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July
7月12日(金) 三者面談の予定
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「――はい、では先程配ったプリントを見てください」
現在時刻は午後三時四十五分。
掃除を終え、帰りのHRを行っている真っ最中であり、配布物であるプリントが前から後ろへと回される。
前の教壇に立つ先生は、その紙を指差していた。
「それは来週から行われる三者面談の日程表です。全員の予定に沿うように調整しましたが、もし急用で難しくなった――などがありましたら、記載されている電話番号にお願いします……と、お家の方に伝えてください」
そこには七月十六日の火曜日から十九日の金曜日まで、生徒の名前がビッシリと書かれており、また、『緊急連絡先』として先生の携帯の番号まで載っている。
…………いや、だからどうしたって話なんだけど。
「また、それに伴って来週は午前授業となりますが、試験も明けて遊びばかりに感けないようにしましょうね」
無駄で、意味のない思考に浸りつつ、話半分に聞いていればそう釘を刺す先生。
一方の生徒はといえば、聞き飽きた小言に苦笑し、一応の反応は見せるものの、聞く耳を持ちそうにない雰囲気であった。
「では、七限目も頑張ってくださいね」
そう告げ、教室を出ていくと雰囲気は一気に砕けたものとなる。
次の授業までの残り時間。せいぜいが十数分。
それを精一杯楽しもうと、身体の向きを変え、または移動し、周囲と歓談を始めた。
当然、俺も。
「見事にバラバラだな、三者面談の時間」
後ろを振り向き話しかければ、親友である翔真は爽やかな表情を向けてくる。
「まぁ、一緒の日付だから何だ……って話でもあるけどね」
「そりゃそうだ」
おっしゃる通り。
だからって、別に何も変わりはしない。
ただ、強いて挙げるとするなら――。
「――わ、私は翔真くんのご両親……見たかった、かも……」
他生徒の親を拝見できるくらいか……と、そう思考していた内容を掠め取られるように、詩音さんが話に入ってきた。
それに対して、翔真は意外そうに首を傾ける。
「あれ……詩音さんは知らないんだっけ?」
「さぁ、少なくとも俺とかなたは一度見たことあるけどな」
「…………去年、チラッとだけ」
今年とは違い、昨年の三者面談では翔真・俺・かなたと連続で予定が埋まっていたために、ほんのちょっと、それこそ一目だけではあるが。
「でも、かなり綺麗だったよなー。二十代って言っても普通に通じるレベルだったぞ」
「……容姿の遺伝性を感じた」
「ふ、二人とも……ズルい……!」
故に、あの時のことを思い出し、口々に感想を述べていると泣きべそをかく少女が一人。
「えっ……詩音さん、そこまで俺の母親が見たいの……?」
そして、何も理解していない少年もまた一人。
「いや、普通に話に加われないのが嫌なだけなんじゃねーの? なぁ、かなた」
「ん…………仲間はずれ、良くない」
そんな状況に、取り敢えず適当に誤魔化しておく。
が、どうにも面倒な雰囲気になってきたと悟った俺たちは適当な話題へと変えてみた。
「ていうかさ、二年のこの段階で三者面談して何を決めるつもりなんだろうな」
「……一年の時は文理の選択だったはず、だけど」
けど、それだって俺たちの学科からすればあってないようなものであった。
であれば一体、今年は何を決めるのだろうか。
受験まであと一年と半年はある、最も遊び盛りな時期だというのに。
「そうだとしても、就職か進学か、専門学校かどうか、みたいな生徒の考えている大雑把な進路くらいは聞くんじゃないかな。でないと、先生の対応の仕方も変わってくるだろうし」
「そ、それに……蔵敷くんは『あと』って言ってたけど、もう一年半しか残ってない、から……」
そうか。言われてみれば、確かに高校生活の半分が過ぎようとしている。
あと一年後には志望校を決め、受験にいっぱいになり、気が付けばもう卒業。
銘々におのが道を進んでいくのだろう。
それこそあっという間に。まさに光の速さで。
