彼と彼女の365日

如月ゆう

文字の大きさ
上 下
85 / 284
June

6月20日(木) 新たな悩みの種・少女編

しおりを挟む
「……………………はぁー」

 いつものお昼休み。
 昨日から久しぶりに友人合わせて四人でご飯を囲んでいるというのに、隣に座る幼馴染は疲れたようなため息を吐いていた。

「どうしたの、かなちゃん? この前のことで、まだ何か言われてるの?」

 心配そうに顔を覗く菊池さんは、つい一昨日のことが関係しているのかと疑い、かなたの身を案じている。

「いや……それは大丈夫なんだけど…………」

 が、それに対して返ってくるのは否定。
 しかし、いつもとは違い言葉の歯切れは悪く、要領の得ない話し方になっていた。

「じゃあ、どうしたんだよ。大人しく吐いて、楽になっとけ」

 面倒くさくなった俺は投げやりに促す。
 別に悩み当てクイズをやっているわけでもないのだ。これで話せないのなら、恐らくは話したくない内容なのだろう。

 箸を進めながら気長に待っていると、ポツリとかなたは口を開く。

「……………………こ、告白が増えて……困ってる……」

「…………は?」
「えっ?」
「へぇ……」

 思わぬ発言に、三者三様の反応。
 もっと具体的にその様子を挙げるとすれば、俺は何を言われたのか分からずに惚け、菊池さんは言われたことを理解したが故に驚き、翔真は全てを察して面白そうな笑みを浮かべていた。

 一方で、そう語るかなたもまた一丁前に照れた様子で目を僅かに伏せ、コイツの普段を知っている者なら物珍しく思うほどに、滅多にお目にかかれない表情を晒して――って、今はそういうことを考えてる場合じゃないだろ!

「それはアレか? 俺と付き合ってる云々の噂が原因なのか?」

「多分……?」

 本人も置かれている事態をよく分かっていないようで、俺の問いに首を傾げながら答える。

 まぁでも、どうにもかなたは裏で男子に人気なようなので、告白されたという状況そのものは起きて然るべきことだったのかもしれない。

 そう一人で納得していると、恋愛マスターと名高い――少なくとも人一倍モテているだろう御仁から意見が飛んでくる。

「いや、その噂が……ってよりも、噂を二人が否定してまわってることが原因だと思うよ」

 しかし、さすがはかの御仁のお言葉。
 何を言っているのかさっぱりだぜ……!

「あっ、そっか……!」

 対して、菊池さんは理解できたようで……ヤバい、俺の恋愛能力の低さが世間に露呈してしまう。
 …………いや、よくよく考えれば別にいっか。

「二人で納得しているところ悪いんだが、俺が分からん」
「…………私も」

 恐る恐る手を上げる、俺とかなた。
 どうやら、この幼馴染コンビはそっち方面に疎いようで、見事にポンコツ具合を晒していた。

「簡単な話さ。まず最初の噂で二人が付き合ってると広まった。けど、俺たち外野からすれば、正直な話『やっぱりそうなんだ』って納得できるような周知の事実だったわけなんだよ」

「けど、それをかなちゃんと蔵敷くんが否定したの。その行為って、『私たちはフリーです』って宣言してるようなもので――だから、挙って皆がかなちゃんに告白しに来てるのだと思う」

 …………なるほどな。
 仲の良い奴がいるっぽいけど、付き合ってないなら俺にもチャンスがあるかも!? ――って思った輩が大勢いたってことか。

 まぁ何と言うか……ご愁傷さまだな。
 それもまた、人気者の宿命ってやつなんだろうけど。

「断るの面倒なんだけど、どうすればいい……?」

 しかし、それはあくまでも他人事として受け取れる俺の勝手な言い分であり、そう尋ねる本人かなたとしては大分お困りなようだ。

「手っ取り早い方法としては、『恥ずかしくて否定してたけど、実は付き合ってましたー』って二人が公言すること……かな。元からそうかなって思われてたくらいだし、元鞘に収まるだけだと思う」

 確かに、一番堅実で安定性のあるやり方だと思う。

 が、しかし……うーむ…………。

「…………やるか?」

「んー……あまり嘘はつきたくないかも」

 だよな。それで、さらに余計なことを背負いこんでも嫌だし……。

「じゃ、じゃあ……かなちゃんが『私は誰とも付き合う気がない』って広めるのは……?」

 おぉ、それは割りとアリな作戦な気がする。

「それは……良いかも」

 かなたもノリノリなようだ。
 これで悩みの種が消えてくれればいいんだけどな。

 そう意見が纏まろうとしていれば、忠告のように翔真は一言だけ水を差した。

「それでもいいとは思うけど、告白の数が減るだけで玉砕覚悟の人とかは平気で来るから気を付けてね。あと、同性愛者だ――って噂がたつこともたまにあるから、それも気を付けて」

 経験者は語る、とは言うけれどその目には悲嘆のような何かが浮かんでおり……。

「あっ、はい」

 思わずすで返事をする、かなたであった。
しおりを挟む


こちらも毎週火曜日に投稿しておりますので、よければ。
ファンタジー作品: 存在しないフェアリーテイル

以下、短編です。
二人のズッキーニはかたみに寄り添う
神の素顔、かくありき
彼女の嘘と、幼き日の夢
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

CHERRY GAME

星海はるか
青春
誘拐されたボーイフレンドを救出するため少女はゲームに立ち向かう

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

食いしん坊な親友と私の美味しい日常

†漆黒のシュナイダー†
青春
私‭――田所が同級生の遠野と一緒に毎日ご飯を食べる話。

青春の初期衝動

微熱の初期衝動
青春
青い春の初期症状について、書き起こしていきます。 少しでも貴方の心を動かせることを祈って。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

処理中です...