彼と彼女の365日

如月ゆう

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June

6月23日(日) 戻り始めた日常②

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 今日も部活の練習日。
 一週間後には九州大会を控えているということで、メンバーはより一層気合を入れ、また、私を含めたマネージャーの皆も忙しなくそのお手伝いをしていました。

 そして、それはこの場に存在する私たち部員だけに言えることではなくて……。

 ここ数日は毎日のように体育館を訪れ、汗を拭く蔵敷くんに飲み物などを渡しているかなちゃんの姿を見ていると自然と笑みが零れます。

「前も言ったかもしれないですけど……蔵敷先輩って、相変わらずあの人と仲良いですよね。ずっと部活に来てますし」

 そんな時に話しかけてきたのは、後輩マネージャーの栞那ちゃん。

「そうですよー……。私なんて、また先輩たちと間違えてお手伝いをお願いしちゃったんですから……」

 そして、乱入者がもう一人。
 同じく後輩の楓ちゃんもまた、話に参加をしてきました。

 その二人は、私と同様に彼らの様子を眺めているけれど、見守る目つきもそこに浮かぶ感情もきっと同じものだと思う。

 それもそのはず。
 もう私の彼らに対する蟠りは解けたのだから。

 あれだけ歪に見えていた振る舞いも、いつもと変わらないありふれた普段通りの行動であり、今なら微笑ましく思えた。安心感を覚えた。

「うん、そうだね。本当に、あの二人は仲良しだと思う」

 以前までだったら疑っていたけれど、今はもう真実だと信じられる。

 アレを見たら信じられずにはいられない。
 物静かなかなちゃんがあんなに感情を露わにして話すなんて、想像もつかなかったし、それだけ心に響いた。

 きっと私たちには理解できないような絆で、二人は繋がっているのだ。

「…………詩音先輩?」
「…………大丈夫ですか?」

 そんな思いでジッと見守っていれば、心配した様子で声を掛けてくれた。

「うん、大丈夫。……さっ、私たちは私たちのできる仕事をしようか!」

 気持ちは明るく、不思議な高揚感に包まれながら彼らから視線を外した。前を向く。

「大会が近いし、まだまだやることは多いからね」

「はーい……」
「頑張りまーす……」

 やりかけだった各々の仕事を片付けるべく、私たちは動く。
 そんな最中に目に入ったのは、私と似た心情を抱える一人の男の子。いつも見ているから分かることだけど、今日はいつにも増して動きにキレがあった。

 今も一人、シャトルを床に立ててそれをスマッシュで当てる――まるでゲームのような打球コントロールの練習をしているけれど、どれも百発百中、吸い付くように的を倒していく。

「翔真くん、何かが吹っ切れたように動きが良くなったわね」

「――きゃ!」

 耳元で響く声。触れる吐息。
 擽ったくも、全身を何が駆け抜ける感覚に身体が浮き上がる。

 慌てて耳を押さえて振り向けば、そこにはまた香織先輩が立っていた。
 ノートを左手とお腹で開いて支え、手に持つペンを口元に寄せて、前と同じポーズである。

「それに、詩音ちゃんもそうでしょ?」

 …………前回もそうだけど、何で分かるのだろう?

 不意をつくような形で、立て続けに当てられる私たちの心情。
 しかし、そう易々と見透かされるのも少し悔しく、それ故に、私はこう返事をする。

「さぁ……どうでしょう?」

「ふふ……隠さなくても分かるよ。翔真くんも詩音ちゃんも、先週に比べるとすごく楽しそうにしてるもの。やっぱり、あの二人が原因だったのかな?」

 そう言って指の代わりとして差されたペン先の方向は、見なくても分かる。
 蔵敷くんとかなちゃんのことを示しているのだろう。

「解決したの?」

 言うべき……かどうか悩む。
 だって、もう終わったことで、すでに済んだ話なのだから。

 それを掘り下げるというのは、なんだか違うことのように思える。
 少なくとも、私から話すべき内容ではないと。

 でもじゃあ、あの二人に投げるのかといえばそれも間違えだ。
 今のあの二人に、わざわざ水を差すようなことなどしたくはなかった。

 だから、一言だけ。
 心配してくれていた香織先輩にはこれだけを伝えておく。

「はい、全部無事に……!」

「そう……それは良かった。これで団体戦だけでなく、個人戦も安泰って感じかな」

 続けて「おまけに、一番の働き者である詩音ちゃんも戻ってきて百人力だしね」と冗談交じりに呟いた先輩は、お茶目にウインクをしてその場を離れていった。

 さてと、それじゃあ私も仕事に戻ろう。

 体育館を出れば、真っ青な大空。白い雲。照らす日の光が肌を焼き、吹き抜ける風は涼しく心地よい。
 今日も平和に、日常は回っている。
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