彼と彼女の365日

如月ゆう

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July

7月14日(日) 博多祇園山笠

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 我が福岡の有名イベントと言えば?

 そう問えば、様々な解答が返ってき、また逆に答えられないような悲しい場合もあるだろうけど、この時期といえば『山笠』である。

 流れによっては多少違うようであるらしいが、七月の一日から始まり、九日から十五日まで七日間も続くお祭りは地元のテレビ番組でも特集が組まれているほどだ。

 そんな賑やかな様子を、冷たいお茶を片手にソファで寛ぎ、ゆったりとお茶の間から眺めていれば隣から声が掛かった。

「毎年すごい報道されるし、外からの知名度も高い行事だけどさ……私たちは一度も関係したことないよねー」

 目をやるまでもない。
 よく聞き親しんだその声の持ち主である俺の幼馴染は、同様にソファに寄り掛かり、一緒にテレビを見ている。

「まぁ、こういうのは基本的に親から代々続いてくものだしな。むしろ、福岡県民といえども縁のないやつの方が多いだろ」

「確かに……小学校の時とか、祭りのために早退する人もいたけどそこまで多くなかったかも……」

 あー……そういえばあった、あった。
 当時は学校を休めるなら――って、ちょっと参加を検討してみたりな。まぁ、結局は面倒くさそうだったし、大人の熱気が怖くて止めたけど……。

「あと、アレだ。山笠に参加する人はきゅうりが食べられないから、苦手な俺はちょっとだけ羨ましかったわ」

「あったね。『今は山笠中だから俺もきゅうりは食べない』って、そらママに訴えてたっけ」

「まぁ、その度に『だったら、山笠に参加してきなさい』って諭されて、食わされてたけどな」

 でも、学校の給食にはその期間中ずっときゅうりは出ないので、それだけでも助かっていた。
 さんきゅー、山笠。アイ、ラブ、山笠。

「けど……何で山笠の間はきゅうりを食べちゃいけないんだっけ……?」

「そりゃ、きゅうりを輪切りにした時の切り口が山笠の祭神――祇園神スサノオミコトのご神紋である木瓜ぼけの花に似てるからだよ。そんなものを口に入れるとか、縁起が悪いだろ?」

 他にも、山笠中は女性と接触してはいけない『女人断ち』や飾り立てる人形にも決まりがあったりと、色々な禁忌タブーが存在していたりする。

「へぇー…………で、そらは何でそんなこと知ってるの?」

「そんなもん、きゅうりを食いたくなくて親を論破するために調べたに決まってるだろ」

「…………無駄な努力」

 うるせーよ。
 バッサリと言葉で切り捨てられた俺は、コップに注いであるお茶を一口呷り、垂れ流しにされていたテレビへ意識を向けた。

 そこでは、これまでの五日間の内容が簡単に説明され、今日行われる中身、そして最終日である明日のことへと話題は移っている。

「…………ふーん、今日は『流舁き』っていうのをやるんだね」

「あぁ、みたいだな。『舁き山』とも呼ばれ、未熟な舁き手たちがそれぞれの区域を巡り、観光客にとっては見学のチャンスにもなる――ってか」

 懇切丁寧に解説してくれるテレビの内容は、意外にも知らないことばかりで感心することが多い。
 地元民がそれでいいのか……って話でもありそうだけど、福岡民はどちらかと言えば『放生会』で騒ぐから。こっちは管轄外なのだ。

 そして続く、明日の『追い山』。
 こちらこそが最も山笠の中で有名な取り組みであろう。

 屈強な男たちが神輿を担ぎ、声を張り、汗を流し、街の中を駆け回る。
 映像なんかでも取り上げられている激しい祭事。まさに戦い。

 そんな熱気の感じる番組の紹介を眺めていたわけだけども……一つだけ、どうしても気になっていたことがあり、それが口をついてしまった。

「前々から思ってたんだけどさ……それに女児が参加するのって、色々とヤバくね?」

 いわゆる『子供山笠』というやつ。
 そこでのみ、本来は禁止とされている女性――というか女の子の参加が許されており、当然他の男の子と同様に締め込み姿であるのだけど…………これがもう、本当にね……うん。色々と危ない。

 そう思っての発言だったのだけど、返ってきた反応はとても冷たいもので……。

「……………………えっち」

 いや、違くてさ……そうじゃないだろ!?
 ――と、色々と後悔する羽目になるのであった。

 …………ほんと、言わなきゃよかったよ。
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