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第96話
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「やっぱり村だな」
ここから見える先にはピオネル村同様、もしモンスターの大群が押し寄せて来たらどうやって家を守るんだというような、木の柵で囲まれた村だった。
「えっと、ここかな、すみませーん」
「はいはい、どちらさんです?」
「配達依頼で来ました」
「あぁこりゃどうも、わざわざ遠いところありがとうございます」
「あの、ここってクリスタルは無いんですか?」
「そうですね。あぁ、確かプレイヤー様はクリスタルを移動できるんでしたね」
「はい、なのでクリスタルで帰ろうと思っていたんですが、また歩いて帰るしかなさそうですね」
「そうなんですよ。何もない村ですけど、帰る前にゆっくり休憩していってくださいね」
配達依頼は無事終わったが、まさかのクリスタルが無い村だということで、また徒歩で今来た道を帰るしかなかった。
「あれ、そこで何してるんです?」
「ん? プレイヤー様かい、珍しいね。これは焼き芋を焼いてるのさ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
「欲しそうだね、少しいるかい?」
「すみません、お願いしてもいいですか?」
手際よく焼き芋を焼いていた村人のお言葉に甘えて、焼き芋ができるまで横に座って待つ。
「プレイヤー様はどうしてここに?」
「アウロサリバの冒険者ギルドで配達依頼を受けてここに来ました」
「なるほどねぇ、ちなみにまた来ようと思うかい?」
「え、えっと、その」
「いや、意地悪な質問をしてごめんね。クリスタルもないし用がなければ来ることのない村なのは分かってるさ」
「いや、まぁ悪い村だとは思いませんよ」
「交通手段が無くて、規模も小さくて、人も少ない村さ」
「ま、まぁそうかもしれないですけど」
「でも、それが良いのさ。プレイヤー様はそう思わないかもしれないけどね」
「この村の良さですか」
「何もないからこそ、何でも出来る。言っていることが分からないかもしれないけど、そういうことさ」
焼き芋を掘り出してウル達に分けてくれる。
「ほら、プレイヤー様も食べな。少し多めにあげるからね」
「じゃあそれはおやつの時に皆で分けて食べますね。いただきます。あ、美味しい」
「口に合って良かった。こうやって外で焼き芋を焼くのも街だとやり辛いけど、ここなら何も気にせず出来るだろう?」
「まぁそうかもしれないですね」
「もちろん不便なことはいっぱいあるけど、便利なことの方がしんどいこともあるのさ」
「便利な方がしんどい、ですか」
「まぁそういうこともあるってことさ。ちなみに言っておくと、別にこの村は普通の人が住んでいるからね」
「あ、その、ちょっとだけ訳ありの人達が住んでるのかと思ってしまいました」
「まぁ他の村だとそういうこともあるけどね。そういう村は外から来た人を警戒するのさ」
確かにさっき配達依頼で届けに行った配達先の人も、こっちを警戒してるような感じはしなかった。
「ただ、たまに人は居なくなるよ」
「え、それってどういうことですか?」
「さぁね。どこかの街に行ったのか、それとも……いや、あとは想像に任せるよ」
急にホラーっぽいのやめくれ! と俺は思いながらも、その悲しげな表情を見るに何か過去にあったのかもしれない。
「街が恋しくなって村を出ていくとかはあるかもしれないですね。で、しばらくしたら次はこの村が恋しくなって帰ってくるかも」
「まぁそういうこともあるかもしれないね」
「街に行ってまたここに帰ってくる人とか、誰か居たりしないんですか?」
もうこの空気に耐えられないため、俺は無理やり話題を変えた。
「あぁ、それで言うとプレイヤー様のために西の街まで働きに出てた魔術師が昨日帰ってきたよ」
「へぇ、魔術師ってことは冒険者ですか? それとも学校の先生とか?」
「一応冒険者だったね」
ということは今は冒険者を引退したあとなのかもしれないな。西の街まで働きに出てたってことはまだ魔術師としては現役かもしれないし、昔すごかった人かもしれない。
「焼き芋の匂いーーー!」
「あ、娘さんですか?」
「丁度今話してた魔術師さ」
「え、ここにプレイヤー様? もしかしてまだ残ってた?」
「この人は配達依頼でここまで来た人さ」
