41 / 284
May
5月10日(金) 方言
しおりを挟む
「博多弁って、方言の中ではかなり人気らしいな」
お昼休み。別名、ごはん休憩。
いくつかのグループが形成され、各々が机を囲んでお箸を進める時間帯。
いつものように、そら・私・詩音・畔上くんを交えた四人で口をモグモグと動かしていれば、これまたいつものように何気なく話題が振られる。
「へぇ、でも博多弁って言われても、他の方言と比べてあんまり特徴ない気が……」
「だ、だよね。ポロッと出ることはあっても、基本的には標準語で話す方が多いと思う」
反応する二人をよそに、私はモシャモシャと購買で買った菓子パンを摘んでいた。
お母さんが寝坊したためにこんな昼食であるのだが、少しはおかずが欲しくなってくる。
特に、そらのお弁当に光っているその唐揚げなんか……。
「そうだよな、皆が思うほど福岡県民って方言は使わないんだよ。でもまぁ、そんな中でも一般的に知られてるのは『〇〇とーと』とかか?」
「あぁ、『今何しとると?』『テレビ見とーと』みたいなやつか」
「『とっとーと? とっとーと』ってCMもあるしな」
「如水庵のやつだな」
話題に花が咲き始める中、欲求は心の中でドンドンと大きくなっていく。
ヤバい……本当に食べたくなってきた。
「……『〇〇たい』っていうのも言う気がする、と思う」
「確かに、それも多いね。俺たちはあまり使わないけど、年配の人に多いかな。『今、忙しいったい』みたいに」
「そらー、お弁当分けて」
「……だな。まぁでも、語尾関連は大阪なんかと比べると弱いけど」
おー、サンクス。
私の視線を読んだのか、欲していた唐揚げをお箸でつまんで口へと運んでくれる。
んー……うまうま。
お礼に私の菓子パンをあげてやろう。
「弱いっていうか、割とどこでも通じるような言葉だからな」
「逆に、福岡だけでしか通じない方言ってあるかな……?」
「うーん」と考え込む三人。
その内の一人は、私が差し出した一欠片のパンを咀嚼していた。
「…………。……アレだな。有名なのは『おっとっと取っとって言っとったのに、何で取っとってくれんかったと?』ってやつ」
「あー、それな。確かに色んなところでネタになってる。――なら、『直す』もそうだよな」
「こっちでは『仕舞う』って意味でよく使うよね」
「…………ねぇ、そら。もういっこ」
袖を引っ張り、さらにお願いしてみれば、今度は玉子焼き。
……うむ、これもフワフワで美味しい。
「てか、かなた。お前もかたれよ。文系得意なんだし、寝ぼけた時は博多弁使ってるんだから分かるだろ?」
「えぇー……」
面倒だなぁ。
……ていうか、寝ぼけた時って何? 私、そんな覚えないんだけど。
「おかず」
ぐっ…………。
そのために、お返しとしてパンをあげてたのだが、それじゃダメだったか。
「……そらがさっき使ってた『かたる・かたらせる』。それがそもそも方言」
標準語で言うところの『仲間に入る・仲間に入れる』という意味だ。
それを三人に伝えてあげると、皆一様に驚きの声を上げた。
「は? マジ……?」
「へぇー、初めて知った」
「かなちゃん、他にはどんなのがあるの?」
意外と皆知らないんだな。
というのが、私の感想である。
特に成績トップの畔上くんや、読書好きのそらなんかは知っててもいい内容だと思うのだが……。
「ほか? 他は……『くらす』、『からう』、あと『パゲる』とかもそうだったはず」
ちなみに、それぞれが『殴る』、『背負う』、『壊れる』である。
「パゲる、は今でも使うな」
「くらす、も昔は親からよく言われたよ。特に怒られている時なんかは」
「ランドセルをからった子供、みたいに皆使ってるけどアレって方言だったんだね」
そして、これもまた同様に驚かれる。
まぁでも、特に『からう』なんかは方言っぽさのない字面だし、標準語だと思うのも無理はないかもしれない。
「けど、博多弁って言われるものの殆どは九州全域で使われていることが多いから、もう九州弁って名乗った方が良いかもだけど……」
だから、話の趣旨である『福岡でしか通じない方言』というものは存外ないのだ。
他にも、『ぶすくれる』なんて言葉もあるけど、それもまたどこかで同じように使われているのだろう、と思う。
「なるほどな。そう考えると、博多弁が珍しくないっていう俺たちの認識にも納得がいくな」
