彼と彼女の365日

如月ゆう

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July

7月13日(土) 家族ぐるみなお出掛け

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 車に揺られること二十分弱。
 福岡の中心地から離れたこの片田舎にある大型ショッピングモールこそが、俺たちの今日の目的地であった。

「はーい、到着」

 そんな母さんの掛け声とともに車から降りれば、どんよりとした曇り空が出迎えてくれる。
 吸った空気は湿っており、ジワリと肌に纒わり付く感覚は不快指数が高い。

「ありがとうね、あやちゃん!」

「…………暑い」

 そして、一緒に来ているのは俺だけではなかった。
 かなたと、かなたのお母さん。この二人もまた、俺と同様に車から降りてくる。

「さぁ、買うからねー」
「おー♪」

 テンションの高い母親たち。
 だが、それもそのはず。実の所はこの二人が今日の買い物の主催者であり、俺とかなたこそがその連れであるのだから。

 先導する――というか、勝手に先へと進んでいく彼女らを追い掛け、着いた先は自社ブランドでそこそこ名のある某衣料品店。
 入店すれば早速、とばかりに姿を消した二人にため息を吐きつつ、俺もメンズコーナーで夏用の服を探しに出た。

「――とはいえ、Tシャツと上に羽織る系の服さえあればそれで十分なんだけどな……」

 七分袖のシャツやらサマーニットを求めて、カチャカチャとハンガーラックに吊るされた商品を吟味していれば、後ろから声が掛かる。

「…………相変わらず、そらは夏でも袖や丈が長いねー」

「あんまり肌を見せるのが好きじゃねーんだよ」

 外であるためいつもより控えめに、そっと寄りかかってくる重みを感じながら俺は答えた。

「てか、何でこっちにいるんだよ? レディースは向こうだろ」

 このお店は、敷地の左右でメンズとレディースの商品を区切った造りとなっているため、余程のことがない限り女性がこちらに来る意味はない。
 それこそ、全体的に見て回ったから俺を呼びに来た――とか、そういう場合くらいしかないだろう。

 しかし、まだ入店したばかり。
 では果たして、かなたは何をしに来たのか。

「着せ替え人形、疲れた……」

「あー……何、それはご苦労さま……」

 たった一言の返答で全てを察した。

「悪いな。知っての通りウチには娘がいないからさ、母さんはそういうのに飢えてんだよ」

 なので、代わりに俺が謝っておく。
 そして話は終わったとばかりに、再び品定めに戻る俺であったのだが、向こうはそうでもなかったようでクイっと袖を引っ張ってアピール。

 仕方なく目をやれば、いつの間にか紺色の布地を手にしていた。こいつ、いつの間に……!

「……ここに来るついでに、いい感じのカーディガン見つけてきた」

 そう言って手渡されたものは、確かに俺好みのもので生地は薄く、軽く、夏に着ても涼しそうだ。
 試しに備え付きの鏡の前で試着し、クルリと回りながら全身を眺めてみる。

 ……………………ふむ、悪くない。

「良いと思う」

 パチパチと軽く手を叩き、褒めてくれる幼馴染。
 だがそれは、その服を持ってきた自分自身を称賛しているようにも見て取れ、何か素直に喜べない。

「…………まぁ、いいか」

 その後、適当にTシャツを漁れば、別の場所を見て回る
 さぁ、次にいってみよー。

「――って、そら。そっち女性用……趣味?」

「何でそうなる……」

 そうして向かった先がレディースコーナーであったのだが、いわれのない誤解をいきなり受けてしまう。

「一度はこっちに来た、ってことはお前も服を買うつもりなんだろ?」

 おまけに、来るタイミングが序盤すぎた。
 ならば満足に服を選べていないことは明白であろう。

「…………ん、正解」

「なら、母さんたちがいないうちに選ぼうぜ」

 ――ということで、先程とは逆の立場になった。

「…………そら、これどう?」

 とはいえ、展開が同じになるということもなく、気になった服を手に取る度にかなたは俺に尋ねてくる。
 そのうちの一枚が、青色の明るいワンピース。

「隣の、その……クリーム色? のやつの方が良くないか?」

「ん、分かった」

 だけど、何となくイメージと合わず色違いを勧めてみれば、彼女は迷うことなく頷いた。
 もう、間髪入れず。頭脳王の早押しレベルで。

「いやいやいや、待て待て。早い、決めるの。せめて試着しろよ」

 さすがにそれは早計すぎると、俺は慌てて止める。
 大の女性が人の言葉を鵜呑みにして、即決するなよ。ちゃんと試着して、自分の感性を信じてけ。

 と、そのまま背中を押して試着室まで連れていけば、中へお仕込み、しばしの待機。
 数分もすれば、彼女は出てきた。

「着てみて、自分で鏡を見て……どうだ?」

「良い、と思う……?」

 所詮は俺の趣味であるため、かなた本人にも確認させてみたのだけど、返ってきたのはそんな言葉。

「いや、なんで疑問系なんだよ……」

「……そらは? どう思う?」

 逆に問われ、俺は全身を眺める。
 ふむ、悪くないのではないだろうか。むしろ、今日のコーディネートで履いているデニムと色的にも合っていてかなり好み。

「……………………良いんじゃねーの?」

「ん…………じゃあ決まり」

 そういうことらしい。

「そらー、服は決まった?」
「かなたもー」

 ――とその時、母親たちが丁度よく俺たちを探しに来た。見回ったのだろう。
 故に俺たちは、それぞれが手に持つ買う予定の品々を彼女らのカゴへと放り、ともすれば、すぐにレジへと向かっていった。

 その様子を眺め、一足先に外へと出ていれば、いつの間にか雲の合間から晴れ間が差している。
 背後では、自動ドアの開く音が。

『さぁ、じゃあ次に行ってみようか』

 紡がれる母親たちの声。
 俺たちの戦いショッピングはまだまだこれからだった。
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