最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

文字の大きさ
上 下
163 / 184

第152話

しおりを挟む
「ま、また?」
「俺が1回様子を見ようか?」
「……ガイルにお願いしていい?」
「あぁ、任せてくれ」

 スー君とユー君にアドバイスした俺は、クランの皆が集まっている玄関近くのスペースで楽しく会話をしていた。
 するとこのクランハウスの呼び鈴が鳴らされ、クランへの入団希望者や同盟の誘い等内容は様々だが、このクランのことを知らないのに取り敢えず押しかけてみる、みたいな人達がどんどん増えていった。

 何か嫌がらせをされたわけではないのだが、いきなり自分達のクランにお金を貸して欲しいなどと頼まれても困る。
 俺達はこのクランハウスを自分達のお金で購入した訳では無いが、普通に考えてこのクランハウスを買ったということは、今お金が無いクランなんだな、と思って欲しい。
 まぁこのクランハウスを買えるだけの資金力があるという意味では、お金の話をしに来るのは仕方がないかもしれないが。

「問題は最前線攻略組が公言してることだよなぁ」

 俺達はここのクランハウスが幸福なる種族のものだと大々的に言っていないし言う場もないが、隣の最前線攻略組は自分達のクランハウスであることを隠していない。
 だから皆最前線攻略組の隣にあるクランハウスは、一体何処のクランなんだと気になっているのだとか。

「うちは新生クランだし、他のクランが期待してるような活躍はする気ないんだけど」

 なんか「同盟を組んで一緒に最前線攻略組を倒しましょう!」とか、「私達攻略クランに物資の援助をしていただけたら、必ず最前線攻略組より先に攻略してみせます!」とか、俺が最前線攻略組と敵対関係にある前提で話してくる人が多かった。

「クラン長大丈夫ですか?」
「あ、皆ごめんね。今コネファンが1番楽しい時期なのに。こっちは気にしないで」
「いえ、僕達は全然何も気にしてませんよ」
「なんとなくガイルさんとクラン長の会話を聞いてたら何が起きてるのか推測できますから」
「ははは、」

 俺は皆と楽しく話したくてここに居るのに、今日入ったクランメンバーの皆に俺が慰められている。

「よし、俺も元気出さないとな」
「そうですよ! クラン長は堂々としてください!」
「僕達もすぐお役に立てるようになりますから」
「ありがとう。さ、そろそろ皆準備したら? 後少しで朝が来るよ」
「よーし! 今日でレベル5にはなる!」
「皆! 腹ぺこさんが食材系のアイテムは納品依頼超過分をここに持って帰ってきて欲しいだって! その分ご飯は作るから皆によろしく伝えてって言ってた」
「ほんとだ。クランチャットにも料理担当からのお知らせって来てるね」

 俺は訪ねてきたプレイヤーの対応をしていたので、その間に皆が更に仲良くなったり、クランが勝手に回りだしてるのはちょっと感動だ。

「ユーマに客だ。あの部屋に通すから対応してくれ」
「了解」

 ガイルがそう言うってことは、俺が出るべき相手ってことだろう。

「誰だろ?」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」

 俺はちょっとだけワクワクしながら、誰か来たときのために使おうと決めていた一階の一室で待っていると、その扉が開かれた。

「ユーマさんお久しぶりです」
「ユ、ユーマ、さん、久しぶり」

 入って来たのはミカさんとくるみさん。なんかくるみさんが少しだけ前と雰囲気が違う気がする。

「お二人ともどうしたんですか?」
「私達団長からユーマさんに伝言を預かってきました」
「あぁ、テミスさんから。何ですか?」
「ほらっ、くるみ言って」
「ぁ、ぁの……ユーマ、さんの、家に、北の街に着いたら、行かせて欲しいって、お話、です」
「く、くるみさん? その話し方はどうしました?」

 さっきから目を合わせてもらえないし、下を向いてぼそぼそ話している。

「くるみはユーマさんが元最前線攻略組っていうことを、団員の人からさっき聞いちゃって。団長が『バレたならもうくるみがユーマに話をしてきて』って、くるみのこと伝言役に回して面白がってるんです」
「あぁ、そうなんですね」
「くるみもユーマさんに失礼な態度をとってたのは悪いですけど、団長も相当悪い顔してましたね。これはしばらくくるみで遊ぼうって」
「……ユーマ、さん、あたし色々自分のこと自慢して、最前線攻略組のことも悪く言って、ごめんなさい」

 あれだけいつもミカさんを振り回してそうなくるみさんが、今はすごく大人しい。

「いや、俺は別に何とも思ってないので。俺も自分が元最前線攻略組って言ってなかったですし。それにくるみさんは最前線攻略組のこと悪く言ってはなかったですよ」
「あたしユーマ、さん、に『ユーマが女ならあたし達のクランに紹介しても良かった』なんて、馬鹿みたいなこと」
「ま、まぁそれは、うーん。くるみさんが俺のことを高く評価してくれた、ってことで……」
「あたし自分より凄い人を、こんな上から目線で……」

 相当くるみさんは過去の自分の行いを反省しているし、凄く恥ずかしそうだ。

「だから私はあんまり調子に乗らないよう、いつもくるみには言ってたのに」
「……ごめんなさい」
「まぁ、俺はこれまで通りで良いから。なんかくるみさんから無理にさん付けで呼ばれるのも慣れないし」
「……ごめんなさい」

 まぁくるみさんのこの状態は時間が解決してくれるとして……

「あの、テミスさんからの伝言の返事だけど、俺の家は紹介出来ないって言ってもらっていいですか?」
「あ、分かりました。団長もユーマさんにたぶん断られるって言ってたのでそれは大丈夫です」
「じゃあテミスさん本当にくるみさんで遊ぶためだけに伝言頼んだんだ。優美なる秩序って今結構忙しいと思うんだけど」
「息抜きにくるみが恥ずかしがってる所を見たいとかなんとか」
「あはは、なんかテミスさんっぽい気がするなぁ」

 何故か俺はテミスさんに昔から気に入られてるため、困らされたり恥ずかしい思いをしたことはないけど、結構テミスさんの周りの人は大変そうなイメージがある。

「まぁそれがテミスさんの魅力か。ププさんは今どんな感じですか?」
「ププ先輩はいつも通り団長のサポートですね」
「あの……疲れてそうでした?」
「いえ、団長がユーマさんにププさんをあまり困らせるなって言われたとかで、いつもよりププ先輩の言うことを聞いてますよ」
「それなら良かったです」

 どうやらミカさん達の話は本当にこれで終わりらしい。

「あ、そういえば何でここが俺のクランだって分かったんですか?」
「団長が最前線攻略組のタピオカさんに聞いたとかなんとか」
「あ、そうだったんですね」
「……あの、くるみは本当に団長から遊ばれてるだけですけど、私はププ先輩からクランハウスがどんな感じか、少し見て来てと言われました」
「あ、それはなんとなく分かってましたよ。ミカさんだけこのクランハウスに入ってから凄くキョロキョロしてましたし」
「バ、バレてたんですね」
「たぶん商人ギルドで頼めば見学とか出来ると思いますけど、それはしないんですか?」
「今はレベル上げが忙しいので、私とくるみくらいしか余裕がないんですよね。私達もお手伝いをしているのでそこまで時間はないですし、団長の遊びのついでにちょっと中を見てきて、という感じです」

 テミスさんがくるみさんに恥ずかしい思いをさせるためだけにここへ送ってきた裏で、ププさんからミカさんが頼まれた話も聞けて、優美なる秩序の役割みたいなのが、分かりやすく出た内容だった。

「じゃあミカさんもくるみさんも頑張って」
「はい、ありがとうございました」
「……ありがとうございました」

 こうして優美なる秩序の2人はこのクランハウスを出て行った。

「優美なる秩序からユーマへ話があるってことで通したが、何だったんだ?」
「まぁ向こうのクランリーダーが、ちょっと自分のとこのクラン員をからかってたのかな」
「どういうことだ?」
「簡単に言うと何も無かったよ。俺達のクランハウスを見学に来ただけ」
「そうか。有名なクランでも次からは通さないようにするか?」
「そうだね、全部内容で決めよう。うちは新生クランで全く歴史なんか無いし繋がりもない、皆コネファンで集まったメンバーだからね。相手のクランが有名だろうが無名だろうが、うちにとって良さそうな話なら聞くし、迷惑そうな話なら断ろう」
「分かった。それなら俺の基準だとさっきの2人は良く分からねぇし追い返してたが、良いのか?」
「まぁ良いと思う。中身は全く無い話だったし、向こうもそれで怒ることは無いだろうからね。そもそも優美なる秩序の人とはフレンドだから、直接俺に聞きたいことがあったら連絡出来るし」

 このことからもテミスさんはくるみさんの恥ずかしそうな姿を見るためだけに、ここへ送り込んだのは明らかだ。

「クラン長、僕達行ってきますね!」
「副クラン長、俺達も行ってきます!」
「あ、皆頑張ってね」
「早くレベル上げて西の街に来てくれよ」

 俺とガイルに声をかけて出て行くクランメンバーが何人も居て、気付けばクランハウスの中はほぼ空になっていた。

「じゃあ俺も行こっかな」
「家に帰るのか?」
「いや、しばらくはクランの皆をサポートするって決めてたし、今意外な人からチャット来ててね。そっちを手伝って来るよ」
「ユーマも程々にな。こっちは俺とメイで今のところは楽しく回せてる、そっちも好きにやってくれ」
「ありがとう、じゃ、俺も行ってきます」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」

 俺達はクランハウスを出て少し明るくなってきた道を歩き、街のクリスタルを目指すのだった。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

動物大好きな子が動物と遊んでいたらいつの間にか最強に!!!!

常光 なる
ファンタジー
これは生き物大好きの一ノ瀬夜月(いちのせ ないと)が有名なVRMMOゲーム Shine stay Onlineというゲームで 色々な生き物と触れて和気あいあいとする ほのぼの系ストーリー のはずが夜月はいつの間にか有名なプレーヤーになっていく…………

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...