「ど、どういうこと……? 翔真くん、分かる?」
「福岡の言葉が九州の大部分に伝わっているのなら、それが全国的に広がっていると解釈しても仕方ない――ってことだろ?」
畔上くんがそう注釈を付けてあげると、そらはしたり顔で頷く。
「そういうこと」
ともすれば、いつの間にか時間は経っていたようでチャイムが鳴り響いた。
「お前らぁ、要らんもんはなおして早く授業の準備をしろ」
そんな低い声とともに入ってきたのは、少し強面な保健の先生。
だけれど、先程の話をしていた手前、私たちの意識は使われた方言の方へと向いてしまう。
思いのほかありふれた言葉であったという事実を感じ、互いに顔を見合わせ、ほくそ笑むのであった。
お昼休み。別名、ごはん休憩。
いくつかのグループが形成され、各々が机を囲んでお箸を進める時間帯。
いつものように、そら・私・詩音・畔上くんを交えた四人で口をモグモグと動かしていれば、これまたいつものように何気なく話題が振られる。
「へぇ、でも博多弁って言われても、他の方言と比べてあんまり特徴ない気が……」
「だ、だよね。ポロッと出ることはあっても、基本的には標準語で話す方が多いと思う」
反応する二人をよそに、私はモシャモシャと購買で買った菓子パンを摘んでいた。
お母さんが寝坊したためにこんな昼食であるのだが、少しはおかずが欲しくなってくる。
特に、そらのお弁当に光っているその唐揚げなんか……。
「そうだよな、皆が思うほど福岡県民って方言は使わないんだよ。でもまぁ、そんな中でも一般的に知られてるのは『〇〇とーと』とかか?」
「あぁ、『今何しとると?』『テレビ見とーと』みたいなやつか」
「『とっとーと? とっとーと』ってCMもあるしな」
「如水庵のやつだな」
話題に花が咲き始める中、欲求は心の中でドンドンと大きくなっていく。
ヤバい……本当に食べたくなってきた。
「……『〇〇たい』っていうのも言う気がする、と思う」
「確かに、それも多いね。俺たちはあまり使わないけど、年配の人に多いかな。『今、忙しいったい』みたいに」
「そらー、お弁当分けて」
「……だな。まぁでも、語尾関連は大阪なんかと比べると弱いけど」
おー、サンクス。
私の視線を読んだのか、欲していた唐揚げをお箸でつまんで口へと運んでくれる。
んー……うまうま。
お礼に私の菓子パンをあげてやろう。
「弱いっていうか、割とどこでも通じるような言葉だからな」
「逆に、福岡だけでしか通じない方言ってあるかな……?」
「うーん」と考え込む三人。
その内の一人は、私が差し出した一欠片のパンを咀嚼していた。
「…………。……アレだな。有名なのは『おっとっと取っとって言っとったのに、何で取っとってくれんかったと?』ってやつ」
「あー、それな。確かに色んなところでネタになってる。――なら、『直す』もそうだよな」
「こっちでは『仕舞う』って意味でよく使うよね」
「…………ねぇ、そら。もういっこ」
袖を引っ張り、さらにお願いしてみれば、今度は玉子焼き。
……うむ、これもフワフワで美味しい。
「てか、かなた。お前もかたれよ。文系得意なんだし、寝ぼけた時は博多弁使ってるんだから分かるだろ?」
「えぇー……」
面倒だなぁ。
……ていうか、寝ぼけた時って何? 私、そんな覚えないんだけど。
「おかず」
ぐっ…………。
そのために、お返しとしてパンをあげてたのだが、それじゃダメだったか。
「……そらがさっき使ってた『かたる・かたらせる』。それがそもそも方言」
標準語で言うところの『仲間に入る・仲間に入れる』という意味だ。
それを三人に伝えてあげると、皆一様に驚きの声を上げた。
「は? マジ……?」
「へぇー、初めて知った」
「かなちゃん、他にはどんなのがあるの?」
意外と皆知らないんだな。
というのが、私の感想である。
特に成績トップの畔上くんや、読書好きのそらなんかは知っててもいい内容だと思うのだが……。
「ほか? 他は……『くらす』、『からう』、あと『パゲる』とかもそうだったはず」
ちなみに、それぞれが『殴る』、『背負う』、『壊れる』である。
「パゲる、は今でも使うな」
「くらす、も昔は親からよく言われたよ。特に怒られている時なんかは」
