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April
4月4日(木) 春休み③
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「おはよー」
ノックもなしに俺の部屋に上がり込むかなた。
もはや我が家同然のような佇まいであり、持ってきた荷物やらを俺のベッドの上へと投げ置く。
「おう、待ってたぞ」
あらかじめ勉強――もとい、宿題を終わらせようの会を企画していたため、俺は惰眠を貪ることもなく、こうしてお気に入りのゲーミングチェアに座り、自作PCを走らせて暇を潰していた。
すでに勉強用の広いテーブルは用意しており、問題集も準備済み。
明日が始業式なんだし、俺たちに残された時間が僅かな事実を感じる。
……まぁ、残された課題の量そのものも僅かなわけだけど。
「んじゃ、さっさと始めるか」
テーブルの前へと移動し自分用の座椅子に座ると、かなたはそこらへんに放ってあるクッションの一つを勝手に拾い、お尻に敷く。
現時刻は午前十時十四分。
タイムリミットはあと二十二時間だ。
♦ ♦ ♦
「そらー、これ分からん」
「ん、どれ?」
見せられたのは、三角形とその外接円の問題。
円の半径と三角形の一辺が書き込まれており、その辺と対角――と言っていいのか――に位置する角度を求めるというものだ。
「あー、それは正弦定理を使っとけ」
「せい、げん……てい、り?」
お前は壊れたロボットかよ。
内心ではそうツッコむけれど、それが素だと知っている俺は別の言葉を贈る。
「教科書見ろ、教科書。書いてる公式使えば解けるから」
しかし、かなたは俺の顔をジッと見たまま何もしない。
「えっ、なに? 怖いんだけど……俺、変なこと言った?」
「……そんなもの、持ってきてない」
持って来いよ! ――とも思ったが、よくよく考えればその必要はないな、ということに気が付く。
わざわざ持ってこなくとも、家主の教科書を使えばいいんだしな。
「……ほら、このページのこれ。代入すれば解けるから」
「おぉ……サンクス」
指し示した公式と問題を睨めっこしながら、チビチビと数字を当てはめていく。
かと思えば、何やら唐突に語り始めた。
「でもさ、何でこうなるの? いきなりポンと『これ使え』って言われても、納得できないんだけど……」
そうして始まる、数学への愚痴。
「そんなの知らねーよ。学生に求める内容じゃねーだろ」
「なんだー……つまらん」
頭から机に突っ伏すと、両手をだらけさせ意気消沈する。
どうやらかなたの期待に添えなかったようだ。取り敢えず、フォローはしておこう。
「いや、一応説明はできるけどさ……。円周角の定理やら場合分けのことやら、そんな話が聞きたいのか?」
「あっ、やっぱりいい」
全力の拒否。すぐに体を起こすと、お手本のような姿勢でペンを握る。
その後は、カリカリと芯がプリントを擦り、紙の捲られる音だけが満ちていった。
それからしばらく――。
「えっと……『福岡県東部・大分県北部の一部を合わせた地域の旧国名』? それって、北九あたり、だよな。…………『修羅の国』っと」
「…………?」
「次は……『群馬県の旧国名』か。……『秘境』」
「……っ!」
「『京都部の南部』……? やばい、全然分からん。『平安』でいいか」
「待って。お願いだから、待って」
邪魔をしちゃ悪いだろうと、苦手な日本史を自力で解いていたら何故か逆に邪魔をされた。
「何だよ、人が頑張って解いてんのに……」
悪態を吐こうと口を開き、だがすぐに原因と思わしき俺の悪い癖を思いつく。
「あっ、もしかして声に出てたか? すまん、気を付けるわ」
どうにも俺は集中をすると独り言をするようで、よく親にも注意されていた。
幸いにもテストなどの公の場ではこの発言癖が発現しないので助かっているが、いつ試験官に咎められるか心配で仕方ない。
「違う、そうだけどそうじゃない。そもそも、書いてる答えがおかしいことに気付いて」
「いや、さすがにそれは分かってるって。でも、解けないんだし、それっぽい答えを書くしかないじゃん」
――空白にするよりは何でもいいから埋めろ。
中学時代に先生から言われた言葉を思い出す。
いい教えだ。宝くじは買わなければ当たらないように、テストも書かなきゃ当たらないよな。
「だからって、それはダメでしょ……。私が恥ずかしくなるから、止めて」
「じゃあ、答え教えてよ」
割と真剣な様子で止めてくるので、両手を挙げて降参のアピール。
素直に回答を聞くことにした。
「えっと……どんな問題だっけ? あ、別に向きは変えなくていい」
身を乗り出し、二人で問題集を眺める。
見づらいかと思いそっちに向けようかと動かすも、それより前に断られた。
「最初の答えは『豊前』。次が『上野』で、最後が『山城』。……てか、これこそ教科書見ればいいじゃん」
律義に答えを教えてくれた後に、かなたはジトっとした目で言及してくる。
そして、俺は言われるまでそのことに気が付かなかったぜ……。
「……どうでもいいと思ってる教科を調べるのって、結構面倒だよ……な?」
言い訳であり、本心でもあることを口に出す。
同意してくれたのか、呆れただけか。
無言でため息を吐かれ、再びカリカリと自分の勉強に戻っていくかなた。
結局、その後も互いに自身の得意教科を教え合いながら、勉強会は進んでいったとさ。
追記。
無事に終えることができました、はい。
ノックもなしに俺の部屋に上がり込むかなた。
もはや我が家同然のような佇まいであり、持ってきた荷物やらを俺のベッドの上へと投げ置く。
「おう、待ってたぞ」
あらかじめ勉強――もとい、宿題を終わらせようの会を企画していたため、俺は惰眠を貪ることもなく、こうしてお気に入りのゲーミングチェアに座り、自作PCを走らせて暇を潰していた。
すでに勉強用の広いテーブルは用意しており、問題集も準備済み。
明日が始業式なんだし、俺たちに残された時間が僅かな事実を感じる。
……まぁ、残された課題の量そのものも僅かなわけだけど。
「んじゃ、さっさと始めるか」
テーブルの前へと移動し自分用の座椅子に座ると、かなたはそこらへんに放ってあるクッションの一つを勝手に拾い、お尻に敷く。
現時刻は午前十時十四分。
タイムリミットはあと二十二時間だ。
♦ ♦ ♦
「そらー、これ分からん」
「ん、どれ?」
見せられたのは、三角形とその外接円の問題。
円の半径と三角形の一辺が書き込まれており、その辺と対角――と言っていいのか――に位置する角度を求めるというものだ。
「あー、それは正弦定理を使っとけ」
「せい、げん……てい、り?」
お前は壊れたロボットかよ。
内心ではそうツッコむけれど、それが素だと知っている俺は別の言葉を贈る。
「教科書見ろ、教科書。書いてる公式使えば解けるから」
しかし、かなたは俺の顔をジッと見たまま何もしない。
「えっ、なに? 怖いんだけど……俺、変なこと言った?」
「……そんなもの、持ってきてない」
持って来いよ! ――とも思ったが、よくよく考えればその必要はないな、ということに気が付く。
わざわざ持ってこなくとも、家主の教科書を使えばいいんだしな。
「……ほら、このページのこれ。代入すれば解けるから」
「おぉ……サンクス」
指し示した公式と問題を睨めっこしながら、チビチビと数字を当てはめていく。
かと思えば、何やら唐突に語り始めた。
「でもさ、何でこうなるの? いきなりポンと『これ使え』って言われても、納得できないんだけど……」
そうして始まる、数学への愚痴。
「そんなの知らねーよ。学生に求める内容じゃねーだろ」
「なんだー……つまらん」
頭から机に突っ伏すと、両手をだらけさせ意気消沈する。
どうやらかなたの期待に添えなかったようだ。取り敢えず、フォローはしておこう。
「いや、一応説明はできるけどさ……。円周角の定理やら場合分けのことやら、そんな話が聞きたいのか?」
「あっ、やっぱりいい」
全力の拒否。すぐに体を起こすと、お手本のような姿勢でペンを握る。
その後は、カリカリと芯がプリントを擦り、紙の捲られる音だけが満ちていった。
それからしばらく――。
「えっと……『福岡県東部・大分県北部の一部を合わせた地域の旧国名』? それって、北九あたり、だよな。…………『修羅の国』っと」
「…………?」
「次は……『群馬県の旧国名』か。……『秘境』」
「……っ!」
「『京都部の南部』……? やばい、全然分からん。『平安』でいいか」
「待って。お願いだから、待って」
邪魔をしちゃ悪いだろうと、苦手な日本史を自力で解いていたら何故か逆に邪魔をされた。
「何だよ、人が頑張って解いてんのに……」
悪態を吐こうと口を開き、だがすぐに原因と思わしき俺の悪い癖を思いつく。
「あっ、もしかして声に出てたか? すまん、気を付けるわ」
どうにも俺は集中をすると独り言をするようで、よく親にも注意されていた。
幸いにもテストなどの公の場ではこの発言癖が発現しないので助かっているが、いつ試験官に咎められるか心配で仕方ない。
「違う、そうだけどそうじゃない。そもそも、書いてる答えがおかしいことに気付いて」
「いや、さすがにそれは分かってるって。でも、解けないんだし、それっぽい答えを書くしかないじゃん」
――空白にするよりは何でもいいから埋めろ。
中学時代に先生から言われた言葉を思い出す。
いい教えだ。宝くじは買わなければ当たらないように、テストも書かなきゃ当たらないよな。
「だからって、それはダメでしょ……。私が恥ずかしくなるから、止めて」
「じゃあ、答え教えてよ」
割と真剣な様子で止めてくるので、両手を挙げて降参のアピール。
素直に回答を聞くことにした。
「えっと……どんな問題だっけ? あ、別に向きは変えなくていい」
身を乗り出し、二人で問題集を眺める。
見づらいかと思いそっちに向けようかと動かすも、それより前に断られた。
「最初の答えは『豊前』。次が『上野』で、最後が『山城』。……てか、これこそ教科書見ればいいじゃん」
律義に答えを教えてくれた後に、かなたはジトっとした目で言及してくる。
そして、俺は言われるまでそのことに気が付かなかったぜ……。
「……どうでもいいと思ってる教科を調べるのって、結構面倒だよ……な?」
言い訳であり、本心でもあることを口に出す。
同意してくれたのか、呆れただけか。
無言でため息を吐かれ、再びカリカリと自分の勉強に戻っていくかなた。
結局、その後も互いに自身の得意教科を教え合いながら、勉強会は進んでいったとさ。
追記。
無事に終えることができました、はい。
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