彼と彼女の365日

如月ゆう

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May

5月3日(金) 近況報告 by 詩音

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「暇だね……」

「あぁ、暇だ」

 ゴールデンウィークも後半戦。
 本格的にやることのなくなった俺たちは、二人してだらけていた。

 付けっぱなしにしているテレビは、未だに新年号と天皇即位の話題で持ちきりであり、司会者MCは専門家を交えてさも賢しげに語り合う。

 一人ならば自室で部屋にこもってゲームなりをするのだけど、こうして連れがいて、お泊まりをしている状況ともなれば放っておくわけにはいかない。

 しかし、何かないものか……。

「……あっ、詩音からメッセージ届いた」

 無機質な通知音がしたかと思えば、スマホを手に取ったかなたはそう呟く。

 スマホ、スマホ……何か面白いスマホゲームでもあったっけなぁ。
 ツイツイと画面をスクロールして、アプリストアからオススメに上げられたゲームを見て回る。が、ピンとくるものはない。

 あぁ……暇だ。
 今だったら、この部屋の電灯を見ているだけでも多少の時間は潰せるかもな。

「ねぇねぇ、そら。これ見て、これ見て」

「なんだ?」

 顔を起こせば、猫のように四つ足でにじり寄ってきたかなたが、自分のスマホを俺の顔に掲げて見せてくる。

「首里城だって」

 そこに映っていたのは、一枚の画像ファイルとメッセージ。

 『首里城ー♪』と一言添えられたその上には、涼し気なワンピースと一緒に麦わら帽子を被った菊池さんが、真っ赤な建物の前に立っていた。

「そういや、沖縄に行くって言ってたな」

「うん。今日は休憩日らしく、ホテルでのんびりだって。だから私に写真を送ってきたみたい」

 まぁ、十日間も旅行なんだ。
 毎日遊んでたら、体力が持たないわな。

 そんなことを考えていたら、再びの通知音。
 今度は連投らしく、アプリの通知数がみるみるうちに増えていく。

『美ら海水族館!』

 そう綴られたメッセージとともに届いたのは数枚の画像だ。

 出入口に彩られたモニュメントを皮切りに、マンタやジンベイザメといった大型海洋生物の数々、珊瑚の艶やかな水槽を上から撮った構図など、どれも凄い見応えがあった。

「すげぇな、これ。特に珊瑚のやつ。マジで海の写真みたい」

「だねー。『どれも綺麗! 珊瑚の水槽なんて、本物の海みたいだね!』――っと」

 俺の発言も混じえつつ、かなたは返信をする。
 二人して並んで画面を見つめ、更なる報告を待っていれば、次の通知が響いた。

『ご飯も美味しかったよー!』

 そこに並ぶのはビュッフェによる料理の数々。
 ホテルに泊まったのであろう内装の先には、和洋中どれもが備えられており高級感を感じる。

「って、沖縄関係ねぇ!」
「って、沖縄関係ないじゃん!」

 現実でのツッコミと一緒に同様の旨をメッセージで送れば、小粋なスタンプとともにまた別の画像が。

 それはラフテーやソーキそばといった沖縄の郷土料理。
 おやつなのかサーターアンダギーを頬張っているものもあり、そのどれもが外で撮られているようだ。

『なーんて。夜はホテル食だけど、お昼は色々と食べに行ったんだ!』

『…………みたいだね』

 返ってきた答えに、呆れ顔の我々。
 なんともまぁ、お茶目なことで……。

 俺では一生目の当たりにできないような菊池さんのテンションに、ここで一緒に見ていていいのか疑問になってくる。

「なぁ、これって俺は見ない方が――」

 そう気を使うのも束の間、言葉を遮るように無慈悲にも通知音は鳴った。

『そして、最後が海ー! ちょっと肌寒かったけど、入れたんだ! 綺麗だよね』

 白い浜。透き通った碧色の海。
 その中で笑顔を向けてピースを贈っているのは、水着の上からパーカーを羽織った菊池さんの姿だ。

 とは言え、前のジッパーは開けられ、更には風で靡いているために、その下に着込まれたフレアビキニまでバッチリ見えている。

「へぇー、詩音の水着可愛い。見て見て――ね?」

「ん? あ、あぁ……似合ってるな」

 果たして俺が見てよかったのか。俺に見せてもよかったのか。
 もっと相応しい人物がいるのでは、という疑惑に満ちながらも眼前まで寄せられた画像に一応の感想をつけた。

「だよね」

『海もだけど、詩音もいい感じだね。私とそらのお墨付き』

『えっ、蔵敷くんも見てるの!?』

 本人の声が聞こえてくるかのようなリアルな焦りの文言に、かなたは笑顔でピースサインを向けるキャラクタースタンプを用いて肯定感を表す。

 ともすれば――。

「えっ、電話……?」

 昨今では利用されるのも珍しい、スマホ本来の機能。

「……もしもし、詩音? うん…………うん、はい。ごめんなさい」

 怒られてらー。
 段々と敬語に、そして最後には謝罪の言葉を告げている幼馴染の様子を確認しつつ、バツの悪かった俺は麦茶を飲みにキッチンへと移動した。

 小さなコップを半杯――それだけ飲めば喉も潤い、丸々一杯注いだにもかかわらず残りはそのまま台の上に置く。

 暇だと言っていた時分からはだいぶ経っていたようで、流していたテレビは同じニュース内容を報道しているものの番組名は異なっていた。

「――――うん。うん、分かった。また学校でね」

 電話を切るその声音は柔らかい。
 コトリとテーブルにスマホが置かれたことを確認すると、声を掛ける。

「…………どうだった?」

「んにゃ、別に。謝ったら許してくれた」

 ま、だろうな。
 途中から相槌の声質が変わってたし。

 女子ってそういう所は肝が強くて、器が大きいと思う。

 そんなことを考えていれば、寄ってきたかなたは俺の飲みかけのコップを煽って一言。

「私たちも行きたいね、水族館」

「…………いつかな」

 そう語る幼馴染の顔が、俺には眩しかった。
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