最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

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第89話

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「お、お邪魔するぞ」
「あなた! お邪魔しますでしょ!」
「お、お邪魔します」
「どうぞ、楽にしてください」
「ユーマ様ありがとう。あなた、ユーマ様に感謝しなさい」
「ユーマくん、感謝する」
「あなた! くんなんて呼んで、プレイヤー様ですよ! 親しい仲ならまだしも、最初はユーマ様でしょ!?」
「ゆ、ユーマ様感謝する」

 モニカさんの両親のこのやりとりで、どちらが普段上の立場であるのかは分かってしまった。

「あの、俺は気にしませんから」
「そうですか? ユーマ様に感謝しなさい!」
「う、うむ」
「お母様、お父様、そんなやりとりをユーマの前でしないでくれ。私が恥ずかしい」
「モニカすまない」
「確かにそれはそうね。ごめんなさい」
「あの、もう少し予定の時間まではあったと思うんですが、何故家の前に?」
「それは少しでも早くモニカに会いたかったからだ!」
「私はこの人を止めたんですけどね。結局止めることが出来ず来てしまいました」

 ゴーさんが良いタイミングで食べ物と飲み物を持ってきてくれたので、そのままゴーさんと一緒に俺達はここから離れることにする。

「あの、少し用事があるのでまたすぐ帰ってきますね」
「ゆ、ユーマ?」
「ゴーさん、一緒に厩舎の方に行くよ」
「ゴゴ」

 モニカさん達をリビングに残して、俺達は厩舎に向かう。

「今日はマウンテンモウもライドホースもハセクさんがあんまり構ってくれないだろうし、俺達が遊びに行こう」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「ゴゴ」

「おーいみんなおやつだぞー」
『モウ』『ムウ』『『ヒヒン』』『ヒヒーン』
「外で食べるにはちょっと地面が濡れてるか?」

 雨のせいで少しだけ湿っているが、モンスター達は関係なく地面に寝転がるので、俺も外に座ってフルーツを食べる。

「美味いか?」
『ムウ』『ヒヒーン』
「今日はデザートばっかり食べてるけど、たまにはありだな」
「アウ!」「……!」
「ゴーさん、今日の昼ご飯は肉いっぱいにしてやってほしい」
「ゴゴ」「クゥ!」

 ルリとエメラの好物だけだとウルが可哀想なので、昼はウルの好物をゴーさんに作ってもらうことにしよう。

「ウルはやっぱり大きくて噛み応えのある肉が多いほうが良いか?」
「クゥ!」
「だってさ」
「ゴゴ」

 こうしてしばらくのんびりしていたが、フルーツも食べ終わったしそろそろ家に戻ろうと思う。

「じゃあな。たぶん今日はハセクさんが忙しくて来れないと思うから、そのつもりで居てくれ」
『モウ』『ヒヒン』
「新しく来たカシワドリ達とも仲良くしてくれよ」

 そうライドホース達に言い残して俺達は家へと向かった。

「帰ってきました」
「お、ユーマ、丁度呼びに行こうと思ってたんだ。家族だけの時間をくれてありがとう」
「いや、少し用事を思い出して外に出てただけなんで」
「ここからしっかりとユーマ達が外でライドホース達と居たのは確認している」
「今日はハセクさんが忙しいので代わりに俺達が面倒見ようかなと」
「分かった、そういうことにしておこう。お母様達がユーマとも話をしたいと言っているから、リビングまで行くぞ」
「了解です」

 俺を呼びに来ていたモニカさんと2人で少し話をした後、リビングに行きモニカさんのご両親の前に座る。

「ユーマ様、手紙でもお伝えしましたが本当にありがとうございます」
「いえ、俺がモニカさんを家に呼んだのは本当に気まぐれだったので、そこまで感謝されると困ります。むしろいつも助けてもらっているのは俺の方ですし」
「モニカから聞いていた通りの方のようですね。あなたからも何かユーマ様にないの?」
「ユーマく、様。モニカを連れ出してくれたこと感謝する。おそらくモニカが1人で外へ出るにはもう少し時間が必要だっただろう。1人で居るのは寂しいものだ。モニカを連れ出してくれた理由は気まぐれでも何でも良い。モニカが今幸せそうにしているだけで、私は満足だ」
「じゃあモニカがさっき言っていた通り、ユーマ様の家でこれからも住むことには賛成?」
「それはそれだ! モニカが家に帰ってくるのはマズイかもしれないが、せめて領内には連れ戻す!」

 モニカさんのお父さんが興奮しだしたが、モニカさんのお母さんはそれを見て少し嬉しそうだ。

「お父様、私はここに残るぞ。ユーマからの許可も得ているし、何より私がここに残りたいと思っているのだ」
「ならモニカ、お前はここに居て何をするのだ?」
「冒険者として活動するつもりだ」
「そうではない。ユーマくんにお前は何をしてやれるんだと聞いている」
「ユーマは私の知識や知恵を求める時がある。それにユーマは私が居て助かるとも言ってくれている」
「ここにはプレイヤー様のためにと考えて行動する者も多いはず。知識や知恵などお前ではない誰かにでも聞けば教えてくれるだろう。それにお前が居て助かるなら、自分の何がユーマくんを助けていると考えられるのか具体的に言ってみろ」

