彼と彼女の365日

如月ゆう

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April

4月19日(金) ファッション談義……?

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 振替休日を終えた次の日。
 授業を全てこなし、いつも通りに部活へと赴いていた俺と翔真はアップとしてシャトルを打ち合いながら、適当な雑談に花を咲かせていた。

「なぁ、翔真。お前、好きな女の子のファッションとかある?」

「……は? なんだよ、急に」

 ポンポンと小気味よく続いていたラリー音が多少不規則に変わる。

「あー……逆にこういうのが嫌い、とかでもいいぞ」

「いや、だから――何でだ、よ!」

 唐突に打たれるスマッシュ。
 だけど、予備動作はあったしコースさえ見極められれば拾うのは簡単だ。

「……おい、急に打つなよ。ビビるだろ」

「そうそれ、その気持ちを今の会話で俺も味わった。てか、平然と返しててそのセリフはないだろ……しかもヘアピンで」

 逆だっつーの、ラリーが目的なのにネット際に落としてどうするんだよ。

「それで? なんでそんなこと聞いた?」

 コロンと転がるシャトルを拾い、改めてサーブから始めると同時に質問も投げられた。

「いや……昨日、かなたが菊池さんと買い物に行ったらしくてな。そこで、『男子の言う”可愛い”と女子の言う”可愛い”の基準が違う』って話を聞かされたから、何となく…………」

「ふーん、なるほどな……」

 それからはしばらくクリア――相手コート奥に飛ばすショットの応酬。
 疲れない程度に左右に振ったりと、無言のまま身体を動かす。

 多分翔真は答えを考えているんだろうし、俺としては適当な雑談なのだから別に聞けなくても構わないのだけど……約一名、その返事を待って作業が進んでいない人がいるので、早く答えてあげて欲しい。

 ですよね? マネージャーの香織先輩。
 手に持った筆記用具が全く動いていませんよ。

「…………別に何でもいいかな」

 そうして、待たせた答えがコレだ。
 流石の俺もイラッとして、一発だけ厳しめのコースへと打ち抜いておく。

 さすがにレギュラーメンバーだけあって、俺なんかの球は拾えるみたいだけどな。

「なんだよ、その答え。小学校の”みんなが一番”理論かよ」

 心なしか、香織先輩の筆記ペースにも力が見られない。
 ていうかそれ、俺たちのデータとは関係のない情報ではないですか?

「いや、じゃなくてさ。やっぱり、女性って自分の好きな格好をしている時が一番輝いていると思うんだよ。だから、別に俺の好みとかどうでも良くて、好きに着飾っていて欲しいかなって」

「…………はぁ、お前さ――」

 その言葉を聞いた俺は、わざと天井スレスレの山なりショットを打つ。
 関係ない話だけど、バドミントンあるあるとしてラリーの時って相手の巫山戯たショットを真似して打つよね。

 それを狙っての行為は見事に功を奏し、翔真も山なりを打ち返してきた。

 落ちてくるシャトルをしっかりと見据え、構える。
 タイミングを合わせてその場でジャンプをし、思いっきりスマッシュをかましてやった。

「――発言もカッコよすぎなんだよ!」

 何となく生まれた怒りのままにラケットを振り抜けば、打ったシャトルは僅かに高さが足りずネット上部に当たって自陣に落ちてしまった。

 …………何だこれ、ままならん。

 お互いに何も言わない。
 一部始終を見ていた香織先輩は何やらノートで口元を抑えて体を震わせているけど……知ったものか。

 仕方なく拾うと、俺からのサーブでまた再開する。

「そういうそらは、あるのかよ? 好き、または嫌いな女の子のファッション」

 そりゃ、あるに決まっている。
 こっちだって善良な男子高校生なんだからな。

「スカートはあんまり好きじゃないな。ホットパンツで健康な白い素肌を見せたり、逆に黒タイツでセクシーな感じなのが良い」

「ふーん。スカートはロングでもミニでもダメってことか?」

「ミニはない。ロングは……辛うじて許せるレベル」

「…………なるほどな」

 一連の会話を聞き、翔真は何かに気付いたように愉快そうな笑みを浮かべる。
 その表情が何となく気に食わない。

「そら。お前、意外と嫉妬深いというか……そういうの周りに見せたくないタイプなんだな」

「そりゃ、嫌だろ。自分の目の保養になるのは構わんが、それを他人にまで施してやるほど俺はお人好しじゃねぇ。もちろん、それは当人にも伝えるしな」

 素直に語りはするが、その分の嫌がらせとしてコースは厳しめに打つ。

 ……まぁ、難なく拾われてまたムカつく――っていう独り悪循環マッチポンプになってるんだけど。

「じゃあ、アレか。水着とかもビキニはあんまり着てほしくない系?」

「いや……まぁ、それは大丈夫。パレオは巻いてほしいけど」

「一緒じゃねーか!」

 そう言って、翔真はクツクツと笑う。

「でも、良かったな。俺はそういう服装を好んでいる女子生徒を一人知ってるぞ?」

「…………………………………………」

 そんなからかいを含んだ言葉には答えない。
 俺はもはや無言で、改めて山なりにシャトルを打つ。

 合わせて打ってくれた球筋の落下地点に素早く駆け寄ると、再度構えてジャンプ。

 渾身の思いで放たれたスマッシュは、今度はラインを割っていた。
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