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April
4月2日(火) 春休み①
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「よう、そら。今日は災難だったな」
手持ちのタオルで汗を拭き、スポーツ飲料で体を潤していると背後からそんな声がかかる。
「……おぉ、翔真か。いや、マジで最悪だったわ」
そこには上半身裸でタオルをあてがう一人のイケメンが立っていた。
そいつは白い歯を見せニコリと笑うと、俺の隣に腰掛ける。
彼の名前は畔上翔真。
我が学園の貴公子であり、バドミントン部のエースでもある完璧超人だ。
その上、気遣いもできる良い奴で、頭もよろしい。
こんな俺なんかとも仲良くしてくれており、唯一親友とも呼べる存在だったりする。
「午前中、延々と走り込みをさせられてたもんな。ゲームにも参加させてもらえずに」
そんな翔真は苦笑を浮かべて、俺を労ってくれる。
試合が好きなことも、基礎練が嫌いなことも知っているコイツの言葉だからこそ、温かみを感じ、目頭が熱くなりそうだ。
「それもこれも、全部かなたのせいだ……!」
昨日の出来事を思い出し、今度は恨み節を放つ。
アイツのせいで学園の生徒、部活メンバー、顧問へと話が渡り、こってり絞られる羽目になったのだから。
「ま、まあまあ……蔵敷くん、落ち着いて。かなちゃんだって、別に悪気があったわけじゃないと思うから……ね?」
朝から俺は部活があり、アイツはまだ起きていないようだったから報復は出来ていないが、帰ったらみっちり虐めてやる。
そんな心の闇に支配されていた俺の耳に、ふとそんな柔らかな声が届いてきた。
顔を向ければ、そこに立っていたのはうちのマネージャーであり同級生の菊池詩音さん。
どうやら、翔真にドリンクを持ってきたようで、その過程で俺たちの話が耳に入り、会話に参加してきたようだ。
「おっ、ありがとう詩音さん」
爽やかに礼を言う翔真と、それに頬を染める菊池さん。
そのことには特に言及せず、俺は先の言葉に反論をする。
「悪気がないから問題なんだよ。昨日のことも、どうせ『ちょうどエイプリルフールだったし、私が遊びに行きたかったから』みたいな理由だぞ」
「あは……ははは」
否定できないのか、菊池さんは愛想笑いを浮かべる。
「でも、楽しかったんだろ? なら、いいじゃんか」
「……翔真。お前、終わり良ければ総て良し的な雰囲気出してるけど、こうして終わりが良くないから、俺は文句を言ってるんだからな?」
どれだけフォローしても消えることのない俺の悪態に、二人は揃って苦々しく微笑むだけだった。
「――そらー。弁当持ってきてやったぞー」
ともすれば、そこに件の少女は現れる。
「あっ、かなちゃーん!」
「やぁ、倉敷さん。おつかれ」
前者は手を大きく振り、後者は軽く手を挙げ、互いに挨拶を交わした。
「おっ、詩音、畔上くん、やっほー――むぐっ!」
そして、俺は物理的に手を上げる。
挟み込むようにしてかなたの両頬を潰すと、そのまま指で摘み思いっきり引っ張ってやった。
「なになに、いひゃいいひゃい!」
涙目で訴えてくるが、俺は容赦をしない。
ただただ黙々と粛清を行い、助けを求められた二人が仲裁に入るまでそれは続いた。
「全く……何だよ。遅めの反抗期?」
まだ痛むのか、彼女は自分の両手を頬に当てムニムニと揉みこむ。
「違うわ! お前、昨日はよくも嘘ついてくれたな。おかげで今日の練習がきつかったんだぞ」
俺がどれだけつらつらと文句を言おうが、その姿には反省の色など全くない。
挙句の果てには、こんなことを言い出した。
「えー、それって私のせい? 普段のそらなら気付くじゃん……」
「……確かにな」
「……それもそう、だね」
そして、その言葉に同意する部外者の二名。
なるほど、どれだけ正義を言い募ろうとも大衆の意見に勝るものはない、とはこのことか。
身をもって実感したよ。
今、完全に俺に非がある雰囲気になってるし。
「いやいや、おかしくね? 少なくとも、俺は悪くないよな?」
なおも反論を繰り広げてみるが、もうその声に同情してくれる者はいない。
「でもさ、そら。その話、最初からおかしいじゃん。何で女子マネでもない倉敷さんに詩音さんが連絡よこすんだよ」
「――うぐっ」
そうなんだよなぁ。コイツ、女子マネでもなんでもないんだよ。
「そ、それに……連絡網は基本的に電話、ですよ?」
「――ぐはっ」
そうだった……。
一応グループチャットにも情報は流れるけど、必ず最初に電話で回る。
「くっ……俺の、負けなのか…………」
見事に膝を屈し、立つ気力さえ湧かない。
覚えておいてくれ、みんな。騙される方が悪い、という真実を。
「……ねぇ、それよりお腹空いた。そらママが私のお弁当も作ってくれたし、早く食べようぜー」
そして、当人はこの有り様さ。
何一つ気にしちゃいない。
「おう、そうだな。食べよう食べよう」
「あっ、じゃあ私もお弁当持ってくるね」
かなたの意見に賛同した二人は慌ただしく準備を始め、この話は終了。
おとなしく砂の付いた膝を払い、近場の水道で手を洗うと、母さんの弁当を受け取る。
「――はい、こっちがそらの分」
そう言って微笑む姿は、本当に何も気にしていないようだった。
「……ありがとさん」
だからだろうか、俺も騒いでいたのが馬鹿らしくなってくる。