 モニカさんとモニカさんのお父さんの会話は喧嘩でもしているように聞こえるが、実際は2人とも楽しそうに少し笑顔を浮かべて強い言葉を言い合っているだけだ。

「ごめんなさい。ユーマ様から見たら喧嘩にしか見えないですよね」
「え、あ、まぁそうですけど。モニカさんのお母さんはあれを止めなくてもいいんですか?」
「あら、モニカさんのお母さんなんて言い辛いでしょ。ソフィアと呼んでくれて良いですよ? ダニエルのことも名前で呼んでください」
「じゃあソフィアさんと呼びますね」
「ええ、それで何故止めないかという話でしたが、あれが喧嘩ではなく父と娘の話し合いだからです。他所から見ればおかしいと思うかもしれませんが、モニカが家に居た頃はあのように2人で言い合うのが日常でした」

 モニカさんも、モニカさんのお父さんであるダニエルさんも、譲れないものがあるのか言い合いは続く。

「これをユーマさんに私から話すのは恥ずかしいのですけど、夫がモニカを領内に連れ戻そうと話しているのは私のためなんです」
「そうなんですか?」
「ここに早く来たのも、本当は私が早くモニカに会いたそうにしていたから、あの人が気を利かせて強引に連れてきてくれました。今も私がモニカには近くに居てほしいと思っていることに気づいて、あの人はあんなにもモニカを説得しようとしてくれているのです」
「じゃあダニエルさんはソフィアさんのためにモニカさんと言い合ってるんですか」
「ええ、そうです。ただダニエルは私だけでなくモニカのことも大好きですよ。あの人は私なんかよりモニカの幸せを本当に願っていますから。家よりもモニカを優先し、誰よりもモニカのためを思って行動するのはいつもダニエルです」
「じゃあダニエルさんはソフィアさんとモニカさん、どちらの味方なんですか?」
「どちらの味方でもあります。私とモニカの意見が違う時は、いつも私の代わりにあの人がモニカと話し合ってくれて、それを聞いて私かモニカのどちらかが折れると話し合いは終わるんです。そしてユーマ様と話してみて、私も今回はモニカの気持ちを優先することにしました」

 そう言ってソフィアさんは俺との話し合いを切り上げ、2人の言い合いに入っていく。

「あなた、ありがとう。モニカの気持ちを尊重することにしたわ。家から距離が遠いこと、気軽に会えないことは残念だけど、また私達が会いに来ればいいだけだもの」
「ソフィ、本当にいいのか?」
「ええ、これまでのように何年も会えないわけではないし、モニカの気持ちも大事にしたいわ」
「ソフィが良いなら私からはもう何も言うことはない」
「お父様、お母様、ありがとう」

 ソフィアさんが言った通り、2人の言い合いはソフィアさんの話を受けてすぐに終了した。
 そして話が終わったあとすぐにダニエルさんは俺に話しかけてくる。

「ユーマくんには私から1つだけ伝えておきたい。モニカには嘘をつかないであげてくれ。例えモニカのための嘘だとしてもだ。何か言いにくいことなら、嘘を吐くのではなく隠していて欲しい。大丈夫、隠し事は誰にでもあるものだ」
「えっと、気を付けますけど、もしモニカさんを傷付けるような事だとしても、嘘はつかない方が良いんですか?」
「まぁそうだな。そんなことで私の娘の心は折れないし、ユーマくんを恨むようなことも無い。なんせモニカは私達の自慢の娘だからな」
「そうね。心配になるくらい真っ直ぐで正直な娘です。だから、ユーマ様も真っ直ぐにモニカと接してあげてください」
「お父様、お母様」
「分かりました。モニカさんには嘘を言わないように気をつけますね」

 家庭によって色々な教育があるのだろう。とりあえずモニカさんのご両親からのお願いにできるだけ沿った行動を取りたいと思う。

「私達はユーマくんからその言葉が聞けて安心だ」
「ユーマ様、どうかモニカをお願いします」
「ユーマ、改めてこれからもよろしく頼む」
「分かりましたから、皆さん顔をあげてください」

 最近貴族に頭を下げられることが多い。これは珍しいことだと思うが、はたして良いことなのか悪いことなのか。

「じゃあゴーさんには料理の準備をしてもらおうかな。ソフィアさんとダニエルさんの分もね。好みも分からないだろうし、今回はモニカさんに出す料理と同じでいいよ」
「ゴゴ」
「ゴーさんの料理は美味しいんだ」
「そういえば人型のゴーレムを持っているなんてユーマくんは凄いな」
「確かにそうね。とても珍しい……」

 そこからはゴーさんの話や魔獣の話、畑の話など、料理が運ばれてくるまでずっと話が途切れることは無かった。


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