「なんだ、まさか教え忘れた人がいたのかと思った」
「教え忘れるって、魔法の先生をしてたんですか?」
「そうそう、本当に少し前までプレイヤー様に教えてたんだ」
「俺は魔法とか使わないので分からないですけど、教えて出来るようになるものなんですか?」
「まぁそこはその人次第かな。もちろんセンスもあるけど、努力で伸ばせる部分もいっぱいあるからね」
焼き芋の匂いにつられてやって来た魔法の先生は、自分の分の焼き芋をもらうと俺の横に座った。
「それにしてもよくここまで来たね。昨日この村に帰ってる時改めて遠いなって思ったのに」
「遠かったですけど村はあると思ってたんで、ここに来たらクリスタルで帰れると思ってました」
「なるほど、確かにプレイヤー様はそれで帰れるもんね」
「なのであてが外れてアウロサリバにまた歩いて帰る前に、少しここで休憩させてもらってました」
「クリスタルがあるとプレイヤー様はすぐこの村に来れるのかぁ」
「でもクリスタルが無くて良いと思います。この静かな感じはプレイヤーが来るようになったら失われてしまいそうですし」
「それはそうなんだけど、不便なのは嫌だなぁ」
魔法の先生はここで会った人達と比べてもだいぶ若いので、もしかしたらこの村に合わない部分もあるのかもしれない。
「じゃあお先に家へ帰らせてもらうよ。プレイヤー様もここに来たらまた焼き芋なら食べさせてあげるからね」
「ご馳走様でした、美味しかったです。ありがとうございました」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
「ぼくは明日も食べに来るねー」
こうして焼き芋を焼いてくれた人は家に入っていったが、まだ魔法の先生は焼き芋を食べている。
「あの、聞いていいかわからないんですけど、何で魔法の先生はこの村に住んでるんですか?」
「魔法の先生なんてやめてよ。ぼくのことはモルガって呼び捨てで呼んでくれていいから。口調ももっと話しやすく、ね?」
「分かった。じゃあもう1回聞くけど、モルガはなんでこの村に?」
「冒険者をメインで活動してた時期があるんだけど、その時に結構頑張って有名になったんだ。で、そこから皆ぼくのことをパーティーに勧誘してくれて、最初は嬉しかったんだけど、どんどんそれがしんどくなってきてね。もう人と関わるのは嫌だって思って、誰にも声をかけられないこの村に来たんだ」
「でもさっき西の街に働きに行ってたって」
「それはプレイヤー様に魔法を教えて欲しいって依頼が来たから。面白そうだと思って久しぶりにこの村から何日も離れてたんだ。予想通り面白かったから良かったよ」
モルガは本当に楽しかったようで、その時の話をしている間はずっと笑っていた。
「冒険者としての資格も持っておきたいから、たまに街に出て依頼は受けてるんだけど、またここから出て冒険者をしてみてもいいかなとは思えたね」
「そんなにプレイヤー達に魔法を教えるのって面白かった?」
「教えるのが面白いんじゃなくて、プレイヤー様の存在自体が、自然なぼくをそこに居させてくれたって感じ」
「ん? なるほど?」
「プレイヤー様がこの世界に来てから、どこもかしこもプレイヤー様の話でいっぱいだから。ぼくが冒険者としての活動を再開しても、今ならその影に隠れられるかなって」
「目立つのが嫌ってこと?」
「うーん、まぁ大体そうかな?」
俺が魔法を知らないからか、冒険者のしくみを知らないからか、はたまた彼女のことを知らないからか、理解力がないからか、あまりモルガの気持ちを分かってあげることは出来なかったが、プレイヤーの存在が彼女にとってプラスになっているのなら良かった。
「あ、このアイスあげるよ。もう1つはさっき焼き芋をくれた方に渡して欲しいな。お礼に渡すの忘れちゃった」
「お、これは美味しそう?」
「まぁパッケージだけ見ても分からないし、無理に言わなくてもいいよ」
「ここで食べても良い?」
「どうぞどうぞ」
俺はスプーンを渡そうとしたが、その間にモルガはスプーンを家へ急いで取りに帰って、また戻ってきた。
「美味しい! うん、美味しいけど、なんかどこかで食べたような?」
「一応違うパッケージで北の街の商人ギルドから毎日売ってたからね」
「それだ! 魔法の授業後にプレイヤー様が作ったアイスってことで、何個か渡されたものと一緒! あれ君が作ってたの?」
「捕獲したマウンテンモウから絞って加工しただけで、今は自分で作ることすらしてないけどね」
「でも本当に美味しいよ。アウロサリバの商人ギルドでも買えるかな?」
「いや、今は北の街でスイーツ店をしてる知り合いがいて、そこで売ってもらってるから無いかも」
「そっかぁ、じゃあ今度行ってみようかな」
「他にも育てた果物はそこに売ることになってるし、俺の作ったもので良いなら聞いてみて。一応他のプレイヤーのものも売ってる可能性があるから、ユーマって名前のプレイヤーが作った商品を探してもらえるといいかな」
「ユーマね、分かった! プレイヤー様の作った商品ってことで、たぶん値段は高いだろうなぁ」
確かにそういうのはあるかもしれない。
この世界ではプレイヤーというだけで気に入っている人が居ることも知ってるし、プレイヤーメイドというだけでもNPCにブランド品として認識されるというのは大いにありそうだ。
「いやでも、プレイヤーメイドの商品が高くなるなんてあるのか? この段階だと絶対にこの世界の人が作ったやつのほうが質は良い気がするけど」
「あのプレイヤー様がまだ駆け出しだった頃の武器! とか、そういう感じで買う人も居るのは否定できないね。でも、ユーマのは本当に美味しかったから、たぶん高いんじゃないかな? ホントなんでこんなに美味しいんだろう」
「コレクション的な要素もあるのか。まぁ食べ物にはそういうの少ないと思うし、プレイヤーってだけじゃなくて、本当に味でも評価されてるって思っても良さそう」
「そうそう。自信持っていいよ」
モルガにそう評価してもらえたのは嬉しいが、別に俺は農家でもなければ料理人でもないんだよな。
「そうだ、お礼に魔法教えよっか?」
「俺は生活魔法以外使わないけど」
「魔獣は使うでしょ? その妖精? 精霊? さんは魔法使いじゃないの?」
「……!」
「それならウルも氷魔法は使うかな」
「クゥ!」
「そうなんだ。珍しいね」
「でも教えてもらうって言ってもどこで?」
「少し外に出よっか。先にあのアイスは渡してくるね」
そう言ってモルガは焼き芋を焼いてくれた人の家に入っていった。
「そんなに簡単に入れるなら、俺もついてって直接渡せば良かったな」
時すでに遅し、俺が焼き芋おじさんにもう一度挨拶しに行こうとした時には、モルガはもうアイスを渡し終わって、俺達を村の外へと案内してくれるのだった。
ここから見える先にはピオネル村同様、もしモンスターの大群が押し寄せて来たらどうやって家を守るんだというような、木の柵で囲まれた村だった。
「えっと、ここかな、すみませーん」
「はいはい、どちらさんです?」
「配達依頼で来ました」
「あぁこりゃどうも、わざわざ遠いところありがとうございます」
「あの、ここってクリスタルは無いんですか?」
「そうですね。あぁ、確かプレイヤー様はクリスタルを移動できるんでしたね」
「はい、なのでクリスタルで帰ろうと思っていたんですが、また歩いて帰るしかなさそうですね」
「そうなんですよ。何もない村ですけど、帰る前にゆっくり休憩していってくださいね」
配達依頼は無事終わったが、まさかのクリスタルが無い村だということで、また徒歩で今来た道を帰るしかなかった。
「あれ、そこで何してるんです?」
「ん? プレイヤー様かい、珍しいね。これは焼き芋を焼いてるのさ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
「欲しそうだね、少しいるかい?」
「すみません、お願いしてもいいですか?」
手際よく焼き芋を焼いていた村人のお言葉に甘えて、焼き芋ができるまで横に座って待つ。
「プレイヤー様はどうしてここに?」
「アウロサリバの冒険者ギルドで配達依頼を受けてここに来ました」
「なるほどねぇ、ちなみにまた来ようと思うかい?」
「え、えっと、その」
「いや、意地悪な質問をしてごめんね。クリスタルもないし用がなければ来ることのない村なのは分かってるさ」
「いや、まぁ悪い村だとは思いませんよ」
「交通手段が無くて、規模も小さくて、人も少ない村さ」
「ま、まぁそうかもしれないですけど」
「でも、それが良いのさ。プレイヤー様はそう思わないかもしれないけどね」
「この村の良さですか」
「何もないからこそ、何でも出来る。言っていることが分からないかもしれないけど、そういうことさ」
焼き芋を掘り出してウル達に分けてくれる。
「ほら、プレイヤー様も食べな。少し多めにあげるからね」
「じゃあそれはおやつの時に皆で分けて食べますね。いただきます。あ、美味しい」
「口に合って良かった。こうやって外で焼き芋を焼くのも街だとやり辛いけど、ここなら何も気にせず出来るだろう?」
「まぁそうかもしれないですね」
「もちろん不便なことはいっぱいあるけど、便利なことの方がしんどいこともあるのさ」
「便利な方がしんどい、ですか」
「まぁそういうこともあるってことさ。ちなみに言っておくと、別にこの村は普通の人が住んでいるからね」
「あ、その、ちょっとだけ訳ありの人達が住んでるのかと思ってしまいました」
「まぁ他の村だとそういうこともあるけどね。そういう村は外から来た人を警戒するのさ」
確かにさっき配達依頼で届けに行った配達先の人も、こっちを警戒してるような感じはしなかった。
「ただ、たまに人は居なくなるよ」
「え、それってどういうことですか?」
「さぁね。どこかの街に行ったのか、それとも……いや、あとは想像に任せるよ」
急にホラーっぽいのやめくれ! と俺は思いながらも、その悲しげな表情を見るに何か過去にあったのかもしれない。
「街が恋しくなって村を出ていくとかはあるかもしれないですね。で、しばらくしたら次はこの村が恋しくなって帰ってくるかも」
「まぁそういうこともあるかもしれないね」
「街に行ってまたここに帰ってくる人とか、誰か居たりしないんですか?」
もうこの空気に耐えられないため、俺は無理やり話題を変えた。
「あぁ、それで言うとプレイヤー様のために西の街まで働きに出てた魔術師が昨日帰ってきたよ」
「へぇ、魔術師ってことは冒険者ですか? それとも学校の先生とか?」
「一応冒険者だったね」
ということは今は冒険者を引退したあとなのかもしれないな。西の街まで働きに出てたってことはまだ魔術師としては現役かもしれないし、昔すごかった人かもしれない。
「焼き芋の匂いーーー!」
「あ、娘さんですか?」
「丁度今話してた魔術師さ」
「え、ここにプレイヤー様? もしかしてまだ残ってた?」
「この人は配達依頼でここまで来た人さ」
「なんだ、まさか教え忘れた人がいたのかと思った」
「教え忘れるって、魔法の先生をしてたんですか?」
「そうそう、本当に少し前までプレイヤー様に教えてたんだ」
「俺は魔法とか使わないので分からないですけど、教えて出来るようになるものなんですか?」
「まぁそこはその人次第かな。もちろんセンスもあるけど、努力で伸ばせる部分もいっぱいあるからね」
焼き芋の匂いにつられてやって来た魔法の先生は、自分の分の焼き芋をもらうと俺の横に座った。
「それにしてもよくここまで来たね。昨日この村に帰ってる時改めて遠いなって思ったのに」
「遠かったですけど村はあると思ってたんで、ここに来たらクリスタルで帰れると思ってました」
「なるほど、確かにプレイヤー様はそれで帰れるもんね」
「なのであてが外れてアウロサリバにまた歩いて帰る前に、少しここで休憩させてもらってました」
「クリスタルがあるとプレイヤー様はすぐこの村に来れるのかぁ」
「でもクリスタルが無くて良いと思います。この静かな感じはプレイヤーが来るようになったら失われてしまいそうですし」
「それはそうなんだけど、不便なのは嫌だなぁ」
魔法の先生はここで会った人達と比べてもだいぶ若いので、もしかしたらこの村に合わない部分もあるのかもしれない。
「じゃあお先に家へ帰らせてもらうよ。プレイヤー様もここに来たらまた焼き芋なら食べさせてあげるからね」
「ご馳走様でした、美味しかったです。ありがとうございました」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
「ぼくは明日も食べに来るねー」
こうして焼き芋を焼いてくれた人は家に入っていったが、まだ魔法の先生は焼き芋を食べている。
「あの、聞いていいかわからないんですけど、何で魔法の先生はこの村に住んでるんですか?」
「魔法の先生なんてやめてよ。ぼくのことはモルガって呼び捨てで呼んでくれていいから。口調ももっと話しやすく、ね?」
「分かった。じゃあもう1回聞くけど、モルガはなんでこの村に?」
「冒険者をメインで活動してた時期があるんだけど、その時に結構頑張って有名になったんだ。で、そこから皆ぼくのことをパーティーに勧誘してくれて、最初は嬉しかったんだけど、どんどんそれがしんどくなってきてね。もう人と関わるのは嫌だって思って、誰にも声をかけられないこの村に来たんだ」
「でもさっき西の街に働きに行ってたって」
「それはプレイヤー様に魔法を教えて欲しいって依頼が来たから。面白そうだと思って久しぶりにこの村から何日も離れてたんだ。予想通り面白かったから良かったよ」
モルガは本当に楽しかったようで、その時の話をしている間はずっと笑っていた。
「冒険者としての資格も持っておきたいから、たまに街に出て依頼は受けてるんだけど、またここから出て冒険者をしてみてもいいかなとは思えたね」
「そんなにプレイヤー達に魔法を教えるのって面白かった?」
「教えるのが面白いんじゃなくて、プレイヤー様の存在自体が、自然なぼくをそこに居させてくれたって感じ」
「ん? なるほど?」
「プレイヤー様がこの世界に来てから、どこもかしこもプレイヤー様の話でいっぱいだから。ぼくが冒険者としての活動を再開しても、今ならその影に隠れられるかなって」
「目立つのが嫌ってこと?」
「うーん、まぁ大体そうかな?」
俺が魔法を知らないからか、冒険者のしくみを知らないからか、はたまた彼女のことを知らないからか、理解力がないからか、あまりモルガの気持ちを分かってあげることは出来なかったが、プレイヤーの存在が彼女にとってプラスになっているのなら良かった。
「あ、このアイスあげるよ。もう1つはさっき焼き芋をくれた方に渡して欲しいな。お礼に渡すの忘れちゃった」
「お、これは美味しそう?」
「まぁパッケージだけ見ても分からないし、無理に言わなくてもいいよ」
「ここで食べても良い?」
「どうぞどうぞ」
俺はスプーンを渡そうとしたが、その間にモルガはスプーンを家へ急いで取りに帰って、また戻ってきた。
「美味しい! うん、美味しいけど、なんかどこかで食べたような?」
「一応違うパッケージで北の街の商人ギルドから毎日売ってたからね」
「それだ! 魔法の授業後にプレイヤー様が作ったアイスってことで、何個か渡されたものと一緒! あれ君が作ってたの?」
「捕獲したマウンテンモウから絞って加工しただけで、今は自分で作ることすらしてないけどね」
「でも本当に美味しいよ。アウロサリバの商人ギルドでも買えるかな?」
「いや、今は北の街でスイーツ店をしてる知り合いがいて、そこで売ってもらってるから無いかも」
「そっかぁ、じゃあ今度行ってみようかな」
「他にも育てた果物はそこに売ることになってるし、俺の作ったもので良いなら聞いてみて。一応他のプレイヤーのものも売ってる可能性があるから、ユーマって名前のプレイヤーが作った商品を探してもらえるといいかな」
「ユーマね、分かった! プレイヤー様の作った商品ってことで、たぶん値段は高いだろうなぁ」
確かにそういうのはあるかもしれない。
この世界ではプレイヤーというだけで気に入っている人が居ることも知ってるし、プレイヤーメイドというだけでもNPCにブランド品として認識されるというのは大いにありそうだ。
「いやでも、プレイヤーメイドの商品が高くなるなんてあるのか? この段階だと絶対にこの世界の人が作ったやつのほうが質は良い気がするけど」
「あのプレイヤー様がまだ駆け出しだった頃の武器! とか、そういう感じで買う人も居るのは否定できないね。でも、ユーマのは本当に美味しかったから、たぶん高いんじゃないかな? ホントなんでこんなに美味しいんだろう」
「コレクション的な要素もあるのか。まぁ食べ物にはそういうの少ないと思うし、プレイヤーってだけじゃなくて、本当に味でも評価されてるって思っても良さそう」
「そうそう。自信持っていいよ」
モルガにそう評価してもらえたのは嬉しいが、別に俺は農家でもなければ料理人でもないんだよな。
「そうだ、お礼に魔法教えよっか?」
「俺は生活魔法以外使わないけど」
「魔獣は使うでしょ? その妖精? 精霊? さんは魔法使いじゃないの?」
「……!」
「それならウルも氷魔法は使うかな」
「クゥ!」
「そうなんだ。珍しいね」
「でも教えてもらうって言ってもどこで?」
「少し外に出よっか。先にあのアイスは渡してくるね」
そう言ってモルガは焼き芋を焼いてくれた人の家に入っていった。
「そんなに簡単に入れるなら、俺もついてって直接渡せば良かったな」
時すでに遅し、俺が焼き芋おじさんにもう一度挨拶しに行こうとした時には、モルガはもうアイスを渡し終わって、俺達を村の外へと案内してくれるのだった。
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