納得します。
同時に、少しだけ安心も覚えました。だって、よくよく考えれば、あのそらくんが自分の夢のために一歩踏み出したのですから。
囚われていた過去を吹っ切って、ついには未来を見るようになったのですから。
ならば、かなたさんにも同様に進んでほしい。
その未来が、別れという人生の岐路だとしても。
「だからさ、ゆうちゃんはこれまで通り、見守ってあげればいいんじゃないかな? そして、彼らが困って助けを求めた時に、教師として手助けしてあげたらいい」
「……うん、そうかもね」
残り、一年と八ヶ月。
彼らに待ち受けている未来は、どんなものなのだろうか。
学校へ行く必要のない私は、一週間ぶりに台所に立っていました。
今日の献立はパスタ。
普段はゆうくんがご飯を用意してくれているから、休みくらいは私が……そう思っての行動だったのですけど――。
「じゃあゆうちゃん、付け合わせは僕が作っておくね」
と、気が付けばいつの間にか、同じように隣で料理をする彼の姿があるのです。
「もう……こんな日くらい、私に任せてくれればいいのに……」
「でも、一緒に拵えればその分だけゆっくりできるよ」
そんな現状に私はむくれますが、返されるのはいつもの往々にして正しく、そして滲み出る彼からの心遣い。
それがありがたくて、嬉しくて、頭が上がりません。
だから結局は、ゆうくんに手伝わせてしまうのでした。
「――それで? さっきの話だけど、三者面談がどうしたんだい?」
テキパキと、お互いがお互いの邪魔にならないよう順序立てて行動していると、手持ち無沙汰になったのか話しかけてきます。
それは、私が料理をしながら話そうと食材を準備している間に挙げた話題。
「あっ、うん……今週の火曜日から金曜日がその期間だったんだけど…………」
その中でも、気になった彼らのことについて語りました。
「かなたさんは、文系の学部がある所ならどこでもいい――って。多分、そらくんと同じ大学の学部に通うつもりみたいなの……」
「……彼女らしい選択だね」
すると、ゆうくんは納得したように頷きます。もちろん、私も。
彼らのことを知って三年目になりますけど、そういう彼女の一心な部分はとても好ましくて愛おしいですから。
でも――。
「――でも、そらくんは工業大学に進学するって言ってた……」
「……なるほど、工業大学には当たり前だけど文系の学部はないね」
「そうなの…………」
つまりは、彼らは今のままではいられなくなるというわけです。
いつから幼馴染なのかは分かりませんが、これまで一緒に過ごしてきた時間はあと二年も経たずに終わってしまう。
「しかも、かなたさんはそれを知らないようだったの……」
でなければ、自分の進路をあんな風には答えられないはず。
もっと迷って、途方に暮れていたと私は思いますから。
「でも、だからって僕たちには何もできないよ。それは彼の決めたことで、彼女の決めることなんだから」
「うん、分かってる……」
ゆうくんの一言に、小さく頷きました。
当然です。私たち教職員は生徒に対して手助けこそすれど、従わせるなど以ての外。自主性を重んじなければなりません。
「だけど……私は二人が心配です。何だかこのままだと、すれ違いそうで……」
自分の人生なのだから、一人で決めることはもちろん、間違えではないです。
でも、それで得るものだけ見て、失うものは見ていないんじゃないかって……。
「そうかな? 僕はあまりそうは思わないけど……」
お節介だとは分かっていながらも募る心配事でしたが、そらくんは全部丸ごと吹き飛ばすようにそう言いました。
「きっと彼は、彼女にも選んで欲しいんだよ。自分だけの道を、自分の意思で。人に寄りかかったままの今までじゃなくて、一人で立って歩くこれからを見つけて欲しいんだと思う」
「…………どうして?」
「僕が彼だったら、そう思うからさ。不本意ながらも、彼が僕に似てしまっているのだろ? なら、この推測は当たっていると思うけどね」
したり顔で、見る人によっては少し小馬鹿にした笑いを見せるゆうくん。
「だからこそ、彼は彼女に告げなかったのさ。そして、きっと最後まで志望校は告げないだろう。他でもない自分自身に選ばせるために」
「そっか……」
その言い分に私は納得します。
同時に、少しだけ安心も覚えました。だって、よくよく考えれば、あのそらくんが自分の夢のために一歩踏み出したのですから。
囚われていた過去を吹っ切って、ついには未来を見るようになったのですから。
ならば、かなたさんにも同様に進んでほしい。
その未来が、別れという人生の岐路だとしても。
「だからさ、ゆうちゃんはこれまで通り、見守ってあげればいいんじゃないかな? そして、彼らが困って助けを求めた時に、教師として手助けしてあげたらいい」
「……うん、そうかもね」
残り、一年と八ヶ月。
彼らに待ち受けている未来は、どんなものなのだろうか。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
不動の焔
桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。
「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。
しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。
今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。
過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。
高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。
千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。
本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない
──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。

産賀良助の普変なる日常
ちゃんきぃ
青春
高校へ入学したことをきっかけに産賀良助(うぶかりょうすけ)は日々の出来事を日記に付け始める。
彼の日々は変わらない人と変わろうとする人と変わっている人が出てくる至って普通の日常だった。

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!
水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?
色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。
いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
神送りの夜
千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。
父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。
町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。

婚約者の恋人
クマ三郎@書籍発売中
恋愛
王家の血を引くアルヴィア公爵家の娘シルフィーラ。
何不自由ない生活。家族からの溢れる愛に包まれながら、彼女は社交界の華として美しく成長した。
そんな彼女の元に縁談が持ち上がった。相手は北の辺境伯フェリクス・ベルクール。今までシルフィーラを手放したがらなかった家族もこの縁談に賛成をした。
いつかは誰かの元へ嫁がなければならない身。それならば家族の祝福してくれる方の元へ嫁ごう。シルフィーラはやがて訪れるであろう幸せに満ちた日々を想像しながらベルクール辺境伯領へと向かったのだった。
しかしそこで彼女を待っていたのは自分に無関心なフェリクスと、病弱な身体故に静養と称し彼の元に身を寄せる従兄妹のローゼリアだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる