67 / 284
June
6月3日(月) 試験結果
しおりを挟む
休みの明けた今日。
先週、先々週と試験があったため、本日の授業の殆どがテスト返却とそれに際した採点ミスのチェック、問題の解説である。
そして、創作物にはありがちな点数順位の掲示もまた我が校には存在するため、お昼休みはその内容で持ち切りとなっていた。
「そういえば、翔真はまた学年一位だったな」
弁当を頬張りながら、俺は先ほど確認した掲示物を思い出す。
「九教科九百点満点中の八百七十八点とか、よーやるわ」
平均にして九十七点ちょっと。
これじゃ、頭の良い生徒が生まれたことによる嬉しさと、高い点数を取られる悔しさとで教師も板挟みだろうな。
「そらだって、理系科目なら俺と似たり寄ったりだろ? 確か、化学は満点取ってたし……」
「理系『なら』な。それに、似たようなことならかなたにも言える」
「……ぶい」
したり顔でピースを決める隣の幼馴染もまた、文系『だけ』なら翔真と張り合える。
が、どちらももう片方の分野がダメダメなのだから、あまり褒められたことは言えない。
「二人の良いところを足し合えば、完璧なんだけどな」
冗談で言われた翔真の言葉に、俺たちは耳を塞ぐかたちで拒絶体勢をとった。
「あー、止めてくれ。その台詞は聞き飽きた」
「……親に言われた台詞ナンバー、ワン」
ホント、成績を見せるたびに言われたものだ。
かなちゃんみたいに解けないのか、かなちゃんに教わってきなさい――って。
「わ、私にしてみたら、それでも二人が羨ましいけど……」
そこに横から入ってきたのは、今の今までずっと聞き役だった菊池さんである。
「羨ましいっていうのは、私たちの一部だけが突出した成績のこと?」
「うん。やっぱり、得意なことがあるのって良いことだと思うから」
そう語る菊池さんの点数はどうだっただろうか……。
確か……平均で八十点そこらだったかな?
「いや、でも俺……総合点では菊池さんに負けてるんだけど」
「……私も同じく」
果たしてそれでも良いと言えるのか、そう問いてみれば驚きの表情を向けられる。
「あ、あれ……? そうなの? 二人とも、アレだけ勉強してた、のに……?」
意外そうに見つめる、その視線が痛かった。
見ないでくれ、これでも頑張った方なんだ。勉強しなければ、一部は赤点の可能性もあったのだから。
「あーあ、物理みたいにしてくれれば、もう少しやる気が出るんだけどなぁ……」
後頭部に手を回せば、背もたれに身体を預けて俺はそう愚痴る。
「物理って……何かあったか?」
「あー……アレでしょ。満点取ったら、先生に高級アイスを奢ってもらえるやつ」
「そうそう、それ。まぁ、今回も九十八点って絶妙に取れなかったんだけどなー」
教育的にどうなのだ、と言われそうなルールではあるが生徒から好評なソレは、先生側も満点を取らせまいと難問を一つ交えてくる本気の戦いだから面白い。おかげで、俺も逃してしまったしな。
また、一部の噂では過去一度しか満点は取られたことがないらしいから恐ろしいものである。
「へぇー、そんなことやってるのか。……物理って、担当は誰だっけ?」
「学年主任で、六組の担任。あの、テニス部の顧問の」
「あー、あの先生か。まぁ、その仕様だと生徒は確かにやる気を出すかもな」
本当にそうだと思う。
やはり人間は、将来のためなどというあやふやな利点よりも、目に見えた得のために動くのだ。
「あ、あの……蔵敷、くん? う、後ろ……」
大いに納得し、満足げに思考していると菊池さんの恐る恐るとした声が届いた。
向けられた指先は俺の後ろを指し示しており――。
「あら、それは面白い話を聞きました……ねぇ、そらくん?」
「あっ……先生……。ど、どうもです」
腰に手を当て、少し前のめりに話す我が担任の笑みは、いつもながらに怖い。
「つまり、何かご褒美をあげればちゃんと点を取ってくれる――ということですよね?」
「えっと……はは、それはどうなんでしょうね……」
ヤバい、逃げ道がない。
他の三人は我関せずで目も合わせてくれないし。
「ちょっとくらい難しくしても、しっかり勉強して成績が伸びる――ということですよね?」
「む、難しくしたら伸びなくても仕方ないのでは……」
駄目だ、何を言っても無言の圧力でやられる。
もうこの人に言葉は効かない。交渉という概念が消えた。
「次回のテストが楽しみですね♪」
それだけを言い残し、意気揚々と去っていく三枝教諭。
テスト結果だけでも割とダウナーな気分だったのに、それ以上の絶望感を味わう羽目になった俺であった。
先週、先々週と試験があったため、本日の授業の殆どがテスト返却とそれに際した採点ミスのチェック、問題の解説である。
そして、創作物にはありがちな点数順位の掲示もまた我が校には存在するため、お昼休みはその内容で持ち切りとなっていた。
「そういえば、翔真はまた学年一位だったな」
弁当を頬張りながら、俺は先ほど確認した掲示物を思い出す。
「九教科九百点満点中の八百七十八点とか、よーやるわ」
平均にして九十七点ちょっと。
これじゃ、頭の良い生徒が生まれたことによる嬉しさと、高い点数を取られる悔しさとで教師も板挟みだろうな。
「そらだって、理系科目なら俺と似たり寄ったりだろ? 確か、化学は満点取ってたし……」
「理系『なら』な。それに、似たようなことならかなたにも言える」
「……ぶい」
したり顔でピースを決める隣の幼馴染もまた、文系『だけ』なら翔真と張り合える。
が、どちらももう片方の分野がダメダメなのだから、あまり褒められたことは言えない。
「二人の良いところを足し合えば、完璧なんだけどな」
冗談で言われた翔真の言葉に、俺たちは耳を塞ぐかたちで拒絶体勢をとった。
「あー、止めてくれ。その台詞は聞き飽きた」
「……親に言われた台詞ナンバー、ワン」
ホント、成績を見せるたびに言われたものだ。
かなちゃんみたいに解けないのか、かなちゃんに教わってきなさい――って。
「わ、私にしてみたら、それでも二人が羨ましいけど……」
そこに横から入ってきたのは、今の今までずっと聞き役だった菊池さんである。
「羨ましいっていうのは、私たちの一部だけが突出した成績のこと?」
「うん。やっぱり、得意なことがあるのって良いことだと思うから」
そう語る菊池さんの点数はどうだっただろうか……。
確か……平均で八十点そこらだったかな?
「いや、でも俺……総合点では菊池さんに負けてるんだけど」
「……私も同じく」
果たしてそれでも良いと言えるのか、そう問いてみれば驚きの表情を向けられる。
「あ、あれ……? そうなの? 二人とも、アレだけ勉強してた、のに……?」
意外そうに見つめる、その視線が痛かった。
見ないでくれ、これでも頑張った方なんだ。勉強しなければ、一部は赤点の可能性もあったのだから。
「あーあ、物理みたいにしてくれれば、もう少しやる気が出るんだけどなぁ……」
後頭部に手を回せば、背もたれに身体を預けて俺はそう愚痴る。
「物理って……何かあったか?」
「あー……アレでしょ。満点取ったら、先生に高級アイスを奢ってもらえるやつ」
「そうそう、それ。まぁ、今回も九十八点って絶妙に取れなかったんだけどなー」
教育的にどうなのだ、と言われそうなルールではあるが生徒から好評なソレは、先生側も満点を取らせまいと難問を一つ交えてくる本気の戦いだから面白い。おかげで、俺も逃してしまったしな。
また、一部の噂では過去一度しか満点は取られたことがないらしいから恐ろしいものである。
「へぇー、そんなことやってるのか。……物理って、担当は誰だっけ?」
「学年主任で、六組の担任。あの、テニス部の顧問の」
「あー、あの先生か。まぁ、その仕様だと生徒は確かにやる気を出すかもな」
本当にそうだと思う。
やはり人間は、将来のためなどというあやふやな利点よりも、目に見えた得のために動くのだ。
「あ、あの……蔵敷、くん? う、後ろ……」
大いに納得し、満足げに思考していると菊池さんの恐る恐るとした声が届いた。
向けられた指先は俺の後ろを指し示しており――。
「あら、それは面白い話を聞きました……ねぇ、そらくん?」
「あっ……先生……。ど、どうもです」
腰に手を当て、少し前のめりに話す我が担任の笑みは、いつもながらに怖い。
「つまり、何かご褒美をあげればちゃんと点を取ってくれる――ということですよね?」
「えっと……はは、それはどうなんでしょうね……」
ヤバい、逃げ道がない。
他の三人は我関せずで目も合わせてくれないし。
「ちょっとくらい難しくしても、しっかり勉強して成績が伸びる――ということですよね?」
「む、難しくしたら伸びなくても仕方ないのでは……」
駄目だ、何を言っても無言の圧力でやられる。
もうこの人に言葉は効かない。交渉という概念が消えた。
「次回のテストが楽しみですね♪」
それだけを言い残し、意気揚々と去っていく三枝教諭。
テスト結果だけでも割とダウナーな気分だったのに、それ以上の絶望感を味わう羽目になった俺であった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした
恋狸
青春
特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。
しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?
さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?
主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!
小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
カクヨムにて、月間3位
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/3/13:『かゆみ』の章を追加。2025/3/20の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/12:『あくむをみるへや』の章を追加。2025/3/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。
2025/3/8:『いま』の章を追加。2025/3/15の朝8時頃より公開開始予定。
2025/3/7:『しんれいしゃしん』の章を追加。2025/3/14の朝4時頃より公開開始予定。

アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

FRIENDS
緒方宗谷
青春
身体障がい者の女子高生 成瀬菜緒が、命を燃やし、一生懸命に生きて、青春を手にするまでの物語。
書籍化を目指しています。(出版申請の制度を利用して)
初版の印税は全て、障がい者を支援するNPO法人に寄付します。
スコアも廃止にならない限り最終話公開日までの分を寄付しますので、
ぜひお気に入り登録をして読んでください。
90万文字を超える長編なので、気長にお付き合いください。
よろしくお願いします。
※この物語はフィクションです。
実在の人物、団体、イベント、地域などとは一切関係ありません。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中

「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ
茉丗 薫(活動休止中)
恋愛
わたくしの愛おしい婚約者には、一つだけ欠点があるのです。
どうやら彼、『きみ』が大好きすぎるそうですの。
わたくしとのデートでも、そのことばかり話すのですわ。
美辞麗句を並べ立てて。
もしや、卵の黄身のことでして?
そう存じ上げておりましたけど……どうやら、違うようですわね。
わたくしの愛は、永遠に報われないのですわ。
それならば、いっそ――愛し合うお二人を結びつけて差し上げましょう。
そして、わたくしはどこかでひっそりと暮らそうかと存じますわ。
※作者より※
受験や高校入学の準備で忙しくなりそうなので、先に予告しておきます。
前触れなしに更新停止する場合がございます。
その場合、いずれ(おそらく四月中には)更新再開いたしますので、よろしくお願いします。
※この作品はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる