彼と彼女の365日

如月ゆう

文字の大きさ
上 下
6 / 284
April

4月6日(土) 入学式

しおりを挟む
 今日は新入生の新入生による新入生のための入学式。

 そのため部活も休みであり、惰眠を貪ることができ、こうして昼間から自室でパソコンやらゲームを楽しんでいたのだが――。

「なんで、お前がいるんだよ……かなた」

 お隣に住む幼馴染みは、何故か俺のベッドに勝手に転がり、漫画を読み漁っていた。

「えぇー、いいじゃん。借りるたびに家を行き来するの面倒なんだよ。……重いし」

 俺が文句を言えば、かなたは読んでいた本を胸の上へと下ろし、ページを開かせたままにする。
 仰向けの頭をベッドの外へと出し上下逆さまの顔を俺に向けると、切り揃えられた髪がハラリと零れた。

「おい、それ止めろ。型が付く」

 ムズムズととある欲求が胸で疼き、文句を言いながら椅子を滑らせて近づく。
 そして、そのまま宙ぶらりんな髪を俺は手で梳き、遊び始めた。

「……何をしている?」

「レンタル料。あと、本はマジで大事に扱ってくれ」

 念を押すと、律義にも置いた本を再び手に持ち、口元を隠すように動かす。

「…………髪フェチ、本マニア」

 ジトっとした視線を向けてくるも、すぐに本へと意識を向けなおし、それ以上は何も言わない。
 ある程度触ってこちらも満足し、頭をベッドの上へ戻してあげるとデスクに移動する。

「そういや今日は入学式だけど、何があったか全然覚えてないな……」

「そう? 私は覚えてるけど」

 話題振りでもあり独り言でもあった発言。
 すると、顔は動かすことなく、けれども返事をしてくれた。

「マジか……。流石は文系だな」

 適当な誉め言葉。
 何一つ関連する要素はない。

 まぁ、駄弁りなんてそんなものだろうけど。

「お母さんは仕事で、そらママに保護者の代わりをしてもらったからね。よく覚えてる」

「あぁー、そういやそうだったけ」

 なんとなく思い出した。
 母さんは几帳面だから制服をめちゃくちゃ正された覚えがある。

 あと、かなたを「可愛い、可愛い」とべた褒めしてた。

 そのことが彼女の頭にも過ぎったのか、わずかに顔が赤い。

「照れるなよ、わりかし似合ってたぞ」

「やめい……!」

 抱き枕が投げられる。
 おい、埃が立つからそれこそ止めろ。

「……あ、あと、理事の人の話が長かった」

「だったけか。逆にウチの校長は話が短いよな、珍しいことに」

 俺の返事にコクリと頷かれた。
 あとは誰が挨拶してたっけ……。生徒会長がいて――

「――あっ、翔真が新入生代表だったか」

「……壇上に上がった時の歓声はすごかった」

「それは今も顕在だけどな……」

 その様子を思い出し、互いに疲れた笑みを浮かべる。

「で、その後が…………」

「担任紹介、教室移動、教科書配布」

 立て続けに教えてくれるおかげで、その度に記憶が蘇ってきた。

「そうだった、そうだった。重かったよなぁ、アレ」

「だから入学式に配布したの……かも」

 そう言われて、納得させられる。
 翔真や菊池さんあたりには「何が!?」と驚かれる場面かもしれないが、家族同然のように育ってきた俺たちにとってはそれだけで意思疎通になった。

「だな。保護者同伴だったし、そりゃ車で来る人が大半だろうから」

 よく考えられたシステムだこと。

「んで、何? 何でそんな話を急にし始めたの?」

 会話の空隙。それを見計らって、尋ねられる。
 椅子を回転させて、かなたの方に身体を向けると、先ほどと同じ仰向けの状態で俺は見られていた。

「いや、別に……ただの雑談」

 軽く息を吐き、僅かな笑みを浮かべて俺は答える。
 かなたはゴロンと寝返りうつ伏せに移ると、本を閉じ、ジトっと目を見つめてきた。

「…………嘘つき」

 唇をすぼめ、拗ねたように一言。

「お互いに裸も見てる。お風呂で洗いっこもした。その本棚の下の引き戸にイケないゲームが入っていることも既知。何も隠すことなんてない」

「おい、やめろ。一つ言っておくが、別に隠しているわけじゃない。それを証拠に他のゲームもまとめて入れてるだろうが」

 とは言っても、普通はそんな話さえしないはずだ。
 世間一般でなら、こんなことを幼馴染みに知られただけでまずいのだろうな。

 その俺たちの関係の特殊性を客観的に感じる。

「じゃあ、何……?」

 反論すら許さない、と申す眼光。
 コイツにしては珍しく諦めが悪い……というか、引かないな。

「……はぁ。お前さ、そういうゲームがいつ発売されるか知ってる?」

「……? 知るわけがない」

 だよな。

「月末、もしくは月始。理由は、一般企業の給料日が大体その時期だから」

「へぇー、一生使う機会がなさそうな知識をサンクス」

 皮肉で返されるが、言い返す気力さえ湧かない。

「……じゃあ、次。アニメでもドラマでも映画でも、別にそういうものが見たかったわけでもないのに急に濡れ場のシーンが始まるとさ、空気が凍るじゃん? 特に家族間だと」

「あぁー、うん……確かに」

 分かってもらえて嬉しいよ。

「それが答え。そして、真相であり理由で原因」

 あとはもう知らん。
 これ以上は何も言うことがない、という意思を込めて背中を向ける。

「は? ……全然分からん」

 体を起こし、胡坐をかき、腕を組み、頭を傾けて考えているようだが、俺の真意は伝わらなかったようだ。

 理解があり、有能な男性諸君なら分かるはず。
 要約すると、別に疚しい気持ちでそういうゲームをしているわけではないけど、そのプレイ最中を異性に見られるのは気が咎める、というやつだ。

 まぁ、良い子は知らなくていいことだけどな。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸
青春
 特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。 しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?  さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?  主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。  カクヨムにて、月間3位

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/3/13:『かゆみ』の章を追加。2025/3/20の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/12:『あくむをみるへや』の章を追加。2025/3/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。 2025/3/8:『いま』の章を追加。2025/3/15の朝8時頃より公開開始予定。 2025/3/7:『しんれいしゃしん』の章を追加。2025/3/14の朝4時頃より公開開始予定。

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

FRIENDS

緒方宗谷
青春
身体障がい者の女子高生 成瀬菜緒が、命を燃やし、一生懸命に生きて、青春を手にするまでの物語。 書籍化を目指しています。(出版申請の制度を利用して) 初版の印税は全て、障がい者を支援するNPO法人に寄付します。 スコアも廃止にならない限り最終話公開日までの分を寄付しますので、 ぜひお気に入り登録をして読んでください。 90万文字を超える長編なので、気長にお付き合いください。 よろしくお願いします。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物、団体、イベント、地域などとは一切関係ありません。

「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

茉丗 薫(活動休止中)
恋愛
わたくしの愛おしい婚約者には、一つだけ欠点があるのです。 どうやら彼、『きみ』が大好きすぎるそうですの。 わたくしとのデートでも、そのことばかり話すのですわ。 美辞麗句を並べ立てて。 もしや、卵の黄身のことでして? そう存じ上げておりましたけど……どうやら、違うようですわね。 わたくしの愛は、永遠に報われないのですわ。 それならば、いっそ――愛し合うお二人を結びつけて差し上げましょう。 そして、わたくしはどこかでひっそりと暮らそうかと存じますわ。  ※作者より※ 受験や高校入学の準備で忙しくなりそうなので、先に予告しておきます。 前触れなしに更新停止する場合がございます。 その場合、いずれ(おそらく四月中には)更新再開いたしますので、よろしくお願いします。 ※この作品はフィクションです。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

処理中です...