彼と彼女の365日

如月ゆう

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May

5月31日(金) リハーサル①

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 文化祭本番まで、残り一週間。
 ステージの使用許可をもらった我らがクラスは、全体の流れや立ち位置、描き割りの設置シミュレーションなどを確認すべく、講堂に来ていた。

 この講堂、本来は大学側の所有する建物であるのだが、こういった行事ごとにおいて必ず利用される、収容数二千五百人の大型施設だったりする。

 その脇でステージを覗いている感じ、今は演技の練習というよりもどこに立ち、何を配置するのかといった調整をメインでやっているところだ。

 普段の練習が中庭の空きスペースだったり、教室だったりといったおかげで、ステージ独特の雰囲気や見え方の違いに演者の殆どが四苦八苦している姿が見て取れた。

 しかし、中には安定した動きを見せる者もいる。それも二人。
 言わずもがなではあるかもしれないが、かなたと翔真だ。

 気後れすることなく、指示されたとおり完璧にこなし、一時間という決められた練習時間内で少しでも進められるように頑張っていた。

「……お前、目印もないのによく立ち位置につけるよな」

 出番が一度終了し、舞台袖へと戻ってきたタイミングで俺はかなたに声をかける。

「別にそうでもない。私たちのじゃないけど、教壇を置く目印のシールとかは貼ってあるから、『それを元に何メートル』とか考えれば大丈夫だから」

 ほぇー、思った以上に真面目に頑張っているらしい。
 珍しくもあり、少し嬉しい気もする変化だ。

「じゃあ、次は私の出る番だから……」

 日の目を浴びることのない裏方から、スポットライトの差す日向へと少女は駆けていく。

 優麗に舞い、煌びやかに謡うその姿は今まで見てきたものとは何も違う、自分の知らない幼馴染。
 普段の無表情さがかぐや姫の冷酷さを表現しており、その持ち前の容姿も相まってか本物の姫のようであった。

 当日は衣装だって着るし、化粧だって多少なりともするのだろうから、陰ながら男子から人気のあるコイツもより注目されることになるな。

 ――なんて、少しバカ親すぎる発言だったか。
 何にしても、こういう光景が見られて嬉しいと俺は素直に思う。


 ♦ ♦ ♦


 一度全体の流れを通し終え、途中に挟まれた休憩。
 滲み出る汗と僅かに荒い息を携えた彼女に、タオルと水分を差し出した。

「お疲れさん」

「ん……あんがと」

 いつもなら俺が部活でされている行動を逆に行ってあげるこの状況は、まるでかなたのマネージャーになったようで少し愉快でもある。

 お世話、という観点ではゴールデンウィークの時と何も変わっていないのだけど。

「…………なぁ、かなた。なんでそんなに頑張っているんだ?」

 ずっと疑問に思っていたことをついに聞いてみた。
 気分屋な節があるから、そういうことなのかもしれないが、今回は何となくそういう理由ではない気がする。

「…………思い出に残したいから」

 紡がれるのは、彼女の本音。

「去年はやっぱり、そういう感じじゃなかったけどさ……詩音と畔上くんと出会って、色んなことを経験して、少しは過去に踏ん切りがついてきたでしょ? なら、今年こそは思い出に変えられる。私が頑張って、それをそらが見て記憶に残してくれたら、二人の思い出になる」

「なんだそれは……普通は、一緒に何かをやることで思い出を作るもんだろ」

 予想の斜め上すぎる方法に俺は笑った。

「じゃあ、そらも出る? 台詞覚えてるんだし、帝役でいけるよ」

「いや、遠慮しとく。翔真の代わりなんて務まりそうにないし、そもそもそういうキャラじゃないしな」

 でも、それだけだ。何もしない。
 せいぜいが、その気持ちを受け取ってあげるくらいである。

 遠くからは実行委員の再開する旨の声が聞こえ、かなたは立ち上がった。
 タオルと水分、その二つを受け取ると同時にこう告げられる。

「……だったら、しっかりと見守っていてね。私の――私たちの雄姿を、それこそ覚えるほどに」

「あぁ、頑張ってこい」

 背中を叩き、押し出し、激励する。

 光を浴びる幼馴染の姿は、様々な意味で輝いていた。
 それは未だに陰に慣れている俺には眩しいもので、届かないもので……でも、そんなに悪い気分ではない。

 ――祭りの足音は近づいている。
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