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June
6月25日(火) 戻り始めた日常③
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「ただいまー……」
午後十時過ぎ。
鍵を回し、自宅のドアをくぐった私はそう声を掛けました。
玄関からリビングへと繋がる道を歩き、明かりの灯る部屋への扉を引けば、そこにはテレビも付けないままソファに腰かけて読書に勤しむ一人の男性がいます。
彼はその気配に気が付くと、読んでいるページに栞で挟んで顔を向けてくれました。
「おかえり、ゆうちゃん。今日もお疲れ様」
その一言だけで、今日一日を労われた気分。
仕事に必要なものを詰めていたバッグを部屋に置き、リビングへと戻ってみればいつの間にかゆうくんはエプロンを身に付けています。可愛い。
「このままご飯にする? それとも、先にお風呂に入るかな?」
「じゃあ、ご飯で。せっかく用意してくれてるみたいだから」
机に並ぶのは、ご飯と一緒に装われた茄子と豚肉、そしてニラの炒め物……らしきワンプレート料理。
随分と豪快でゆうくんらしからぬ料理だけど……。
それを思い切って、予め用意されたスプーンで掬って口に運ぶと驚きました。
「………これ、カレー……!」
「そう、これはルーのない――言わば、茄子と豚肉の炒めカレーだよ」
私の対面に座り、肘をついたゆうくんはそう自慢げに笑います。その笑顔もまた良い。
美味しいご飯に舌鼓を打ち、最愛の人が目の前にいる……というのはこれ以上ない幸せでしょう。
「ごめんね、ゆうくん。私の帰りが遅いせいで、いつもご飯を用意させて」
「いいや、全然。『先に帰り着いた方が準備する』ってルールは僕たち二人で決めたことだし、そこに文句はないよ」
私は高校教師、ゆうくんは中学の養護教諭ということで余程のことがない限りは彼の方が早く帰宅する。
そのことに私が謝罪をするも、何でもないとばかりに許してくれました。
「それより、彼らの様子はどうなったのかな?」
「あっ、うん……その事なんだけど……」
そして、毎回のことではあるけど、食事中の私たちは例の幼馴染二人の話で持ち切りとなります。
かれこれ二年、二人で彼らのことを見守って三年目ともなれば、もはや身内も同然。
今日も、その報告と勤しみましょう。
「あの動画の件で昨日、クラスの皆がそらくんを擁護してくれたことは話したでしょ?」
「うん、したね。彼らに歩み寄ってくれる子らがいて嬉しい限りだよ」
「それで心の距離も少し近づいたのだと思う。今日のLHRは来週の定期考査に備えての自習時間にしてみたんだけど、二人に分からないところを聞きに来る生徒が何人かいたの」
普段でいえば、そらくんもかなたさんも互いが互いの得意分野を教えるのが常であり、けどそれだけで、勉強に困ったことがあったら畔上くんがクラスの相談役として一人で頑張っていました。
それが成績トップだから――ということは理解している反面、二人もそれぞれが理系と文系の好成績者なのになぁ……と少し残念に思っていたのですが、今回のことでそれが一歩前進し、私は嬉しい思いです。
「そっか……それは何よりだね」
ゆうくんもその事実を静かに喜んでくれると、いつの間にか用意されていたお酒を一杯呷りました。
「それにゆうちゃんの話だと、今週から彼の部活の大会もあるらしいし、色々と頑張って欲しいところだよ」
「あっ……何だったらゆうくん、一緒に見に行く? 個人戦の準決勝までは金曜に行われるから、お互いに行くことは難しいけど、そらくんが勝ち残れば、土曜日にその勇姿が眺められるよ」
「いつの間に日程まで調べて……。よほど彼らのことが気に入ったんだね」
若干の苦笑交じりにゆうくんからそう言われました。
確かに間違ってはないですけど、その言い方には不服申し立てます。
「それはゆうくんもでしょ? 教育実習が終わった頃にいきなり連絡してきたかと思えば、私のいる学校を受験するみたいだからもし関わることになったら二人に目をかけてやってくれ――なんて」
聞いて驚きましたよ。
まさか、あのゆうくんからそんな言葉が出るとは……と。
「僕の場合は気に入っているというよりも、気になっているという方が正しいんだけど……まぁ、いいかな」
それでも何かブツブツと言っていたゆうくんは、一つ頷くと顔を上げます。
「うん、分かった。ゆうちゃんが行くなら、僕もついて行くよ」
これで予定決定。
しかし、まだまだ私の二人に関するお話は止みません。
「あっ……それとね、先日のかなたさんのように、今度はそらくんの方も面白い展開になっているみたいで――……」
元に戻り始めた日常も、少し変化し始めた日常も、彼らを見守っていられる限りはずっと話していきたいと、そう思います。
午後十時過ぎ。
鍵を回し、自宅のドアをくぐった私はそう声を掛けました。
玄関からリビングへと繋がる道を歩き、明かりの灯る部屋への扉を引けば、そこにはテレビも付けないままソファに腰かけて読書に勤しむ一人の男性がいます。
彼はその気配に気が付くと、読んでいるページに栞で挟んで顔を向けてくれました。
「おかえり、ゆうちゃん。今日もお疲れ様」
その一言だけで、今日一日を労われた気分。
仕事に必要なものを詰めていたバッグを部屋に置き、リビングへと戻ってみればいつの間にかゆうくんはエプロンを身に付けています。可愛い。
「このままご飯にする? それとも、先にお風呂に入るかな?」
「じゃあ、ご飯で。せっかく用意してくれてるみたいだから」
机に並ぶのは、ご飯と一緒に装われた茄子と豚肉、そしてニラの炒め物……らしきワンプレート料理。
随分と豪快でゆうくんらしからぬ料理だけど……。
それを思い切って、予め用意されたスプーンで掬って口に運ぶと驚きました。
「………これ、カレー……!」
「そう、これはルーのない――言わば、茄子と豚肉の炒めカレーだよ」
私の対面に座り、肘をついたゆうくんはそう自慢げに笑います。その笑顔もまた良い。
美味しいご飯に舌鼓を打ち、最愛の人が目の前にいる……というのはこれ以上ない幸せでしょう。
「ごめんね、ゆうくん。私の帰りが遅いせいで、いつもご飯を用意させて」
「いいや、全然。『先に帰り着いた方が準備する』ってルールは僕たち二人で決めたことだし、そこに文句はないよ」
私は高校教師、ゆうくんは中学の養護教諭ということで余程のことがない限りは彼の方が早く帰宅する。
そのことに私が謝罪をするも、何でもないとばかりに許してくれました。
「それより、彼らの様子はどうなったのかな?」
「あっ、うん……その事なんだけど……」
そして、毎回のことではあるけど、食事中の私たちは例の幼馴染二人の話で持ち切りとなります。
かれこれ二年、二人で彼らのことを見守って三年目ともなれば、もはや身内も同然。
今日も、その報告と勤しみましょう。
「あの動画の件で昨日、クラスの皆がそらくんを擁護してくれたことは話したでしょ?」
「うん、したね。彼らに歩み寄ってくれる子らがいて嬉しい限りだよ」
「それで心の距離も少し近づいたのだと思う。今日のLHRは来週の定期考査に備えての自習時間にしてみたんだけど、二人に分からないところを聞きに来る生徒が何人かいたの」
普段でいえば、そらくんもかなたさんも互いが互いの得意分野を教えるのが常であり、けどそれだけで、勉強に困ったことがあったら畔上くんがクラスの相談役として一人で頑張っていました。
それが成績トップだから――ということは理解している反面、二人もそれぞれが理系と文系の好成績者なのになぁ……と少し残念に思っていたのですが、今回のことでそれが一歩前進し、私は嬉しい思いです。
「そっか……それは何よりだね」
ゆうくんもその事実を静かに喜んでくれると、いつの間にか用意されていたお酒を一杯呷りました。
「それにゆうちゃんの話だと、今週から彼の部活の大会もあるらしいし、色々と頑張って欲しいところだよ」
「あっ……何だったらゆうくん、一緒に見に行く? 個人戦の準決勝までは金曜に行われるから、お互いに行くことは難しいけど、そらくんが勝ち残れば、土曜日にその勇姿が眺められるよ」
「いつの間に日程まで調べて……。よほど彼らのことが気に入ったんだね」
若干の苦笑交じりにゆうくんからそう言われました。
確かに間違ってはないですけど、その言い方には不服申し立てます。
「それはゆうくんもでしょ? 教育実習が終わった頃にいきなり連絡してきたかと思えば、私のいる学校を受験するみたいだからもし関わることになったら二人に目をかけてやってくれ――なんて」
聞いて驚きましたよ。
まさか、あのゆうくんからそんな言葉が出るとは……と。
「僕の場合は気に入っているというよりも、気になっているという方が正しいんだけど……まぁ、いいかな」
それでも何かブツブツと言っていたゆうくんは、一つ頷くと顔を上げます。
「うん、分かった。ゆうちゃんが行くなら、僕もついて行くよ」
これで予定決定。
しかし、まだまだ私の二人に関するお話は止みません。
「あっ……それとね、先日のかなたさんのように、今度はそらくんの方も面白い展開になっているみたいで――……」
元に戻り始めた日常も、少し変化し始めた日常も、彼らを見守っていられる限りはずっと話していきたいと、そう思います。
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