その後は四人で昼飯を囲んで、いただきます。
午後の部活も頑張るとしよう。
手持ちのタオルで汗を拭き、スポーツ飲料で体を潤していると背後からそんな声がかかる。
「……おぉ、翔真か。いや、マジで最悪だったわ」
そこには上半身裸でタオルをあてがう一人のイケメンが立っていた。
そいつは白い歯を見せニコリと笑うと、俺の隣に腰掛ける。
彼の名前は畔上翔真。
我が学園の貴公子であり、バドミントン部のエースでもある完璧超人だ。
その上、気遣いもできる良い奴で、頭もよろしい。
こんな俺なんかとも仲良くしてくれており、唯一親友とも呼べる存在だったりする。
「午前中、延々と走り込みをさせられてたもんな。ゲームにも参加させてもらえずに」
そんな翔真は苦笑を浮かべて、俺を労ってくれる。
試合が好きなことも、基礎練が嫌いなことも知っているコイツの言葉だからこそ、温かみを感じ、目頭が熱くなりそうだ。
「それもこれも、全部かなたのせいだ……!」
昨日の出来事を思い出し、今度は恨み節を放つ。
アイツのせいで学園の生徒、部活メンバー、顧問へと話が渡り、こってり絞られる羽目になったのだから。
「ま、まあまあ……蔵敷くん、落ち着いて。かなちゃんだって、別に悪気があったわけじゃないと思うから……ね?」
朝から俺は部活があり、アイツはまだ起きていないようだったから報復は出来ていないが、帰ったらみっちり虐めてやる。
そんな心の闇に支配されていた俺の耳に、ふとそんな柔らかな声が届いてきた。
顔を向ければ、そこに立っていたのはうちのマネージャーであり同級生の菊池詩音さん。
どうやら、翔真にドリンクを持ってきたようで、その過程で俺たちの話が耳に入り、会話に参加してきたようだ。
「おっ、ありがとう詩音さん」
爽やかに礼を言う翔真と、それに頬を染める菊池さん。
そのことには特に言及せず、俺は先の言葉に反論をする。
「悪気がないから問題なんだよ。昨日のことも、どうせ『ちょうどエイプリルフールだったし、私が遊びに行きたかったから』みたいな理由だぞ」
「あは……ははは」
否定できないのか、菊池さんは愛想笑いを浮かべる。
「でも、楽しかったんだろ? なら、いいじゃんか」
「……翔真。お前、終わり良ければ総て良し的な雰囲気出してるけど、こうして終わりが良くないから、俺は文句を言ってるんだからな?」
どれだけフォローしても消えることのない俺の悪態に、二人は揃って苦々しく微笑むだけだった。
「――そらー。弁当持ってきてやったぞー」
ともすれば、そこに件の少女は現れる。
「あっ、かなちゃーん!」
「やぁ、倉敷さん。おつかれ」
前者は手を大きく振り、後者は軽く手を挙げ、互いに挨拶を交わした。
「おっ、詩音、畔上くん、やっほー――むぐっ!」
そして、俺は物理的に手を上げる。
挟み込むようにしてかなたの両頬を潰すと、そのまま指で摘み思いっきり引っ張ってやった。
「なになに、いひゃいいひゃい!」
涙目で訴えてくるが、俺は容赦をしない。
ただただ黙々と粛清を行い、助けを求められた二人が仲裁に入るまでそれは続いた。
「全く……何だよ。遅めの反抗期?」
まだ痛むのか、彼女は自分の両手を頬に当てムニムニと揉みこむ。
「違うわ! お前、昨日はよくも嘘ついてくれたな。おかげで今日の練習がきつかったんだぞ」
俺がどれだけつらつらと文句を言おうが、その姿には反省の色など全くない。
挙句の果てには、こんなことを言い出した。
「えー、それって私のせい? 普段のそらなら気付くじゃん……」
「……確かにな」
「……それもそう、だね」
そして、その言葉に同意する部外者の二名。
なるほど、どれだけ正義を言い募ろうとも大衆の意見に勝るものはない、とはこのことか。
身をもって実感したよ。
今、完全に俺に非がある雰囲気になってるし。
「いやいや、おかしくね? 少なくとも、俺は悪くないよな?」
なおも反論を繰り広げてみるが、もうその声に同情してくれる者はいない。
「でもさ、そら。その話、最初からおかしいじゃん。何で女子マネでもない倉敷さんに詩音さんが連絡よこすんだよ」
「――うぐっ」
そうなんだよなぁ。コイツ、女子マネでもなんでもないんだよ。
「そ、それに……連絡網は基本的に電話、ですよ?」
「――ぐはっ」
そうだった……。
一応グループチャットにも情報は流れるけど、必ず最初に電話で回る。
「くっ……俺の、負けなのか…………」
見事に膝を屈し、立つ気力さえ湧かない。
覚えておいてくれ、みんな。騙される方が悪い、という真実を。
「……ねぇ、それよりお腹空いた。そらママが私のお弁当も作ってくれたし、早く食べようぜー」
そして、当人はこの有り様さ。
何一つ気にしちゃいない。
「おう、そうだな。食べよう食べよう」
「あっ、じゃあ私もお弁当持ってくるね」
かなたの意見に賛同した二人は慌ただしく準備を始め、この話は終了。
おとなしく砂の付いた膝を払い、近場の水道で手を洗うと、母さんの弁当を受け取る。
「――はい、こっちがそらの分」
そう言って微笑む姿は、本当に何も気にしていないようだった。
「……ありがとさん」
だからだろうか、俺も騒いでいたのが馬鹿らしくなってくる。
その後は四人で昼飯を囲んで、いただきます。
午後の部活も頑張るとしよう。
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