「ランドセルをからった子供、みたいに皆使ってるけどアレって方言だったんだね」
そして、これもまた同様に驚かれる。
まぁでも、特に『からう』なんかは方言っぽさのない字面だし、標準語だと思うのも無理はないかもしれない。
「けど、博多弁って言われるものの殆どは九州全域で使われていることが多いから、もう九州弁って名乗った方が良いかもだけど……」
だから、話の趣旨である『福岡でしか通じない方言』というものは存外ないのだ。
他にも、『ぶすくれる』なんて言葉もあるけど、それもまたどこかで同じように使われているのだろう、と思う。
「なるほどな。そう考えると、博多弁が珍しくないっていう俺たちの認識にも納得がいくな」
「ど、どういうこと……? 翔真くん、分かる?」
「福岡の言葉が九州の大部分に伝わっているのなら、それが全国的に広がっていると解釈しても仕方ない――ってことだろ?」
畔上くんがそう注釈を付けてあげると、そらはしたり顔で頷く。
「そういうこと」
ともすれば、いつの間にか時間は経っていたようでチャイムが鳴り響いた。
「お前らぁ、要らんもんはなおして早く授業の準備をしろ」
そんな低い声とともに入ってきたのは、少し強面な保健の先生。
だけれど、先程の話をしていた手前、私たちの意識は使われた方言の方へと向いてしまう。
思いのほかありふれた言葉であったという事実を感じ、互いに顔を見合わせ、ほくそ笑むのであった。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
うわべに潜む零影
クスノキ茶
青春
資産家の御曹司でもある星見恭也は毎日が虚ろに感じていた
とある日、転校生朝倉陽菜と出会う。そして、そこから彼の運命は予測不可能な潮流の渦に
巻き込まれていく事に成る。
【完結】見えない音符を追いかけて
蒼村 咲
青春
☆・*:.。.ストーリー紹介.。.:*・゚☆
まだまだ暑さの残るなか始まった二学期。
始業式の最中、一大イベントの「合唱祭」が突然中止を言い渡される。
なぜ? どうして?
校内の有志で結成される合唱祭実行委員会のメンバーは緊急ミーティングを開くのだが──…。
☆・*:.。.登場人物一覧.。.:*・゚☆
【合唱祭実行委員会】
・木崎 彩音(きざき あやね)
三年二組。合唱祭実行委員。この物語の主人公。
・新垣 優也(にいがき ゆうや)
三年一組。合唱祭実行委員会・委員長。頭の回転が速く、冷静沈着。
・乾 暁良(いぬい あきら)
三年二組。合唱祭実行委員会・副委員長。彩音と同じ中学出身。
・山名 香苗(やまな かなえ)
三年六組。合唱祭実行委員。輝の現クラスメイト。
・牧村 輝(まきむら ひかり)
三年六組。合唱祭実行委員。彩音とは中学からの友達。
・高野 真紀(たかの まき)
二年七組。合唱祭実行委員。美術部に所属している。
・塚本 翔(つかもと しょう)
二年二組。合唱祭実行委員。彩音が最初に親しくなった後輩。
・中村 幸貴(なかむら こうき)
二年一組。合唱祭実行委員。マイペースだが学年有数の優等生。
・湯浅 眞彦(ゆあさ まさひこ)
二年八組。合唱祭実行委員。放送部に所属している。
【生徒会執行部】
・桐山 秀平(きりやま しゅうへい)
三年一組。生徒会長。恐ろしい記憶力を誇る秀才。
・庄司 幸宏(しょうじ ゆきひろ)
三年二組。生徒会副会長。
・河野 明美(こうの あけみ)
三年四組。生徒会副会長。
【その他の生徒】
・宮下 幸穂(みやした ゆきほ)
三年二組。彩音のクラスメイト。吹奏楽部で部長を務めていた美人。
・佐藤 梨花(さとう りか)
三年二組。彩音のクラスメイト。
・田中 明俊(たなか あきとし)
二年四組。放送部の部員。
【教師】
・篠田 直保(しのだ なおやす)
教務課の主任。担当科目は数学。
・本田 耕二(ほんだ こうじ)
彩音のクラスの担任。担当科目は歴史。
・道里 晃子(みちさと あきこ)
音楽科の教員。今年度は産休で不在。
・芦田 英明(あしだ ひであき)
音楽科の教員。吹奏楽部の顧問でもある。
・山本 友里(やまもと ゆり)
国語科の教員。よく図書室で司書の手伝いをしている。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる