27 / 284
April
4月26日(金) 連休の計画
しおりを挟む
束の間の休息。賑わう喧騒。
教育棟一階にある売店横の自販機で買った紙パックのココアを口から離した私は、こう問いかける。
「皆さ、ゴールデンウィークの予定はあるの?」
内容はもちろん、明日から控える連休のこと。
平日末ということもあり、朝から頭の中はこの事でいっぱいだった。
「うん、私は家族全員で沖縄に行くんだ。海……はちょっと早いけど入ることができるみたいだし、食べ物もあって楽しみ!」
始めに答えてくれたのは詩音だ。
「ソーキそば、ラフテー、チャンプルー」と口ずさむ姿は、なんとも愛らしい。
「沖縄いいね。首里城や美ら海水族館、離島なんかの観光スポットもあるし」
そこで畔上くんが会話に参加してくると、彼女もまた同じ話題を振る。
「翔真くんはどう、なの……?」
すると、少しバツの悪そうに頬を掻き始めた。
「俺も似たようなもんなんだけど、一応ハワイに」
女子一同、「ひゃー」と驚愕。
まぁ、一同と言っても二人しかいないけど。
「沖縄は時期的に海は早いって言ってたけど、ハワイはどうなん?」
沖縄、ハワイ、どちらもマリンスポーツが有名だ。
となれば、是非とも気になるところ。
「シーズン真っ盛りらしいよ。ダイビングにサーフィンと、俺も楽しみだよ」
おぉう……サーフィンと申すか。
本当になんでもできる人だな、この人は。
それにしても、二人とも旅行なんだ。
十連休っていう大型休日だし、それが当たり前なのかね?
「……で、そらは?」
我関せず、一人本を捲っていた隣の幼馴染の肩に頭をぶつけながら尋ねる。
コイツのことだし、どうせ聞いてはいるだろうけど。
「特にはない」
おー、同士よ。
完結かつ共感を呼ぶ返答に、心中で喜びを謳った。
「……けど、母さんは町内の旅行に行くらしい」
「へぇー、そうなんだ」
そういえば、そんな話もあったっけ。
ウチのお母さんは私とお父さんだけを残して家を空けるのが嫌だからって断ってたけど、そらママは行くんだな。
やっぱりコレが娘を持つ親と息子を持つ親の違いなのか……?
「最後はかなちゃんだね。どうなの? なにか予定はある?」
そのまま当然私にも同様の話が回ってくるが、答えはつまらないもので話す前から苦笑いが生まれてくる。
「いーや、私もなし」
お手上げ。降参。
そんな意味を込めて両手を高く上げると、そのまま軽く背中を伸ばした。
同時に、机に置いていた紙パックにも手を伸ばすが、持ち上げた感覚は軽い。
少し吸うだけで、ズズズッとストロー飲料独特の音が響く。
「そっか……。お土産は買ってくるから、楽しみにしててね!」
「もちろん、俺もな」
二人がそう励まし……のような声を掛けてくれるとチャイムが鳴り始めた。
「任せたよ、親友」
「任せた、親友」
被る声。
手の平をグッパーしながら隣を見やると、同様の動作をするそらの姿がある。
生暖かい目で見てくる二人の視線が、少し気恥ずかしかった。
♦ ♦ ♦
「ただいまー……何してんの?」
家に帰ると、リビングではトランクケースに荷物を詰めるお母さんの姿があった。
入れているのは主に着替えやメイク道具など様々。
……旅行にでも行くの?
「あっ、かなた。実はね、ゴールデンウィーク中にお父さんの休みが取れることになったの。だから、せっかくだし家族で旅行に行きましょ?」
「えっ…………?」
なにその急展開。
いきなりすぎて付いていけない。
「行先は?」
「今、お父さんが調べてくれているわ……会社で」
しかも、行き当たりばったり。
あと、お父さんはぜひ仕事をして。
「――と思ったら、お父さんから連絡。……『ペアならいくつかあるけど、三人は厳しい』か、やっぱりそうなるわよねー」
スマホを片手に一人呟く我が母。
しかし、そこに天命が降りる。
「お母さん、あのさ……」
「なにー?」
「私、ゴールデンウィークの間は友達と遊ぶ予定立てちゃったし、たまには二人で旅行に行くのも良いんじゃない?」
そう話をすると、キョトンと瞬きをしながらこちらを見つめてきた。
「それって、かなただけを家に残すってこと?」
「まぁ…………そうなる、かな」
途端に変わる露骨に嫌そうな顔。
当たり前か。お父さんを残すから、という理由で一度旅行を止めたくらいなんだから。
「それなら、行かない方が良くないかしら?」
「でもさ、せっかくお父さんが休みになったのにずっと家で……ってのも可哀想じゃない?」
「だったら、日帰りでどこか行くことも……」
ぐぅ、手強い。
「……いやほら、ほぼ毎日予定組んじゃったから」
少し苦しいが、追い打ちをかけて手数で攻めよう。
「それに、私もそろそろ自立し始めた方が良いと思うの。料理とか、ね? ね?」
「そうねー……それは確かに」
よし、手応えあり。
なんか後から苦しくなりそうだけど、取り敢えずは前進だ。
「家のことは私がやるからさ、家事も仕事も忘れて二人水入らずで楽しんできてよ」
「…………………………………………」
……どうだ?
