彼と彼女の365日

如月ゆう

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July

7月16日(火) 三者面談・倉敷家

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 三者面談が始まった。
 とはいえ、午前授業という点以外は何が変わったということもなく、今日は面談の予定でないそらたち三人は部活へと行っている。

 しかし、その顧問の先生もクラスの担任を受け持っているようで、しばらくは楽な活動になると豪語してたっけ……主にそらが。

 一方で、仲間外れにされたような立ち位置にいる私はといえば、教室の外に設けられた待機用の椅子に来ていたお父さんとお母さんとを座らせ、立ったまま待っていた。

 …………ここでも私はハブなのか。

 ――なんて、冗談である。
 単に私が譲っただけ。変に落ち着かず、ジッと座っているのは嫌だったから両親に差し上げたに過ぎない。

 そんな時間であるが、既に二人も来ていることから察せられるとおり、あと五分もしないうちに私たちの番であった。
 教室から出ていくクラスメイトとその親御さんらに軽く会釈を返しつつ、一応三回ほど扉を叩き、ガラガラとスライド式のドアを引く。

「あっ、どうも……いつも娘がお世話になっております」
「お世話になってます」

「いえ、こちらこそお世話になっております。どうぞ、お掛けになってください」

 大人たちの社交辞令的な会話。
 それに合わせ、黙って黙礼をすれば、ちゃっかりと用意されている三つの椅子にそれぞれが座った。

 ……ほんと、さっきの組は二人だったのに、いつの間に用意したんだか。

「はい、では早速ですが……まずはコチラをご覧下さい。まだ前期は終わっていないため途中ではありますが、この二年次の成績となっています」

 そう言って先生が差し出してきたのは、これまでの模試や考査の結果がまとめられたファイルだ。

 見られても良い代物などでは到底なく、また、これから何を言われるのか予想できてしまうため、ゲンナリとした感情以外、私の中からは生まれない。

「去年もそうだったため既にご存知とは思いますが、やはり倉敷さんは理数系が苦手なようで……文系でも履修しなければならない数学と化学が少し厳しいものとなっています」

「あー……やっぱり……」
「お恥ずかしい限りです。私自身が情報系の分野に携わっていながら……」

 はぁ、やっぱりこうなった。
 お母さんはため息を吐き、お父さんは恥じるようにそう頭を掻いているけど、むしろ私の反応だと思う。それくらいには聞き慣れたし、聞き飽きた。

「近所に理数系を得意とした、親しくしている子もいるのですが……なかなかどうして上手くはいかないです」

「……それはもしかして、そ――蔵敷くんのことですか?」

「先生もご存知でしたか」

 そりゃ、ご存知だろう。
 何せ、私たちがまだ中学生の頃から二葉先生から話を聞いていたらしいし。

 あと、今完全に「そらくん」って言いかけたよね?

「……すみません、話が逸れました。そんな倉敷さんですが、その点さえ除けば生活態度は良好です。進路しだいではこのままの成績でも充分かと思いますが……その辺りはどのようにお考えなのでしょうか?」

 そしてやっと始まる進路の話。

「いえ、それはもう娘に任せようかと……」
「ただ、今のご時世ですので大学は出てもらいたいですね」

 けれど、二人ともが放任――というか自由にさせてくれるので、あとは私がこう言うだけでいい。

「――とのことですが、倉敷さんはどう考えているんですか?」

「…………私は、文系の学部だったらどこの大学でもいい……から、進学すること以外はまだ決めてない……です」

 そう、文系の学部だったらどこでも。
 そして、大抵の大学には文系の学部がある。

 つまりは、私は別にどの大学に行っても構わないのだ。
 大事なことはそこではない。

「…………そう、ですか。ありがとうございます。これで面談は終了となりますが、何かありましたら気兼ねなく仰ってください」

 決意を胸にはっきりと答えれば、特に何事もなく淡々と進み、すっかり終了ムードであった。
 両親としても聞きたいことはないらしく会釈と軽い挨拶でその場を後にするため、私も追って立ち上がる。

 その時――。

「――やっぱり、そういう決断をかなたさんはするんですね……」

 そんな言葉が耳に届いた。
 慌てて振り向くけれど、そこにはいつもの読めない微笑みが。

「それでは、さようなら」

「…………さようなら」

 えも言われぬ、この駆け巡る不安感の正体を……私はまだ知らない。
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