続くと思っていた日常も、当たり前の毎日も、終わりの一歩を着々と進んでいるのだ。
そのことに、俺は今更ながら気付いていた。
現在時刻は午後三時四十五分。
掃除を終え、帰りのHRを行っている真っ最中であり、配布物であるプリントが前から後ろへと回される。
前の教壇に立つ先生は、その紙を指差していた。
「それは来週から行われる三者面談の日程表です。全員の予定に沿うように調整しましたが、もし急用で難しくなった――などがありましたら、記載されている電話番号にお願いします……と、お家の方に伝えてください」
そこには七月十六日の火曜日から十九日の金曜日まで、生徒の名前がビッシリと書かれており、また、『緊急連絡先』として先生の携帯の番号まで載っている。
…………いや、だからどうしたって話なんだけど。
「また、それに伴って来週は午前授業となりますが、試験も明けて遊びばかりに感けないようにしましょうね」
無駄で、意味のない思考に浸りつつ、話半分に聞いていればそう釘を刺す先生。
一方の生徒はといえば、聞き飽きた小言に苦笑し、一応の反応は見せるものの、聞く耳を持ちそうにない雰囲気であった。
「では、七限目も頑張ってくださいね」
そう告げ、教室を出ていくと雰囲気は一気に砕けたものとなる。
次の授業までの残り時間。せいぜいが十数分。
それを精一杯楽しもうと、身体の向きを変え、または移動し、周囲と歓談を始めた。
当然、俺も。
「見事にバラバラだな、三者面談の時間」
後ろを振り向き話しかければ、親友である翔真は爽やかな表情を向けてくる。
「まぁ、一緒の日付だから何だ……って話でもあるけどね」
「そりゃそうだ」
おっしゃる通り。
だからって、別に何も変わりはしない。
ただ、強いて挙げるとするなら――。
「――わ、私は翔真くんのご両親……見たかった、かも……」
他生徒の親を拝見できるくらいか……と、そう思考していた内容を掠め取られるように、詩音さんが話に入ってきた。
それに対して、翔真は意外そうに首を傾ける。
「あれ……詩音さんは知らないんだっけ?」
「さぁ、少なくとも俺とかなたは一度見たことあるけどな」
「…………去年、チラッとだけ」
今年とは違い、昨年の三者面談では翔真・俺・かなたと連続で予定が埋まっていたために、ほんのちょっと、それこそ一目だけではあるが。
「でも、かなり綺麗だったよなー。二十代って言っても普通に通じるレベルだったぞ」
「……容姿の遺伝性を感じた」
「ふ、二人とも……ズルい……!」
故に、あの時のことを思い出し、口々に感想を述べていると泣きべそをかく少女が一人。
「えっ……詩音さん、そこまで俺の母親が見たいの……?」
そして、何も理解していない少年もまた一人。
「いや、普通に話に加われないのが嫌なだけなんじゃねーの? なぁ、かなた」
「ん…………仲間はずれ、良くない」
そんな状況に、取り敢えず適当に誤魔化しておく。
が、どうにも面倒な雰囲気になってきたと悟った俺たちは適当な話題へと変えてみた。
「ていうかさ、二年のこの段階で三者面談して何を決めるつもりなんだろうな」
「……一年の時は文理の選択だったはず、だけど」
けど、それだって俺たちの学科からすればあってないようなものであった。
であれば一体、今年は何を決めるのだろうか。
受験まであと一年と半年はある、最も遊び盛りな時期だというのに。
「そうだとしても、就職か進学か、専門学校かどうか、みたいな生徒の考えている大雑把な進路くらいは聞くんじゃないかな。でないと、先生の対応の仕方も変わってくるだろうし」
「そ、それに……蔵敷くんは『あと』って言ってたけど、もう一年半しか残ってない、から……」
そうか。言われてみれば、確かに高校生活の半分が過ぎようとしている。
あと一年後には志望校を決め、受験にいっぱいになり、気が付けばもう卒業。
銘々におのが道を進んでいくのだろう。
それこそあっという間に。まさに光の速さで。
続くと思っていた日常も、当たり前の毎日も、終わりの一歩を着々と進んでいるのだ。
そのことに、俺は今更ながら気付いていた。
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