最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

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第135話

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「まだ訓練したいんだね」
「はい!」
「俺はいいよ」
「ありがとうございます!」

 モニカさんとモルガはカーシャさんの待つ冒険者ギルドへ、キプロは自分のお店へ帰ったのだが、ハティは俺のところへ来てもう少し訓練をつけてほしいと言ってきた。

「モニカさん達のパーティーには入らなかったの?」
「キプロさんも自分も入る予定ですが、少しだけ待ってもらいました」
「何で?」
「キプロさんはこれからプレイヤー様のお客が多くなるから、それに備えて装備を作るとのことです。自分はそれならキプロさんがパーティーに入るまで、自分でもう少し戦いの練習をしようと思って待ってもらうことにしました」
「そっか。じゃあ今日は昼前まで予定はないし、俺が教えるよ」
「ありがとうございます!」
「でも明日からはモニカさん達について行く方がいいと思う」

 もしかしたらキプロのタイミングで自分も入ろうって思ったのかもしれないが、キプロはサポーターとして活動してるし、ハティと同時にパーティーへ入っても最初から差はある。

「訓練の時にも言ったけど、ハティには実戦の経験が足りてないから、誰よりも多く、誰よりも早く冒険者としての経験は積んだ方がいいよ」
「……確かにそうですね。自分はキプロさんと一緒にって気持ちがありました。でも自分が1番遅れてるのに人と合わせてたら、絶対に追い付けないですよね」
「ま、こんなこと言ったけど先は長いから、焦る必要はないと思う。でも俺がハティ達に教えられる時間は限られてるからね。今のうちにどんどん吸収して欲しい」
「分かりました!」
「じゃあ訓練しよっか」

 ということでまたさっき訓練していた同じ場所へ戻ってきた。

「サイさん居ますか?」
「どうされましたか?」

 何もないところから急にサイさんが現れるのにも慣れた。

「ハティの攻撃を受け流してもらっても良いですか? 外からハティの動きを見たくて」
「かしこまりました」
「ちなみにハティへ攻撃とかは出来ないですよね?」
「ハティお嬢様が望むなら、私は攻撃もしますが」
「ってことだけど、ハティどう?」
「サイ、自分に攻撃してきて」
「かしこまりました」
「力加減はサイさんに任せます」

 ということでサイさんとハティに戦ってもらう。

「ハティお嬢様、右側がガラ空きです」
「うっ、」
「次は左側が。頭部は必ず守ってください。生きていくれさえすれば、私が助けられますから」
「くっ、」

 サイさんはハティをずっと見てきたからか、力加減もハティの限界を攻めるのも上手い。

「(これサイさんにハティを教えてもらうのが1番良いんじゃないか?)」

 俺やモニカさん、モルガはハティをこれから知っていく段階だけど、サイさんはずっとハティを見てきたから、ハティの相手をするのが本当に上手い。

「おつかれ、ハティ的にはどう?」
「はぁ、はぁ、つ、疲れ、ました」
「ハティお嬢様は成長されてますよ」
「サイさんはハティと手合わせしたことあるんですか?」
「お遊び程度のものです。その時は私から攻撃することはありませんでしたし、何か言うこともありませんでした」
「ハティはサイさんに鍛えてもらおうと思わなかったの?」
「はぁ、サイは、自分を、はぁ、護衛する仕事だから」

 なるほどね。

「て、言ってますけど、俺としてはサイさんにハティを鍛えてもらって、ある程度戦えるようになってもらってから、モニカさんとかモルガに教えてもらうのが1番いいと思うんですよね。サイさん的にはそれは出来ないですか?」
「ハティお嬢様の許可をいただければ、私は協力させていただきます」
「てことだけどハティはどう? ちなみにサイさんはハティへ教えることは負担に思ってないですよね?」
「はい」
「……サ、サイ、よろしく」
「かしこまりました」
 
 ということで、ハティには素晴らしい専属の先生がついた。

「じゃあこれからサイさんにハティは頼ってもらって、モニカさんとかと活動してる時はそっちで頑張ろっか」
「はい」
「よし、じゃあ折角だし今から俺も教えようかな」
「よろしくお願いします!」

 さっきのハティとサイさんの戦いを見て俺が思ったことを、ハティへとアドバイスする。

「ハティは相手を倒そうとする気持ちはある。だけど、自分の身体が追いついてないかな。技術も体力も足りてなくて、頭で考えてる動作が出来てないんだと思う。あと、自分で思ってる以上に今は動けてないと思うから、そこらへんの感覚を鍛えていこうか」
「分かりました」
「でも、こう動きたい!っていうビジョンがあるだけでも良いことだから、ここから修正と成長をどんどんしてこう」
「はい!」

 片手剣にまだまだ振り回されてはいるが、少しずつそれっぽい動きもできるようになってきた。

「明日試してもらう予定だけど、たぶんハティは盾を使うことはなさそう。槍もなくて、両手剣と大剣もたぶんないな。片手剣と短剣と弓、あとハティに才能があって、モルガにも教えてもらえるなら魔法も合ってるかも。まぁこれは明日以降決めるんだけど、一応俺から見るとハティにはその中のどれかが合ってそう」
「覚えておきます!」
「今のハティの良さは、とにかくその想像力。ただ、その想像力は自分の動きだけだから、相手が何をしてくるかも考えられるようになると良いね。それが出来たらあとは体力と技術を付けてくだけだよ」
「頑張ります!」

 そしてハティと俺が戦い、休憩してサイさんとハティが戦う。これを繰り返して時間は昼前まで過ぎていくのだった。



「よし、これくらいかな」
「ありが、とう、ございまし、た」
「ち、ちょっと詰め込みすぎたかな?」
「……私も少しやり過ぎました」
「いや、でもハティはこれくらいやってほしいと思うから、サイさんはそのままで居てください」
「……私、ハティお嬢様に嫌われないですか?」
「たぶん?」

 近くで居るのに俺とサイさんの話も聞こえてないのか、ハティはその場でただただ休憩している。

「じゃあ俺はちょっと取りに行くものがあるんで、行ってきます」
「かしこまりました」
「ちょっと中で寝てしまわないか心配ですけど、お風呂に入っても良いので、意識が戻ったらハティへ伝えてください。勿論サイさんも入りたかったら入ってくださいね」
「ありがとうございます」

 お風呂ではハティが溺れないように、ゴーさんにもハティのことは気にかけるよう言っておく。

「さて、どんな布団が出来てるのかな」

 俺はハティ達に別れを告げたあと、クリスタルから西の街へと移動し、布団を頼んだお店まで行く。

「あの、布団を注文してたんですけど出来てますか?」
「お、出来てるよ。大きいのがこれ、あとは同じサイズだよ。色はどうすればいいか分からなかったから、こっちの都合で大きいのを暗い色にしたけど、良かったかい?」
「はい、それで大丈夫です。ありがとうございました」
「インベントリかい。プレイヤー様は便利だねぇ」

 出来上がった布団は全て普通の布団と変わらないように見えたが、たぶん全然寝心地とかが違うんだろう。

「間違ってもその布団へは生半可な気持ちで入ったら駄目だよ」
「そ、そんなにですか?」
「寝ると決めてから入らないと、その布団のせいで寝坊しても責任は取れないからね」
「そんなに凄いんですね」
「起きるのは普通の布団と変わらないから、目覚ましをかけてから入るように」

 なんかこの布団を使うにあたっての注意事項を言ってくれてるのは分かるけど、小さい頃親から目覚ましをかけて自分で起きなさい、と言われていた時を思い出してしまった。

「じゃあ本当にありがとうございました」
「また同じようなものを作って欲しかったら作るからね」
「はい、失礼します」

 こうして俺は夢の羊毛布団と枕をインベントリに入れ、家まで帰ってきた。

「あ、サイさん」
「ハティお嬢様は今入浴中でございます」
「そうですか。あの、ちょっと皆にこの布団と枕を渡してほしくて。この暗い色のはサイさんのやつです。こっちは女性陣で好きな色を選んでもらって、自由に使ってください。全然今使ってる自分のやつで良いって人は使わなくていいんで、その場合はどっか端っこの方に置いといてください」
「預かることに問題はありませんが……こちらの布団はどういったものなのですか?」
「夢の羊毛っていう素材を使ってます。夜探索へ出かけた時いっぱい取ったんですよね。俺は知らないですけど、なんか人気あるみたいで」
「いっぱい? そ、そうですか」
「なのでこれを皆に渡すのサイさんに任せて良いですか?」
「かしこまりました」
「この布団を使うにあたって注意事項があるんですけど、とにかく布団へ入る前に準備してから入れとのことです」
「皆様には必ずお伝えします」
「じゃあお願いします」

 サイさんに布団を預け、俺はウル達と一緒に新しい自分の寝室へ行く。

「よし、新しい枕と布団をセットして、オッケー。この部屋も全然広いし、ウル達も窮屈じゃないよな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「じゃあまた明日。明日からは第2陣が入ってきて、クランで勧誘とかするかもしれないから、そのつもりでよろしく。心配しなくてもちゃんと王都も目指すからね」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
「それじゃあ皆おやすみ」

 そうウル達に声をかけて、俺はログアウトした。

「……めちゃくちゃ柔らかくて気持ち良かったけど、プレイヤーにはあの布団の効果は無かったな。もしかしたら状態異常無効が効いてるのかもしれないけど」

 少しだけ眠ったままログアウトする可能性も考えてたけど、そんなことはなく現実に戻ってきた。

 今から寝ても明日の12時には余裕で間に合うので、少しだけ攻略組の動画やSNSを見てみる。

「明日から参加してくる攻略組は多そうだな」

 最前線攻略組も言っていたが、他の攻略組が居なくてずっと最前線攻略組がほぼ独走状態だった。
 ただ明日からは違う。

「俺が競うわけでもないのに楽しみだな」

 おそらく俺がいる場所まではすぐに攻略組なら来るだろう。俺の予想だと現実世界の時間で2日もあれば余裕で追いつかれる気がする。
 勿論最前線攻略組や他の人の動画でそこまでのモンスター達を知っている前提ではあるが。

「俺達のクランも明日は勧誘するか」

 自分のクランがあることにまだ実感がないが、少しずつ慣れていくだろう。

「……よし、そろそろ寝ようかな」

 俺はいつもならすぐに寝ることが出来るが、明日が楽しみで頭の中に色んなやりたいことが浮かび、しばらく眠ることが出来ないのだった。


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