「…………分かったわ。その好意、ありがたく受け取る」
やった……!
「――けど、何かあったらすぐに連絡するのよ?」
「はーい」
小気味よい返事をした私に満足すると、お母さんは再びスマホを触り始める。
おそらく、お父さんに連絡を入れているのだろう。
リビングを出た私も、同じくスマホを取り出した。
考えていた計画を実行すべく、とある人物と話をするために……。
教育棟一階にある売店横の自販機で買った紙パックのココアを口から離した私は、こう問いかける。
「皆さ、ゴールデンウィークの予定はあるの?」
内容はもちろん、明日から控える連休のこと。
平日末ということもあり、朝から頭の中はこの事でいっぱいだった。
「うん、私は家族全員で沖縄に行くんだ。海……はちょっと早いけど入ることができるみたいだし、食べ物もあって楽しみ!」
始めに答えてくれたのは詩音だ。
「ソーキそば、ラフテー、チャンプルー」と口ずさむ姿は、なんとも愛らしい。
「沖縄いいね。首里城や美ら海水族館、離島なんかの観光スポットもあるし」
そこで畔上くんが会話に参加してくると、彼女もまた同じ話題を振る。
「翔真くんはどう、なの……?」
すると、少しバツの悪そうに頬を掻き始めた。
「俺も似たようなもんなんだけど、一応ハワイに」
女子一同、「ひゃー」と驚愕。
まぁ、一同と言っても二人しかいないけど。
「沖縄は時期的に海は早いって言ってたけど、ハワイはどうなん?」
沖縄、ハワイ、どちらもマリンスポーツが有名だ。
となれば、是非とも気になるところ。
「シーズン真っ盛りらしいよ。ダイビングにサーフィンと、俺も楽しみだよ」
おぉう……サーフィンと申すか。
本当になんでもできる人だな、この人は。
それにしても、二人とも旅行なんだ。
十連休っていう大型休日だし、それが当たり前なのかね?
「……で、そらは?」
我関せず、一人本を捲っていた隣の幼馴染の肩に頭をぶつけながら尋ねる。
コイツのことだし、どうせ聞いてはいるだろうけど。
「特にはない」
おー、同士よ。
完結かつ共感を呼ぶ返答に、心中で喜びを謳った。
「……けど、母さんは町内の旅行に行くらしい」
「へぇー、そうなんだ」
そういえば、そんな話もあったっけ。
ウチのお母さんは私とお父さんだけを残して家を空けるのが嫌だからって断ってたけど、そらママは行くんだな。
やっぱりコレが娘を持つ親と息子を持つ親の違いなのか……?
「最後はかなちゃんだね。どうなの? なにか予定はある?」
そのまま当然私にも同様の話が回ってくるが、答えはつまらないもので話す前から苦笑いが生まれてくる。
「いーや、私もなし」
お手上げ。降参。
そんな意味を込めて両手を高く上げると、そのまま軽く背中を伸ばした。
同時に、机に置いていた紙パックにも手を伸ばすが、持ち上げた感覚は軽い。
少し吸うだけで、ズズズッとストロー飲料独特の音が響く。
「そっか……。お土産は買ってくるから、楽しみにしててね!」
「もちろん、俺もな」
二人がそう励まし……のような声を掛けてくれるとチャイムが鳴り始めた。
「任せたよ、親友」
「任せた、親友」
被る声。
手の平をグッパーしながら隣を見やると、同様の動作をするそらの姿がある。
生暖かい目で見てくる二人の視線が、少し気恥ずかしかった。
♦ ♦ ♦
「ただいまー……何してんの?」
家に帰ると、リビングではトランクケースに荷物を詰めるお母さんの姿があった。
入れているのは主に着替えやメイク道具など様々。
……旅行にでも行くの?
「あっ、かなた。実はね、ゴールデンウィーク中にお父さんの休みが取れることになったの。だから、せっかくだし家族で旅行に行きましょ?」
「えっ…………?」
なにその急展開。
いきなりすぎて付いていけない。
「行先は?」
「今、お父さんが調べてくれているわ……会社で」
しかも、行き当たりばったり。
あと、お父さんはぜひ仕事をして。
「――と思ったら、お父さんから連絡。……『ペアならいくつかあるけど、三人は厳しい』か、やっぱりそうなるわよねー」
スマホを片手に一人呟く我が母。
しかし、そこに天命が降りる。
「お母さん、あのさ……」
「なにー?」
「私、ゴールデンウィークの間は友達と遊ぶ予定立てちゃったし、たまには二人で旅行に行くのも良いんじゃない?」
そう話をすると、キョトンと瞬きをしながらこちらを見つめてきた。
「それって、かなただけを家に残すってこと?」
「まぁ…………そうなる、かな」
途端に変わる露骨に嫌そうな顔。
当たり前か。お父さんを残すから、という理由で一度旅行を止めたくらいなんだから。
「それなら、行かない方が良くないかしら?」
「でもさ、せっかくお父さんが休みになったのにずっと家で……ってのも可哀想じゃない?」
「だったら、日帰りでどこか行くことも……」
ぐぅ、手強い。
「……いやほら、ほぼ毎日予定組んじゃったから」
少し苦しいが、追い打ちをかけて手数で攻めよう。
「それに、私もそろそろ自立し始めた方が良いと思うの。料理とか、ね? ね?」
「そうねー……それは確かに」
よし、手応えあり。
なんか後から苦しくなりそうだけど、取り敢えずは前進だ。
「家のことは私がやるからさ、家事も仕事も忘れて二人水入らずで楽しんできてよ」
「…………………………………………」
……どうだ?
「…………分かったわ。その好意、ありがたく受け取る」
やった……!
「――けど、何かあったらすぐに連絡するのよ?」
「はーい」
小気味よい返事をした私に満足すると、お母さんは再びスマホを触り始める。
おそらく、お父さんに連絡を入れているのだろう。
リビングを出た私も、同じくスマホを取り出した。
考えていた計画を実行すべく、とある人物と話をするために……。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

おれは農家の跡取りだ! 〜一度は捨てた夢だけど、新しい仲間とつかんでみせる〜
藍条森也
青春
藤岡耕一はしがない稲作農家の息子。代々伝えられてきた田んぼを継ぐつもりの耕一だったが、日本農業全体の衰退を理由に親に反対される。農業を継ぐことを諦めた耕一は『勝ち組人生』を送るべく、県下きっての進学校、若竹学園に入学。しかし、そこで校内ナンバー1珍獣の異名をもつSEED部部長・森崎陽芽と出会ったことで人生は一変する。
森崎陽芽は『世界中の貧しい人々に冨と希望を与える』ため、SEEDシステム――食料・エネルギー・イベント同時作を考案していた。農地に太陽電池を設置することで食料とエネルギーを同時に生産し、収入を増加させる。太陽電池のコストの高さを解消するために定期的にイベントを開催、入場料で設置代を賄うことで安価に提供できるようにするというシステムだった。その実証試験のために稲作農家である耕一の協力を求めたのだ。
必要な設備を購入するだけの資金がないことを理由に最初は断った耕一だが、SEEDシステムの発案者である雪森弥生の説得を受け、親に相談。親の答えはまさかの『やってみろ』。
その言葉に実家の危機――このまま何もせずにいれば破産するしかない――を知った耕一は起死回生のゴールを決めるべく、SEEDシステムの実証に邁進することになる。目指すはSEEDシステムを活用した夏祭り。実際に稼いでみせることでSEEDシステムの有用性を実証するのだ!
真性オタク男の金子雄二をイベント担当として新部員に迎えたところ、『男は邪魔だ!』との理由で耕一はメイドさんとして接客係を担当する羽目に。実家の危機を救うべく決死の覚悟で挑む耕一だが、そうたやすく男の娘になれるはずもなく悪戦苦闘。劇団の娘鈴沢鈴果を講師役として迎えることでどうにか様になっていく。
人手不足から夏祭りの準備は難航し、開催も危ぶまれる。そのとき、耕一たちの必死の姿に心を動かされた地元の仲間や同級生たちが駆けつける。みんなの協力の下、夏祭りは無事、開催される。祭りは大盛況のうちに終り、耕一は晴れて田んぼの跡継ぎとして認められる。
――SEEDシステムがおれの人生を救ってくれた。
そのことを実感する耕一。だったら、
――おれと同じように希望を失っている世界中の人たちだって救えるはずだ!
その思いを胸に耕一は『世界を救う』夢を見るのだった。
※『ノベリズム』から移転(旧題·SEED部が世界を救う!(by 森崎陽芽) 馬鹿なことをと思っていたけどやれる気になってきた(by 藤岡耕一))。
毎日更新。7月中に完結。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
不動の焔
桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。
「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。
しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。
今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。
過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。
高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。
千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。
本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない
──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる