神様に愛されなかった僕、貴族に転生した2秒後に平民落ちしたけど、メイドが愛してくれるので今日も幸せです

水の入ったペットボトル

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第18話 学園都市よりゴロゴロ

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「じゃあまたな」
「次乗せる時はDランクくらいになっててくれよ」
「ありがとうございました」
「早速教えていただいた宿屋に行ってみますね」

 今はもうほぼ日が落ちていて、僕達はギリギリ学園都市へ入ることが出来た。

 僕の家があった街とは違ってここは全ての規模が大きくなっており、建物は多く、道は広く、そして人が多い。
 大きな道の先には冒険者ギルドらしき建物があるが、街によってこれほど大きさが異なるのかと驚かされる。

「ドレール様に教えてもらった宿屋へ行きますね」
「はい」

 いつものように僕はアンナさんへついて行くが、初めての場所なのに良く道を間違えないなと思う。
 最初は大通りを歩いていたが、途中路地へ入った後2回曲がって、もうそこから僕は自分達がどこに居るのか分からなくなった。

「ここですね」
「はい」

 ここに宿屋があると言われても、案内なしで来るのは難しいと思う。

 一見宿屋だとは分からないような扉を開けて入ると、受付でアンナさんはいつも通り部屋を取ってくれて、僕はそれを後ろで見ているだけだ。

 そしてここでは食事ができないということなので、またさっきの大通りへと戻ることになる。

「アンナさんにお店選びは任せても良いですか?」
「ドレール様に聞いてきたので任せてください」

 アンナさんに連れられ入った料理店で食事をしていると、丁度雨が降ってきた。
 それに気付いたところで何か今からできるわけもなく、アンナさんに注文してもらった料理を僕はただ美味しいと思いながら食べるだけ。

 アンナさんも流石に眠気が襲ってきたのか、食事中はほぼ無言で、目の前の料理を口へと運ぶマシーンと化していた。



「ルイ様。どうしても今日行かなければならない場所があります」
「雨ですけど、今から行くんですか?」
「はい。なのでルイ様もついて来てください」
「は、はい」

 僕たちは食事を終えた後フード付きのマントを雨避けとして使い、すっかり人通りの少なくなった大通りを走る。

 何回も僕がついて来ているのか後ろを確認するアンナさんに、僕はその必要がなくなるようピッタリと斜め後ろへ張り付く。

 もう大通りからは離れ、街灯がなければこの辺りは真っ暗だろう。先程まで歩きやすいよう整えられていた道も、ここでは少し荒れている。

「ここです」
「ここって、教会ですか?」
「はい」

 アンナさんはそのまま教会の中へ入るので、僕もマントを脱いだりせずについて行く。

「こんばんは。浄化ですか?」
「はい。2人分よろしくお願いします」

 アンナさんがシスターと何か話したかと思えば、僕とアンナさんの身体が白くて薄い膜に覆われ、それは僅かな輝きを放っていた。
 この膜に覆われていると、身体が洗われるような気持ちよさを感じる。と、そう思っていたのも束の間、何もなかったかのように膜は突然消えた。

「ありがとうございました」
「神のご加護があらんことを」

 アンナさんはお金の入った袋から幾らか取り出し、シスターに渡していた。

「ルイ様、これで今日はすぐ眠れます」
「確かに身体が綺麗になった気がします」

 そしてまた教会の外に出たアンナさんへついて行き、さっきの宿屋に着く。

 宿屋の階段を上がり自分達の部屋へ入ると、そこには前の宿屋よりも少しだけ大きくなったベッドが1つ。
 僕もアンナさんもすぐ防具を外し、寝るための服に着替える。

「それでは、寝ますか」
「そうですね」

 いつもは僕が先に背中を向けてベッドへ入っているが、今日は2人同時にベッドへ横になるため、変な緊張感がある。

 いつも通り僕はベッドの奥へ行き、アンナさんは手前側へ座る。そして僕が寝転ぶとアンナさんは毛布を掛けてくれて、その毛布とベッドの隙間にアンナさんも身体を入れてくる。

「……」
「……っ」

 突然僕は手を握られて驚いたが、変な声を上げるような醜態を晒すことはなかった。
 ただ、今はそうだというだけで、まだどうなるかは分からない。
 手を握られただけでこの破壊力、不意を突かれればもう僕の心臓が持たないかもしれない。

 取り敢えず僕はゆっくりと自分の心臓を脅かす敵、もといアンナさんの方を向くと、そこには今にも寝てしまいそうな眠気に耐えているアンナさんが、僕の方を見ようとしては何度も瞼を落としていた。

「……ルイ様」
「……はい」
「おやすみなさい……」
「……おやすみなさい」

 アンナさんは最後にそう言って僕の方へ体を預けると、そのまま眠ってしまった。

「……僕も、眠くて、良かった」

 自分のものでない腕の重さを腹部に感じ、自分とアンナさんの間で挟まれている腕には、絶対に自分の体では感じることのない柔らかい感触がある。

「……」
「……」

 すー、すー、という音が規則正しいリズムで肩のあたりから聞こえ、こちらまでそのリズムにつられて呼吸してしまう。

「……」
「……」

 僕もアンナさんの予想外の行動にあてられたのか体全体をアンナさんの方へ向けると、普段の自分では絶対にしないような、アンナさんの体を抱き締めるという愚行を犯す。
 そしてそれだけに留まらず、あろうことか頭を胸元に抱き寄せ撫でるという、後でこの場面を見せられたならば、顔が燃えるように熱くなる行動を僕はしてしまった。

「……」
「……」

 ただ眠気で頭が動いていない僕は、もうとっくの昔に目を閉じてしまい、ただ本能のままに触り心地の良い髪に触れ、頭を撫でるという行為を続けているだけだ。

 この時の僕はこんなことをして寝てしまえば、明日の朝どうなるかなんてことを考えているはずもなく、いつもより良い夢を見れそうな予感だけはしていた。
 


「……」
「……」
「……ぅぅん~」
「……」
「……あ、」
「おはようございますルイ様」
「お、おはようございます」

 昨日と違いぱっちりと開いた濃紫の瞳の視線が顔に突き刺さり、その視線を避けた先には緩みきった口元が見える。
 どんな表情でもその美貌が崩れることはないため、今は間近で見ることのできるその表情を楽しむべきなのだろうが、そんな美貌を前にしても男は無意識に視線を下げてしまうものなのだ。

「あっ」
「えっち」
「ご、ごめんなさい!」

 その緩みきった口元より更に視線を下に向けてしまった僕は、自分には無い双丘が己の腕にしっかりと押しつけられ潰れているのを見てしまった。

「嘘ですよ」
「いえ、その、ごめんなさぃ」
「では今日もルイ様の心を覗かせていただいても良いですか?」
「……はい、どうぞ」

 今日は起きた瞬間アンナさんの整った顔、いや、刺してくるような、もっともっとと期待しているような視線を送る少し緩んだ顔が目の前にあったため、僕の頭はいつもより起きるのが早い。
 早いからこそ昨日の夜起きた色々なことを思い出してしまうわけで……

「(っ!? わ、私、昨日ルイ様に自分から抱き着いて……あぁルイ様、そんなことを思わずもっと強く抱き締めて下さい……)」
「アンナさん、もう良いですか?」
「もう少しだけお願いします」
「はぃ」
「(……ルイ様も男の子なのは分かりましたし、朝ルイ様の心を覗くことは私にとって1番の自信になるかもしれないですね)」

 アンナさんは僕の心を覗くために、ずっと胸の前で僕の手を握っている。
 そしてアンナさんが力を入れて僕の手を自分の方へ寄せようとすればするほど、アンナさんの手と胸の間に僕の手は挟まるわけで。

「……あの、もしかしてアンナさん遊んでます?」
「何がですか?」
「その、僕の手を使って、反応を楽しんでるのかなと……」
「はい。遊んでいるというより、ルイ様から元気をもらっています」
「そ、そうですか」
「ルイ様も嬉しいですよね?」
「……」
「今心を覗いていますし、ルイ様は言葉で答えなくても良いですよ。ふふっ」

 あぁ、なんでアンナさんに手玉に取られているこの状況で僕は喜んでいるんだ。
 男らしく、もっとカッコ良い自分でいたいのに。この思考さえもアンナさんに筒抜けなのはあまりにも恥ずかし過ぎる。

「ルイ様は十分カッコいいですよ」
「……いえ、今は自分が情けないです」
「それでもルイ様は止めようとしないじゃないですか」
「何をですか?」
「私に心を覗かれることです」
「それは、その……」
「ほら、私のためを思って自分を犠牲にしてるじゃないですか。全部今はルイ様のこと分かりますから」
「犠牲なんて思ってないですよ。ただ僕が恥ずかしいだけですから」
「……私、今日は1日中ベッドの上でこうしていたいです」
「いっ、1日中ですか!?」
「ふふっ、今のは冗談ですけど……あれ、ルイ様も意外と乗り気ですね」
「え、いや、あの……」

 不味い、全部筒抜けだとアンナさんに会話を先回りされてしまう。
 それに僕が考えていることがこんなにも浅ましくこんなにも醜いとは。段々悲しくなってきた。

「あぁ、ルイ様、悲しくならないで下さい」
「ちょっ、アンナさんっ!」
「あ、元気になりましたね。これからは朝の抱擁を私達の日課にしましょう。私とルイ様の両方が朝から幸せな気持ちで1日をスタートできますから」

 その日課は僕にとっても嬉しいんだけど、そろそろ朝ご飯を食べて、冒険者ギルドに行って、依頼を受けないといけない気がするのだがどうなのだろうか。

「今日はもう少しゆっくりしますよ」
「あの、何でですか?」
「だって今日は学園都市の外には出ませんから」
「え?」

 アンナさんは僕に向かって笑顔で言う。

「だって今日は"雨"ですよ」

 その理由を聞いて僕は納得すると同時に、だからといって寝転がったまま抱き合うという、とても健全とは思えない状態を早くどうにかしないといけないなと考える。
 どうすればアンナさんが機嫌よく心を覗くことをやめてくれるのか、必死に僕は頭を働かせるのだが、その思考すらも僕はアンナさんに読まれているのだった。


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