神様に愛されなかった僕、貴族に転生した2秒後に平民落ちしたけど、メイドが愛してくれるので今日も幸せです

水の入ったペットボトル

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第23話 森の異変の正体

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「あと1体だ」
「了解です」

 僕達はあの納品依頼の後も冒険者ギルドで追加の依頼を受け、コールさんが言うには4人でやるには受注した依頼の数が多過ぎるらしい。

 ただ、依頼を受けたのはコールさんで、それだけ僕達の実力を買ってくれているのだろう。

「ルイの強さがGランクなんて信じられねぇ」
「コール様もお強いと思いますが」
「俺達は冒険者ギルドの戦闘指南を受けてるからな」

 何やら気になる事をコールさんが言っているため、僕も会話に入る。

「あ、そうなんですね。どんな感じですか?」
「冒険者の戦い方、武器の扱い、色々戦闘について教えてくれるんだ」
「へぇ、僕達も受けようとは思ってたんですよ」
「間違っても朝戦闘指南を受けて昼から依頼を受けるなんてことは考えるなよ」

 コールさんは僕たちのためを思ってそう忠告してくれた。

 戦闘指南はなかなかハードなものらしく、その冒険者の限界を教官の冒険者は攻めてくるらしい。

 教官曰く、俺の戦闘指南を受けた後その足で他のことをできると思うな。
 曰く、モンスターと戦うよりも俺の訓練の方がきつい。
 曰く、舐めた態度で受けたやつは帰すんじゃなくて徹底的に虐めてやるからそのつもりで来い。
 そして最後に、俺の戦闘指南を受けたら大抵の危機は乗り越えられるようにしてやる、とのことらしい。

「ここの冒険者はアレン教官に扱かれてる奴が殆どだからな。イキってる冒険者はすぐ余所者だって分かる」
「……アンナさん、僕達もその戦闘指南受けますか?」
「はい。今の話を聞いてますます私は受けたくなってきました」

 アンナさんは強くなることに貪欲で、しんどいのなんてあまり関係ないらしい。

 僕は今の話を聞いて少しビビってしまうあたり、最初の若者冒険者3人組に言われたビビリ君というのが、僕にお似合いのあだ名かもしれない。

「お、あいつらで終わりだ。倒すぞ」
「はい」

 ゴブリンの討伐依頼の数に後1体足りなかったため、あのゴブリン3体の内1体を倒せば終了だが、結局は3体全員倒すことになるだろう。

 僕はすぐに討伐依頼を終わらせるためにゴブリン達へと走るが、ゴブリン達はどんどん僕達から離れようとする。

「ルイ、追いかけて1体は倒してくれ!」
「了解です!」

 僕はゴブリンを追いかけ、なんとか1体の背中へ短剣を刺すと、他の2体は僕に構わず逃げていった。

「まぁいいや、右耳を切り取って討伐依頼終了!」

 僕のことを追いかけてきてるはずのアンナさん達を待つが、なかなか来ない。

 僕は入れ違いにならないように自分が走ってきた道を慎重に辿って戻ると、戦闘音が聞こえてくる。

 僕は嫌な予感がして音のする方へ全力で駆け出すと、そこには真っ白な猫科の大きなモンスターがコールさんと戦っていた。

「戻りました!!」
「ザールがあいつにやられた!! アンナに今治療してもらってるが、俺だけじゃ止めれねぇんだ! ルイも手伝ってくれ!!」

 コールさんに言われ、取り敢えずアンナさんとザールさんを守れる位置につく。

 相手はとんでもない大きさの牙が下顎から2本生えており、あの下顎で体を突き上げられたなら、そのままあの牙が体に刺さって終わりだろう。
 脚の爪も鋭そうではあるが、1番警戒しないといけないのはあの牙だ。

「コールさんはその斧だと相性が悪いと思いますし、僕が前で戦います」
「すまねぇ。ザールの応急処置が終わればゆっくり下がるぞ」
「分かりました。その時は声をかけてください」

 コールさんはさっきまで僕がいた場所でアンナさんたちを守り、僕は真正面からあの猛獣をこの眼で捕らえる。

『ガアアアアアァァァァアアァァウゥゥ!!』

 お腹の中の奥底から出しているような咆哮は、深くて低い、体を恐怖で震わせるような音だった。

 僕はその咆哮に気圧されそうになるが、必死に短剣を体の前で構え続ける。

 相手は圧倒的強者。僕に出来ることがあるのかどうかもわからない。でも相手は僕のことを警戒している。
 それなら僕は最大限今の状況を利用するのみ。

「爆ぜろ!!!」
『ガウウウウゥゥゥ』

 あの猛獣に向けて出鱈目に撃った火魔法は全て避けられてしまったものの、さらに僕のことを警戒してあいつは近寄ってこない。


 まだか。
 ザールさんが動けるようになれば僕も逃げられる。

 まだか。
 コールさんからの声を僕は待つ。


 ……まだか。
 そろそろ相手は僕に攻撃を仕掛けてきそうだ。





 …………まだか!!!







 
「ルイ!! 逃げるぞおおおぉぉぉ!!!!」

 来た!!!!!





 僕は馬鹿だ。
 さっきまであの強敵がなぜ攻撃してこなかったかを考えるべきだった。
 あれだけ僕は必死に逃げたくなる気持ちを抑えてあいつを睨み付けていたからこそ、襲ってこなかったのだと気付くべきだった。

 僕があいつに背中を向けてコールさん達の方へ走り出した瞬間、あいつは俺の背中をめがけ突っ込んできた。

「いっ!!」

 幸いにも僕は突進に気づき、横っ飛びで回避した。今ので負った傷も腕の掠り傷のみ。

 ただ僕が避けると次に狙われるのはコールさん達だ。

「避けて!!!」

 あの猛獣に狙われたのはコールさん。
 アンナさんとザールさんはコールさんよりも前に居たため、そのまま走って逃げる事が出来ている。
 が、コールさんの悲鳴を聞いて2人とも足を止めた。

「あぁあぁぁぁ!!!」

 単純な生物としての圧倒的な力の差。

 ただの突進でコールさんは前を走っていたアンナさん達よりも更に前へ吹き飛ばされる。
 そしてあの猛獣が次に狙うのはその2人。

「早く逃げて!!!」

 僕はありったけの魔力を込めて、あの獣へと火の槍を撃った。

『ガウウウゥゥゥ!!』

 が、当たったはずの僕の魔法はあの獣にあまり効いていない。
 その白い身体には少し焦げたような跡が残っただけで、奴は僕をキッと睨み付けてくる。
 もし次僕が魔法を撃てば、絶対に避けてやるといわんばかりに。

 ただ魔法は効かなかったが、あいつの気を引き付けることには成功した。
 アンナさん達はコールさんのところまで走り、コールさんを引き摺りながらそのまま森の外へと出ようとしている。

 それでいい。
 そのまま逃げてほしい。
 どうしようもないくらい怖くて、今にも逃げ出してしまいたい。

 でもその気持ちを僕は抑え込む。
 奴が僕の弱気を見破れば、絶対に襲いかかってくるからだ。
 目の前の獣は僕を敵として認めた。
 だからもう僕とこいつはどちらかが倒れるまで逃げる事など許されないのだ。

「や、やるぞっ! 行くぞっ! っっ!」

 僕は声を上げながら短剣をその場で振り回す。
 こんな僕の弱々しい動作にも目の前の猛獣は警戒してみせる。


 無理だ。
 本気になったこのモンスターに、
 油断のなくなったこの猛獣に、
 僕が勝てるわけない。

 駄目だ、死にたくない。
 
 でもどこかアンナさんを守れた自分に少しだけ誇りを持てる。
 僕の最期としては、アンナさんを守ることが出来て良かったのかもしれない。


 あぁ、短い人生だったけど楽しかったな。


 でも、もし叶うなら、アンナさんにもう一度僕と過ごしてくれたことへのお礼を……










「諦めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」





 僕は何故かこのようなことが過去にあった気がする。

 どうしようもない状況になって、自分から諦めて、相手の思うままに操られる。
 僕の魂がどうしようもなくこの事実を否定していた。

 今度は抗ってみろ。
 我が儘に生きろ。
 そう僕は言われている気がした。


『ガウウウウウウウウウウウウ!!!!!』


 あいつも僕の声に反応して咆哮するが、僕は全く怖くなかった。

 僕は先程と違ってあの猛獣に心の中で感謝すらしている。

 僕を敵と認めてくれたことに。
 笑わないでいてくれたことに。
 油断しないでいてくれたことに。

 だから僕もあいつを全力で倒しにかかる。

 僕はアンナさん達が助けを呼んでくれるのを待つことなんてしない。
 あいつは賢い獣だ。
 こんな所で長い時間居たら、人間の仲間がやってくることには気付いているだろう。
 それでも僕を敵として認め、今も鋭い眼光を僕に突き刺してくる。


 開戦の合図はなかった。
 あいつは僕が近付いて攻撃しようとする前に僕へと突進を仕掛けてきたのだ。

 僕はすぐ後ろにあった木の裏に隠れ突進をやり過ごす。
 そして次はこちらの番だというようにあいつの口元めがけて短剣を振り切った。
 しかし肉を断ち切る手応えどころか、短剣が弾かれむしろ僕の腕が痺れる。
 原因はあの異常に発達した牙。
 最大の武器であり、防御にもなるあの牙。

 僕は長期戦など無理だと分かっていた。
 流石にもう少し戦いが長引けば、目の前のこいつは逃げてしまうだろうと。

 だから僕は少しだけ無理をした。
 痺れた腕に気付かないふりをして、自分の身を乗り出しその瞳へと右手の刃を突き刺した。


『ガァァァァァァァァァア!?!?!?』


 ここで決め切らなければならない。
 だから僕はあと少しだけ無理をしようとした。
 その短剣を脳まで届かせようとしたのだ。

 奴が僕の腹を突き刺そうとしていることには気づかずに。


「がぁぁぁぁあぁぁああああ!?!?!?」


 熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い

 短剣を刺すために伸びきった右脇腹を狙って、奴はその牙を僕に突き刺してきた。
 革の装備なんてその牙の攻撃を防ぐには何の役にも立たない。
 僕が今短剣から右手を離し、こいつが少しでも暴れて僕が吹き飛ばされれば終わりだろう。
 動けなくなった僕を噛み千切ることも、その鋭い爪で突き刺すことも、石ころのように蹴飛ばすことだって出来る。

 だから僕は痛みに耐えてこの猛獣にしがみついた。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
『ガアアアアァァァァァァアアア!!!』

 ここからは僕とこいつの耐久勝負。
 どっちの攻撃が先に相手を殺めるに届くか。
 僕は短剣の刃を脳に届かせれば、この猛獣は僕を振り落とせばほぼ勝ちだ。

「うぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!」
『ガァァァァ、アアァァァァ!!!!』

 意外と勝負はすぐに決まった。

 最初は牙に刺さった僕を振り落とそうと暴れていたのに、途中から僕を顔に乗せたまま逃げ始めたのだ。

「にげるなああああぁぁぁぁぁ!!!」
『ガァ、グァァァァ、……』

 これは僕とこいつの覚悟の差なんて言わない。
 僕には仲間が居て、こいつには居なかった。
 僕はここでこいつを倒した後、誰かに助けてもらえる可能性が高い。
 でもこいつは僕を倒した後も、自分だけで生きていかないといけないはずだ。

 その差が勝負を分けた。


「はぁはぁはぁ、がはっっっ」

 これはこいつに突き刺した眼から出ている血なのか、僕の口から出た血なのかはもう分からない。

 目の前がぼやけて周りの音も聞こえなくなる中で、かすかにアンナさんが僕の名前を必死に叫ぶ声が遠くから聞こえた気がした。


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